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【詩】夏恋の転職

あの日はたしか急な雨で
季節感がぐちゃっとしてた

残り物を詰め込んだだけのおかゆを
あなたは捨てられた子犬みたく美味しそうに食べた
それがすべての始まりだった

床屋に行かないあなたの欠片が部屋に転がって
それを拾って捨てるのはわたしの仕事だった

傘を持たないあなたのために駅まで向かう
後輩にご馳走してスッカスカの財布を見たら
タバコの1つくらい買ってあげたくなった
ものすごく嬉しそうにするからずるいよね

酔っぱらったあなたを玄関から持ち上げるのも
着替えさせるのもわたしの仕事だった
人の香水には詳しくないから別に嫉妬はなかった

でもこの仕事もいつか
なくなってしまうものだと気づけたのは
あなたと別れることが決まった日

あぁなんで失業手当がないことを
入社前に確認しなかったんだろう

ときどきあなたは薔薇をくれた
そういうとこだけちゃんとしてる

泣きたい夜には必ず帰ってきて
わたしを抱きしめた

今はそれさえも期待できなくなったから
わたしは決心したの

艶やかなブラック企業を辞めて
面白くはないけど誠実な会社を探す
それが大人になるってことだと信じてさ

去年はあなたと見た
甘利山の夜空には
蒼い涙がきらめいた

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