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腐女子映画図鑑・魅惑のくちびるに釘づけ映画【永遠に僕のもの】

 時は大サブスク時代、過去の名作から新作まであらゆる映画が定額で気軽に見られる今、あなたは何を基準に見る作品を選んでいるだろうか。私の場合はそう、BLか否かである。自他共に認める(?)腐女子である私は、日々ボーイズラブ要素のある映画を求めて彷徨っているのだが、そういった作品だけに特化したレビューサイトというのはなかなかない。ならば自分で作っちゃおう!BL映画博士になっちゃおう!というのが今回の試みである。どこまで続くかわからないが、細々とBL映画を鑑賞しその記録をつけていこうと思う。では早速一本目の作品に参ろう。(この場合の「BL映画」とは、「男性同性愛者が出てくる」くらいのフワッとした定義でやっていくのでご了承ください。)


永遠に僕のもの(原題:EL ANGEL・2018年・R15)

おおまかレビュー(ネタバレなし)

耽美度 ★★★★
エロ度 ★
グロ度 ★★
鬱度  ★★★

 この作品は、1970年代のアルゼンチンに実在した連続殺人犯の実話を基にしたクライム映画である。ふわふわの金髪にうるうるの瞳にすべすべの白肌、極め付けにぷるぷるの唇の超絶美少年・カルリートス(ロレンソ・フェロ)は、金持ちの家に入って金目のものやらバイクやらを盗む空き巣の常習犯。少年院から出てきたところらしいが全く懲りずに再犯を繰り返している様子である。カルリートスは転校先の工業高校でラモン(チノ・ダリン)と出会い、二人でさまざまな犯罪に手を染めていくのだが……というのが大まかなあらすじである。
 まず上でかがげた★5段階評価について。レーティングがR15ということでグロ描写についてはある程度身構えて鑑賞したが、そこまで痛い描写や気分が悪くなるような描写はない。バンバン人は死ぬので子供にも見せられるかと言われれば答えは否だが、グロテスクな絵面が苦手でもそこまでストレスなく楽しめた。(ちなみに筆者は痛い描写が苦手すぎてアニメ「メイドインアビス」のナナチ登場直前でギブアップした程度の耐性である。ご参考までに。)さらにエロ描写についても、ちょいちょい局部が出るくらいで特に過激ではなく、そこらへんに過度な期待をしすぎると肩透かしを喰らう可能性がある。その他、耽美度・鬱度については次の項目で詳しく触れていきたいのだが、ここで特筆すべきはやはり主人公カルリートスの圧倒的美しさである。BL映画では、美少年どうしの恋愛というケースが少なくないが、この作品の主人公の相棒・ラモンはいかにもラテンといった感じの男性ホルモンが多そうなルックスであり、それによって余計に主人公の美しさや少年性が際立つのだ。カメラもほとんど絶えず彼の姿を追いかけており、「とにかく美少年がみたい!」というモチベーションの方には自信を持ってお薦めできる作品である。

ネタバレあり感想

 映画本編を見る前にYouTube等で予告映像を見て大まかな雰囲気を掴んでから見るというのがよくある流れなのだが、この作品については、予告から受ける印象と本編を見た後の印象はだいぶ異なる。予告映像で流れるのは、銃をぶっ放す美少年、狂気的な笑みを浮かべる美少年、バスタブに浸かる超絶美少年……BL映画を齧っている人間であればこの時点で、「あ〜はいはい、美少年に純朴な青年が誑かされて悪いこと覚えて二人して破滅していく系ね」と思うのではないだろうか。実際私自身も「モーリス」やら「キル・ユア・ダーリン」やらを見てきた経験から、完全に「そういうやつね」というテンションで見ていたのだが、そんな私の浅慮は見事に裏切られた。これだからBL映画は奥が深い。
 まずもって悪の道に引き摺り込むのは主人公ではなく相手役のラモンの方なのである。もちろんカルリートスも元々空き巣の常習犯ではあるのだが、ラモンとその家族に出会うことによってコソ泥から本格的な強盗へと犯行をエスカレートさせていく。ラモンの父親は逮捕歴もあるマジモンの窃盗犯であり、銃も持ってりゃクスリもやっている相当なワルだ。カルリートスは彼ら親子と共に強盗を行う中で銃の扱い方を覚え、やがて殺人にまで手を染めるのである。
 さらに、この映画には美少年に誑かされる男は出てこない。どちらかといえばカルリートスからラモンへの片想いの様相を呈しているのだ。盗んだ美術品の処分に困った二人は盗品を売るために資産家の男にハニートラップを仕掛けるのだが、そこで男に気に入られるのはラモンの方であり、カルリートスはそんな二人の様子を苦々しい思いで見つめるのである。

 見ている腐女子としては、正直「なんで?」という思いである。カルリートスがささやかにアピールしてもラモンの反応はそっけない。カメラと、観客たる我々だけが、彼の一挙手一投足を舐めるように見ている。そう、カメラは美少年の姿をめちゃくちゃ丁寧にねっとり撮っている。美しい顔にしなやかな痩躯のカルリートスは何をやってもとにかく絵になり、この絵面が撮りたかっただけなんじゃないのと言いたくなるようなバチバチに決まった耽美なカットもいくつもある。特に彼のピンク色の厚めの唇に並々ならぬこだわりがあるようで、口元のアップや小道具を口に咥える印象的な描写が多く、基本のキとも言えるくわえ煙草からの煙吹きかけもしっかり抑えている。中でも印象深いのは宝石店から盗んできたアクセサリーたちをホテルのベッドの上で広げるシーンなのだが、そこでダイヤがゴテゴテついた指輪を赤い唇で咥える様子がなんともエロティックで、いけないものを見ている気持ちになる。徹頭徹尾くちびる、もはや美少年のくちびるにしか目がいかない映画と言っても過言ではない。

 さて、そんなこんなでこちらの目が唇に釘付けになっている間にも物語は進む。生まれ持ってどこかタガが外れているカルリートスは、目に入ったものを際限なく盗もうとしたり目撃者を即射殺したりなど、ラモンの目にも余る行為が増えていき、次第に疎まれるようになっていく。やがてラモンへの想いに絶望したカルリートスは、ついに自動車で故意に事故を起こしラモンを死なせてしまうのである。
 ここで深く考えさせられてしまうのが、原題の「EL ANGEL」である。スペイン語には明るくないが、シンプルに「天使」と訳して差し支えないだろう。私が見る前に予想していた話(美少年に善良な人間が誑かされ堕落する)だった場合、カルリートスは人間を誘惑し罪を犯させる悪魔だ。しかし彼は「天使」なのである。冒頭で、カルリートスは彼の母が神に祈り、地上に必要な存在であるから授かったのだという彼自身の独白が提示される。カルリートスの両親は善良な人間で、愛情を持って彼に接しており、環境のせいで彼が歪んでしまったという月並みな理由づけを行うことはできない。少なくとも映画で描写されている限り、彼は盗むことにも殺すことにも心理的ブレーキのない、生まれついての悪人なのである。己の欲望のまま、人間の倫理観が通用しないある意味で純粋無垢な、それゆえ恐ろしい存在なのだ。一方で、彼が終始感情のないサイコパス殺人鬼なのかと問われると、それも違う、と私は思う。カルリートスはラモンと出会わなければ殺人にまでは手を染めなかったであろうし、ラモンへの想い故に苦しみ暴走してしまった部分も確かにあるのだから。そう考えると、この作品は天使が人間に恋してしまった結果、ついに光の届かないところにまで堕ちてしまう悲しい物語であるとも捉えられないだろうか。

 長々と書いてきたが、腐女子的総括をするとすればやはり主人公の圧倒的美、難しいことは横に置いてこれを堪能するだけでも価値のある映画であると思う。美少年のくちびるフェチの方はぜひ。


(筆者はBL映画を求めて日々彷徨っておりますので、洋画でも邦画でもおすすめ作品があればぜひ教えてください)


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