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ライトノベルの賞に応募する(16)

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僕たちは三人そろって階段を降りた。父親と取り囲んでいた警察官は居なくなっていて、二人の警官と祖母がリビングに居るだけだった。
「…シュウ…。」
祖母が僕の名前を呼ぶ。
「おばあちゃん…。僕たち二人も一旦警察に行くみたい。必ず戻るから、また会えるから安心して。」
僕は祖母の手を両手で握って、膝をついて祖母に目線を合わせて言った。いつも焦点が合わない祖母と、しっかり目が合った。いつもはどこか常に曇っている感じの祖母の瞳が、しっかり澄んで、涙ぐんでいた。瞳の中に自分の姿がしっかり写っているのがわかる。
「シュウ…。あんたは幸せになりなさい。」
祖母が僕の瞳をまっすぐ見て、しっかりとした口調で言った。
「…うん。…わかった。おばあちゃん、ありがとう。」
「いつもありがとうねー。」
そういうと、祖母の目からひとすじ涙がこぼれた。祖母がやせ細って筋ばんだ両手で、僕の手を信じられないくらい強く握っている。僕も同じくらい強く祖母の手を握り返した。すごくあたたかな手だった。いつも…、例え真夏でも、足先も手先も、信じられないくらい冷たいのに…。
「じゃあ、僕たち行くから…。」
僕はそう言うと、祖母の手を離して、立ち上がった。祖母もすっと力を抜いて、あっけないくらいすんなり手を離してくれた。
「じゃあ、あとはお願いします。」
警察官同志がそれだけ言うと、二人の警官をうちに残して、家を出た。家の前にはパトカーが一台増えて、三台並んでいる。僕たちは一番後ろの三台目のパトカーの後部座席に座るように言われた。先頭のパトカーが発車すると、それに合わせて、僕たちの乗ったパトカーも後に続いた。黒い合皮のシート。大きめの液晶画面と無線機のコードとマイクが助手席前にある。時々ざざーっと、無線機が音を立てた。パトカーに乗るのは初めてだ。こんな状況でもなければすごく嬉しいはずなのに、僕の気持ちは沈んでいた。ミワはずっと僕にしがみついている。窓の外にはどこまでも暗闇が広がっていた。

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