香りについて
注)これは昨年の6月のある初夏の日に書いた日記である。
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偏頭痛を患ってから、香水をつけることができなくなった。
強い人工的な香りや、オレンジや、甘ったるい香りを嗅ぐと、すぐに吐き気に襲われるようになったからだ。
大昔、普通の頭痛もちだった頃は、気分を高めるために日々香水をつけていたが、ここ10年ほどは存在感のある香りとは縁遠くなってしまった。
ところが先日、ハンガリーのブダペストからミラノへの帰途、空港で十分な時間があり、免税品店を見て回ったところ、とある香水瓶と目が合ってしまった。
薄ピンク色の液体が入ったその瓶を持ち上げる。
裏側には年号のような、崩れたアルファベットのような文字が4つ、書かれている。
恐る恐る左手で右手の甲に振りかける。
「あらっ、いい香り」
強くもないからもう少し、と右手で左手の手首にもふりかける。
「う~ん、酔いしれる香り、なんという香水だろう」と周りを見渡すが、店員がいない。
ワゴンの中をあさる。
「ない、これらしき香水の箱は一つもない。」
ワゴン横のセール品ではない香水の棚を見る。
「ない、ここにもない。」
店員はいっこうに近くにやってこない。
時間を確認する。そろそろ移動したほうがいい時間だ。
「う~ん、なんという名前だろう。まぁ、あとでゆっくりお店のサイトをチェックすればいいか」とその場は諦める。
ミラノに着き、中央駅までの移動の道中、お店のサイトをくまなくチェックする。
「ない、あの香水はない。」
翌日の昼休み、ネットで、幾つかのキーワードを入れて、検索をする。
「やっぱり見つからない。」
そうこうしているうちに、某仏系のコスメのチェーン店で香水の割引プロモが始まる。
「そうだ、直接店頭で見れば、見つかるかもしれない」とある平日の会社帰り、一番大きな店舗の香水売り場を三巡する。
「やっぱりない。。。」
店員に声をかけられる。ブランドの回し者ではなさそうだから、ちょっと尋ねてみる。
すると、「それは古い香水で、もう店では売ってないわよ。空港に売ってるのは定番か古いものだから」と一蹴・・・撃沈。
「10年近くぶりに頭が痛くならない香水を見つけたのに、買うことができないなんて、私は香りに本当に縁がなくなってしまったのだろうか・・・。」
そうこうしているうちに夏がきた。
未だに私は、香水の一つも買えず、ボディスプレーを振りかけている。
そして、あの香水は幻だったのだろうか、と思うことにしている。
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