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1番目アタール、アタール・プリジオス

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自作の小説をまとめています。連載中です。 天才占星天文学者を名乗る不思議な『水晶玉』アタール・プリジオスとその弟子たちを巡る物語です。 月3〜4話くらいを目安に書いていきます。
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#水晶玉

1番目アタール、アタール・プリジオス(5)体温

1番目アタール、アタール・プリジオス(5)体温

 *

「その特殊眼、生まれつきか?」

「そうだよ」

博士の問いに、レミールは頷いた。
目蓋を伏したほんのわずかな眼差しからも、仄青い光が滲み出ていた。

彼はうっすらと自嘲気味に笑う。

「何の役にも立たないうえ、一族破滅させちゃったけどね…」

「お前を破滅させようとした一族など、破滅すればいいだろう」

アタール・プリジオスは表情を変えぬまま、強い語気で言う。

そして、隣りの美しき僧侶

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1番目アタール、アタール・プリジオス(4)僧侶

1番目アタール、アタール・プリジオス(4)僧侶

 *

レミールは目を見開く。

蒼い、聖なる瞳の色の美女…。

こんな辺鄙な寺に何故いる?

「……レミールさん? 私に何か御用でしょうか?」

「あ、いや…ちょっと追われてまして。匿ってもらいたいんですけど」

レミールの言葉に僧侶はかすかに首を傾げて、彼を上から下までじろじろ舐めるように眺めてから言った。

「私にですか? それともこの寺院に?」

「は?」

「どちらに匿ってもらいたいので

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1番目アタール、アタール・プリジオス(3) 逃亡者

1番目アタール、アタール・プリジオス(3) 逃亡者

 *

夜明けが近い…。

急がねばならない、とレミールは思った。
身一つで逃げ出したかったが、そばにまとわりつく『幽体』が口うるさく「巻物を忘れるな!」と叫ぶので、仕方なくその巻物だけは持ってきた。

東の空が白んできた。

まだ暗い西の空には月が遠く浮かぶ。

冷たい北風が頬を切るのを感じた。

「レミエラス。お前はあの男に“東へ行く”と言っておったな」

「ああ、そうだよ。天才先生、何か問題

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1番目アタール、アタール・プリジオス(2)  幽体

1番目アタール、アタール・プリジオス(2) 幽体

 *

「本当の姿?」

人語を話す『水晶玉』は、得意げにきらきらと虹色に輝いた。

そうだ。
この姿は、私が人の姿を棄てるときに選びしもの。

「人間の姿に、戻れるの?」

むろん、肉体は滅びておるから『幽体』となるがな。

「おばけじゃん!」

言い方に気をつけよ。

水晶玉は少し怒ったようだった。
夜闇のように暗くなった水晶玉に、レミールは恐る恐る触れる。
すると、今度は思い切りビカーッと強

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1番目アタール、アタール・プリジオス(1)  水晶玉

1番目アタール、アタール・プリジオス(1) 水晶玉

 *

星が輝く夜。

天を見上げた占い師は、首を傾げていた。
「アタール様、どうかされましたか?」
腕組みしたまま、まんじりとも動かないでいる老師に、弟子のレミールは尋ねる。
「分からんのだ…」
「何がです?」
「星が読めなくなってしもうたのだ。わしはもう占い師の天命を使い果たしてしもうたのかもしれん」
「本当ですか? なんと…」
レミールは残念そうに吐息する。

「よって、じゃ。レミール、そな

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