見出し画像

Stockholmの現代アート美術館 Fotografiskaを訪れる

4末の連休、かつて日曜出勤をした分の代休をつけて連休を延ばし、数年ぶりにSwedenを放浪した。今回のメインの目的はGotland滞在だったため、3度目となるStockholmはささっと済ませた感じだが、それでも2か所でアートの鑑賞をしたので、そのレポートをしたいと思う。

2回目の今回は、現代アート美術館のFotografiskaである。
Fotografiskaは、世界に5か所ある美術館で、実を言えばエストニアのTallinの館を2018年に訪れていたが、ずっと訪れたかったのは2010年に第一号として設立されたこちらのStockholmの方だ。ただ諸事情によりなかなか見学するに至らず、今回、3度目のStockholmにして漸く念願がかなった、というわけだ。
NYと上海には恐らく一生行かないので、次回はBerlinか、またStockholmに戻ってくるだろうな、と思わせるくらい、他の写真・現代アート関連の美術館とは一線を画した展示方法でハッとさせられるものがある、そんなシマ子お気に入りの美術館である。


【Fotografiskaについて】

新しい視点を刺激するFotografiska
写真とその歴史に関する深い知識、そして写真の進化に関するビジョンを持って、様々なジャンルにまたがるパワフルで比類のない展覧会を創造。
現在までに世界中で200人以上のアーティストと仕事をし、あらゆる背景を持つ、ジャンルを超えた世界一流のアーティストを、没入感のある環境で紹介するという、誇り高き遺産を築き続けているFotografiskaは、国際色豊かなコミュニティを持ち、写真、アート、文化が集う世界有数の場所である。

FotografiskaのHPより抜粋・意訳

さて、作品の紹介へ移ろう。
私が訪れた際には、主に3つの展示が行われていた。
例によって大部分の写真を撮ったわけではなく(膨大な量になってしまうので)、お気に入りのものと変わったものをメインで撮ったので、その幾つかを紹介しようと思う。


【展示① Cindy Sherman -Tapestries-】

名前は聞いたことがあるけれど、その作品をじっくり見たことはなかったCindy Sherman。もし上階に展示されていれば、歪んだ自撮りのタペストリーなど横目で見て通り過ぎてしまったかもしれないが、何しろ作品が入口のすぐ奥に、素敵な音楽とピッカピカの鏡張りの空間に配されており、見逃すことができなかった。
結果的には、こういう作品もあるんだなぁ、という感想しか抱けなかったが、インスタでも数多くの作品が見られるので、興味がある方は覗いてみていただきたい。

一過性のセルフィーという現代現象を翻訳
Cindy Sherman(1954年、New Jersey州Glen Ridge生まれ)ほどポストモダンを定義するアーティストはいない。彼女は、自分を様々なキャラクターに変身させ、アイデンティティやジェンダーの役割といったトピックを考察する写真シリーズで広く知られている。
2017年、彼女のInstagramのアカウントに新しいシリーズが登場し、顔加工アプリの現象に対するコメントとして歪んだ「自撮り写真」を投稿した。これらのSelfieは、今回の展示会のために巨大なタペストリーに変換された。

15世紀にまで遡るタペストリー作りの豊かな歴史を持つベルギーの伝統工芸を用いて、コットン、ウール、アクリル、ポリエステルで作られたタペストリー。それぞれの作品には異なる人物が描かれており、Shermanは髪や目の色、肌の色、顔の特徴、性別などの要素を操作している。

展示の説明を抜粋


これが一番有名な作品なのでしょうかね?
壁と鏡に投影された作品たち

割と気に入った作品、ベスト4。


【展示② Prix Pictet -Human-】

Pictet(ピクテ)賞とは、ジュネーブに本拠を置くPictet Groupによって 2008 年に設立された、写真と持続可能性に関する世界的な賞だそうである。

今年のテーマと展覧会名が「Human」で、"審査員により選ばれた12人の著名な写真家が、人間の物語と我々を取り巻く世界との関わり方について、独自のアプローチを披露した展示"、"紛争、幼少期、経済プロセスの崩壊から、人と産業開発の両方が残した痕跡、ギャングの暴力、国境地帯、移民まで、さまざまな問題に触れている"、という説明がある。


※参加している写真家名、テーマ、Bio、彼らのインスタもしくはHP(気に入ったアーティストのみ写真を載せています)。

・Hoda Afshar, Iran 
 題「Speak the Wind」

Hoda Afshar(1983-)
メルボルンを拠点に活動するイラン人ドキュメンタリー写真家。オーストラリア政府が運営するマヌス島収容センターで長期投獄に苦しむクルド系イラン人難民Behrouz Boochaniのポートレートを撮影し、2018年に受賞。

Wikipediaより
Untitled #1
Untitled #2
言葉で説明ができないけれど、訴えかけてくる何かがありますよね。
左上から反時計回りに: Untitled #10、47、11


・Gera Artemova, Ukraine
 題「War Diary」

Gera Artemova(1973-)
キエフを拠点とするグラフィックデザイナー、アートディレクター。キエフの写真学校に通った後、2007年にアート写真に携わるようになった。

左: Smoke After Russian Bombing, Seen from Our Apartment Window, Kyiv
右: Cooking on the Little Gas Stove, Vyhraiv Village, Cherkasy Oblast


・Ragnar Axelsson, Iceland
 題「Where the World is Melting」

Ragnar Axelsson(1958-)
アイスランド、シベリア、グリーンランドなど、北極圏の人里離れた地域の人々、動物、風景を40年以上にわたって撮り続けている写真家。
1976年から2020年までMorgunblaðiðでフォトジャーナリストとして活躍。
現在、北極圏の全8カ国の人々の生活を記録する3年間のプロジェクトに取り組んでいる。気候変動が彼らの世界の物理的、伝統的な現実を取り返しのつかないほど破壊するこの極めて重要な時期に、地球温暖化が彼らの生存にもたらす直接的な脅威を目の当たりにしている。

HPより抜粋

個人的には、彼の作品に一番惹かれ、Newsletterまで登録してしまった。
HPもインスタも見ごたえ十分で、早晩本も買うだろうな、というくらい心を衝かれた。

Aleksandr、Nenets族、シベリア、2016年
【説明】ネネツ族はシベリアの先住民族で、トナカイの肉と皮を売ることで経済を成り立たせている。シベリアのトナカイ飼いのAleksandrは、ツンドラ地帯でトナカイの群れのための牧場を探していた。ネネツ族は毎週移動し、トナカイのための新しい餌場を見つけなければならない。

ネネツ人( ネネツ語: ненэцяˮ, ロシア語: ненцы)
ロシア極北地方の先住民族。2002年の国勢調査ではロシア連邦内に41,302人いることが確認されている。ネネツ人のほとんどは、ヤマロ・ネネツ自治管区内に居住している。同自治管区の7%程度がネネツ人である。他の主な居住地はネネツ自治管区、旧タイミル自治管区(現クラスノヤルスク地方)である。 ネネツ語を話し、人種的にはモンゴロイドに属する。

名前の由来
ネネツ人はサーモッド(Saamod)、サーミッド(Saamid)、サーミ(Saami ※)と呼ばれていたのをロシア語風の発音が加わりサモエードとなる。 別の説としては、サミの地(same edne)を意味にもつとも考えられている。

Wikipediaより
Nenets族、シベリア、2016年
【説明】 群れの世話はネネツのトナカイ飼いたちの日課だ。ソリを引くトナカイもいれば、家族に食事を与えるトナカイもいる。Aleksandrは鹿を捕まえるために伝統的な投げ縄を使う偉大なトナカイ飼いの一人だ。
Nenetsのキャンプ、シベリア、2016年
【説明】ツンドラ地帯は非常に寒く、生活は質素だ。しかしツンドラの永久凍土は溶けつつある。2016年の春には、溶けた地面から炭疽菌中毒が発生し、数千頭のトナカイが死に、数十人の人間が影響を受けたため、トナカイを屠殺しなければならなかった。
NenetsのOksana、シベリア、2016年
【説明】ネネツ族は不確かな未来に直面している。若いOksanaはツンドラのキャンプで雪の中に座っていた。事態が急速に変化するなか、彼女は自分の将来を少し心配していた。
近景
どうですか、この表情?犬もいい味出していますが、単純にピュアな感じで、凄くいい!
アイスランドのKötlujökull氷河、2021年
【説明】氷河が溶けたブロックには、神秘的な顔や生き物が刻まれている。氷河が後退すると、何世紀も氷に覆われていた風景が出現する。氷河の川が黒い砂に沿って蛇行する。150年前に雪となって氷河の氷冠に降り積もった後も、水の循環は続いている。太陽の光を反射し、地球の許容温度を維持してきたこれらの白い巨石が消滅すれば、太陽の光の反射が弱まり、より多くの暗い表面が露出するため、地球はより暖かくなる。氷河の下の土地は、氷河がその負荷を解放する時に上昇し、噴火は以前よりも頻繁になり、地表への容易な経路を見つけるだろう。
アイスランドのSnæfellsjökull氷河、2022年
【説明】Jules Verneの物語「Voyage au centre de la Terre (地底旅行)」では、地球の中心への入り口は氷に覆われたSnæfellsjökull火山の火口に隠されている。出口はイタリアの火山、Stromboli山にある、とされている。Snæfellsjökull氷河はこの100年で半分に縮小した。科学者たちは、アイスランドの氷河は150年から200年で消滅すると見積もっている。Snæfellsjökull氷河は今後30~40年で消滅する可能性がある。

※サーミ(Sápmi)
スカンジナビア半島北部のラップランド(懐かしの「ニルスのふしぎな旅(Selma Ottilia Lovisa Lagerlöf著)」の舞台ですね)の先住民族で、この民族に関するおすすめのスウェーデン映画「Sameblad」がある。白熱してきたところで突然脱線してしまって申し訳ないが、最後に載せると、「えっ、シマ子さん、サーミって?」となりそうなので、ここで簡単に紹介しておこう。

「舞台は1930年代のスウェーデン。サーミの子どもたちが通う遊牧民学校で偏見を受けた14歳の少女Elle-Marjaは、サーミの血統を捨て、町を脱出することを決意し、Uppsalaへ向かう(現在はStockholmから列車で40~1時間の学生都市だ。前回のStockholm滞在時に訪れたが、大学の休暇時だったためか、実に静かな町だった)。そこで彼女は恋に落ち、サーミだということでまた偏見を受け、更に学費を払えなくなった彼女は・・・。」
というの自分の人生を妹の葬式で回想するのが大まかなストーリーだ。

映画を観るとわかるのだが、タイトルは、"サーミの血: Sami+blood"と"同じ血(族): Same+blood"をかけているそうだ。人種差別の問題とも通ずるため、見ておいて決して損はない映画だと思う。

ポスター: 「Sameblod」2016年


・Michał Łuczak, Poland

・Vanessa Winship, UK/Bulgaria

・Vasantha Yogananthan, France

Alessandro Cinque, Italy/Peru
Siân Davey, UK
Gauri Gill, India
Yael Martínez, Mexico
Richard Renaldi, USA
Federico Ríos Escobar, Colombia


【展示③ Henriette Sabroe Ebbesen -Kaleidoscope-】

デンマークの写真家Henriette Sabroe Ebbesen(1994-)が、写真と絵画、現実とファンタジーの境界線を曖昧にし、人間の精神と身体を探求する展示会。
鏡、反射、幻想、そして超現実主義…これらは彼女の最も得意とするところであり、人体、精神、そして世界一般が、見る人の目と心によってどのように視覚化され、解釈され得るかを探求している。
医学の訓練を受けた彼女は、科学と芸術の交差点に興味を持ち、彼女の精神、感覚、身体に関する研究は、潰れた顔や歪んだ裸体から、自画像、静物画、ビデオ作品に至るまで、様々な作品に見られる。

展示の説明を抜粋

今回は雑誌Vogueに掲載された彼女の写真を紹介する展示だったようで、非常にファッション性の高い作品が多かった。

入り口
映画「アメリ」からノスタルジックさを削除したような作品
際どいのにいやらしくならないのはなぜだろう。。。
洗顔料のCMみたい😆


【インスタレーション The Selfie Matter】

Selfiesはソーシャルメディアに旋風を巻き起こした世界的な現象である。初めて自撮りされたと言われる1839年から、Oxford英語辞典に掲載され、この言葉が正統化された2013年まで、この種の自己表現はますます一般的になり、より多くの人々の身近なものになっている。このインスタレーションでは、約200年にわたるselfiesの歴史を掘り下げる。世界初のselfiesから今日の最も有名なselfiesまで。このインスタレーションのためにSnapchatが制作したユニークなフィルターを搭載した全く新しいARミラーで、1839年から今日までの自撮り体験も可能。

展示の説明を抜粋

たかがセルフィーと侮るなかれ。なかなかどうして興味深い作品が多く、背景の音楽も好みで(いつでもどこでも踊る癖は抜けない)、最後にはSnapchatの自撮り体験もしてしまったシマ子である。

隠された部分には何があるのか?
実に際どいところで断ち切られた作品。
個人的には鍛えられた腹筋が気になって仕方がない😂
これですこれっ!
これと自撮りしたシマ子😎
Claude CahunのSelfies

Claude Cahun(1894年10月25日 - 1954年12月8日)
フランスのシュルレアリスムの写真家、彫刻家、作家。
著作の中で彼女は一貫して自らをエル(elle-彼女)と呼んでいるが、実際の性別は流動的であるとも述べている。
生涯のクリエイティブ兼恋愛パートナーでもあったMarcel mooreとともに制作した印象的なセルフポートレートが有名。
彼女の作品は様々な媒体で現実と夢を衝突させ、幻想的なシンボルが日常的な状況を変化させ、かき乱す方法を探求している。彼女は常に境界線を押し広げ、ジェンダーの役割に疑問を投げかけ、人間として、アーティストとしての仮面と深みを謳歌していた。「この仮面の下にはもうひとつの仮面がある。この仮面の下にはまた別の仮面がある」と自身について書いている。

Wikipediaと展示のBioより抜粋
右の作品
左の作品
Vivian MaierのSelfie

Vivian Maier(1926年2月1日 - 2009年4月21日)
アメリカのストリート写真家。シカゴ、ニューヨーク、ロサンゼルスの人々や建築物を中心に、世界中を旅し、生涯で15万枚以上の写真を撮影。

Wikipediaより
Wanda WulzのSelfie

Wanda Wulz(1903年7月25日 - 1984年4月16日)
イタリアの写真家の一族に生まれ、有名な写真家Giuseppe Wulzの孫娘。
1928年に父親が亡くなると会社の経営を引き継ぎ、結婚せず、仕事に専念することを選んだ。彼女を有名にしたジャンルは肖像画だった。
(中略)
77歳まで活動したが、1981年にアトリエを閉じることを決意。その4年後、生涯を過ごしたトリエステで亡くなった。

Wikipediaより
これ、どなたの自撮りか忘れましたが、透明感があって凄く印象的✨
展示空間の雰囲気
こういう感じに常に心が躍る💜

別室になった空間に目下活躍中のアーティストの作品があり、中でもSenay Berheの作品はかなり目を引いたので、少しだけ紹介したいと思う。

Senay Berheの作品

インスタよりHPの方が見ごたえがあるので、HPのリンクを貼っておこう。


吸い込まれるような茜色の空

レストランもあるが、この日は閉まっていた(貸し切りだったのかもしれない)のと、TallinのFotografiskaのように気軽に食べられそうではないので(Tallinではキャロットケーキを食べたが、なかなか美味しかった)、入り口のミュージアムショップでいつもより多めに買い物をしてみた。それもまた、海外の美術館を訪れる際のシマ子の楽しみの一つなのだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?