Enter the blue spring(小説)#14(中編)

夕方の仄暗い街の道路。
二人の未来人がレイダーに変身して睨み合っている。

音邪「……そうか。
負け戦であろうと、背に腹は変えられんといったところか……」

未来「ケッ、何も言わずとも察するのが、お前らしいな……」

『世界の理』を破壊しようと目論む清聴 音邪。

快人の要請で音邪を狙う雷銅 未来。

双方強力なレイダーに変身できる未来人である。

未来「……ところで、1つ聞こうと思ってたんだが、どうしてお前は『世界の理』を狙うんだ?
お前のことだ、どうせ『青春スコア』絡みなんだろうが……」

未来は少しでも時間を稼ぐためにも、音邪に今回の騒ぎを起こした動機について質問する。
無論知ったところで理解できるわけはないのだが。


音邪「決まっているだろ?
俺が青春スコアで『一番』になることができないからだ。」

未来「はあ?何だよそれ?」

音邪が今回の騒ぎを起こした理由。
それは彼自身のつまらないエゴと執着であった。

音邪「いいか未来。俺は『一番』という言葉が好きなんだ。『一番』であるということは、『かっこいい』ということだ。
そう、『かっこいい』……これこそ、俺が生涯をかけてまで求めている言葉だ……」

未来「……何が言いたい?」

音邪「俺はこの授業で『一番』になり、俺が『かっこいい』存在であるということを改めて証明したいと思う……!」

未来「ええ…………何で?」

音邪「そういう『個性』なんだ。
『かっこいい』と思われるためならば何でもしなければならない。

いいか未来。この総合の授業には2つ、俺が『かっこいい』という気分に浸れる方法があるんだ。

一つは青春スコアで他の奴らを上回る、圧倒的な数値を叩き出すこと。 

もう一つは俺たちがこの単元の終わりに書く論文。
それを完璧に仕上げ、高校卒業を確定させることだ。

だが、前者は捨てだ。俺は後者を取らざるを得ない。青春スコアは基準を満たす難易度が高すぎて、他人より稼げそうな予感がしないからな。」

未来「は……はあ?」

未来は唖然とした。

この男は自分の見栄のために『世界の理』を倒そうとしているのか?

そしてどうして『世界の理』を倒すことが論文を仕上げることにつながるんだ?

そもそも総合の時間に『かっこいい』という概念は存在するのか?

論文を仕上げること?

青春スコアが高いこと?

それが『かっこいい』なのか?

未来にはそれが随分と馬鹿げた話であるように思える。

音邪「そして、後者を取るために大切なことは『カンニング』だ。」

未来「カ、『カンニング』!?いきなり不正なんすか!?」

音邪「ああ。当然俺たちが青春の論文を完璧に仕上げるなど無理な話だ。
最も、それをやってのけてしまわなくては、『かっこいい』と呼ばれることは間違いなく不可能だ。そうだろう?」

未来「う、うーん…………わからないけど、多分そうなんじゃないっすか?」

音邪「ああ。そこでだ未来!
俺は珍しく、他人の力をフル活用して計画を実行することを思いついた!」

未来「おお!いつも一人で頑張ってる本質的陰キャのお前が!?」
音邪「叩き潰すぞクソガキ。」

音邪「未来、この世界には青春というものの極致に浸っている猿どもがうようよいるよな〜?
そしてそいつらの記憶を参考にしてあの論文を書けるのであれば、それは素晴らしいことだとは思わないか?」

未来「そ、そりゃあそうだな……あれ、でもそれって普通に学校側からしたらアウトなんじゃ……」(あと急に人のこと『猿』とか言うなよ……)

あの総合の授業はあくまで生徒が主体的に主題について考えることを目当てとしている。
どんな理由であれ、雑に他人の記憶などを引っ張り出して論文を書くなどという、いわゆる消極的なことをあの高校が許してくれるとは思えない。

音邪「いや大丈夫。あくまで『参考』にするだけだから。」

未来「そういう学生って大体丸パクリして単位落とすけどな!?」

音邪「我々にはこの超有能機械、『マスターゲットレイダー』がある……」

未来「あ、フル無視?」

音邪「こいつで青春に浸る猿どもの記憶を閲覧して論文を書き、それを究めることこそ最も簡単にして効率的!!
俺はこのやり方で、そんじょそこらの雑魚どもには決して追いつくことのできない、圧倒的な差を見せつけるのだ!」

未来「お、おう、わかったよ……

でもさ!どうしてもわかんねえところがあるんだよ!
何で『世界の理』をわざわざ倒さなきゃならねえんだ!?
お前のその計画の中にそのプロセスを組み込む必要、絶対にないと思うんだけどね!?」

音邪「……これは、最近になってわかったことなんだが……
青春を享受している者は皆、『世界の理』の護る対象、『特異点』となっている。」

未来「え、ええ……じゃあダメじゃん。マスターゲットレイダーは『特異点』には通用しねえしよー。」

音邪「ああそうだ。だがこの時間で俺が『かっこよく』あるためには、そこをどうにか上手くやらなければならない。
だから"奴"を倒すのだ。倒せば特異点どもは"奴"の加護を受けなくなる。」

未来「え?いやいやいや!運営が世界を守るために作ったんだぜあれ!?
あれ壊すのは流石にご法度だろ!?

それに!!お前別にこの時間にかっこつけなくたって、他の時間で散々厨二病ムーブかましまくってるじゃねえか!?

それをわざわざそんな大それたことまでして、たかだか授業のために頑張らなくたって……てか総合に『かっこいい』って何?そんな概念あるの?」

音邪「それは却下だ。

俺の人生はいつ如何なる時もかっこよくなくてはならない。
この時間を例外にするというわけには行かないのだ。
それに、他の時間では既に全力を出し切り、もうこれ以上詰めることができない。」

未来「あっ、うん、そうだね。
この間の体力テストのシャトラン、本気出しすぎて500回目に到達&立てなくなって先生に足治してもらってたもんね。」
音邪「それは黒歴史だから忘れろ。」

音邪「故にだ未来、これ以上詰めることができる時間があるとしたなら、それは総合の時間以外にないのだ。

うちの学校の人間が必死こいた気分になり、周りをキョロキョロと見ながら自分が留年しないかどうかばかりを常に考える、終いには自分より優れた人間がいたならば狂ったように称賛し、嫉妬する。
そんなカスみたいなイベントにしか、もう俺がさらにかっこよくなるためにやれることは残されていないのだ。」

未来「うげーー耳が痛いよ。」

音邪「よってだ。
俺は俺の道を歩むために、総合でも確実にかっこよくあろうと思う。

そしてそのためには、どうせやっても大成しない正攻法を突き詰めるよりも、運営の設定した"壁"に抗っていることの方が理に適っている。

『クリアできないストーリーに頼っているくらいなら、バグで壁抜けでもした方がいい』、といったところだなー。

まあ案ずるな。
そんなに気合いを入れて運営が"あれ"を作り込んでいるとは思えん。
容易に崩せるだろう。」

音邪は自分の身勝手な考えを臆面もなく未来に晒した。

彼の人生の中心は『自分がかっこいいかどうか』であり、それ以外のことなど彼にとってはどうだっていいこと。

ある意味『完成』されており、もはや他人にはどうしようもない人間である。

だがそんな身勝手に振る舞われては、流石の温厚な未来も頭にくるというもの。

未来「……何でもいいけどよー、この世界はてめえだけのために回っているわけじゃねえんだ。
他人様に迷惑かけてまで、自分の欲求押し通そうとしてんじゃねえ!」

音邪「……今更言うのか?
社会が究極の個人主義へと生まれ変わり、皆が自分勝手に生きている"あの世界"を、好き放題やりたいようにやって暮らしておきながら、それでもそんな言葉が吐けるのか?」

未来「俺は少なくともそんな風に生きてみたことは一度もない!」

音邪「…………」

未来「確かに大半の奴は自由すぎるくらい自由に生きてるけどよー!それでも社会は回ってるんだ!
誰もが最低限のルールは守って暮らしてんだよ!
お前だけ特別に何をしてもいいなんて、そんなルールはどこにも存在してねえ!!」

音邪「フン、それがお前の"答え"か……」

未来の言っていることは決して間違ってはいない。
しかし"本質が見える目"を持つ音邪から言わせれば、その『最低限のルールを守ること』さえも"エゴ"から来ているもの。
音邪にとってあの社会は結局、自分が心地よく生きていきたいだけの人間が集まった、ただの『烏合の衆』なのだ。

皆が好き放題やる。
それが『ルール』であり、それ以上でもそれ以下でもない。
故に自分はその『ルール』に従っているだけだと、そう音邪は認識している。

だが、清々しいほど真っ直ぐな未来の言葉は、音邪を"戦う気にさせる"ことには成功した。

音邪「先に言っておくぞ未来。今のお前の発言は、お前の個性がそう言えと指示したに過ぎない、ただの"エゴ"だ。」

未来「っ!まだ言うかコンニャロー!」

音邪「だがそれは俺も同じだ!

未来人とは所詮!『個性』が人間を象っただけの存在!!
最初から何が正しいかを用いて説得するなど、不毛なことなのだ!
ならば主張がぶつかりあった時、やれることは一つしかない!

力をぶつけ合うこと!

それしかないのだ!!

やるぞ未来!!
それほど好き勝手動かれるのが嫌だと言うのなら!
俺をこの場で負かし、それだけのことを言える権利を手にしてみせろ!」

未来(おっ、これは時間稼ぎのチャンスなんじゃないか!?)

時間を稼ぐことを悲願にしている未来は、いけしゃあしゃあと音邪の"お誘い"に乗っかろうとする。

未来「いいぜ!やってやるよ!最もお前を最初から逃す気はないケ」

音邪「ノロい!」

バキーーン!!

まだ変身もしていない生身の音邪の恐ろしく強い蹴りが、未来の太ももを武装ごと一撃で叩き潰す。

既に『火山竜レイダー』に変身しているというのにだ。

これは音邪がサタンレイダーを強化するイベント、『悪魔の試練』をクリアしたことで手に入れた、生身の状態でも『サタンレイダー』の力が使えるという特典のせいである。

未来「おわーーー!?何てことするんだお前!?今喋ってる途中だったろ!?」

音邪「喋りながらでも攻撃かわせるようになった方がいいんじゃないの〜〜?
というか俺相手に油断するとか正気〜?そういうところが幼児から進歩してねえよな〜お前〜。」

ビキッ!

音邪の挑発によって未来の頭に完璧に血が上った!

未来「調子乗ってんじゃねえぞ!!

オラァ!」
 
未来は超高速で電蛇タイヤーを音邪の胸に押し付け、装甲ごと胸を引き裂こうとする。

音邪「甘いぜ。 『サタンブレード』」

サタンブレード!

天から声が聞こえたと同時に音邪の手元に剣が現れる。

ガキンッッッ!

サタンブレードは音邪の腹をえぐり取る勢いの電蛇タイヤーを完璧に受け止める。

そして音邪は電蛇タイヤーの表面で剣を擦らせながら未来の真横に回り込み、電撃を纏った強力な斬撃を未来に放つ。

音邪「フン!」

未来「のわっ!?」

未来はそれを目で追ってギリギリでかわした。

音邪「やはりな。こんな技で落ちる奴ではない……」

未来「てめえ!!」

未来は負けじと左手の電蛇タイヤーでもう一度攻撃して反撃をくらわせようとするが、音邪はそれを予想してサタンブレードで未来の左手首を斬り飛ばす。

ズバンッッッ!

未来「……チッ!やってくれるなーホントーー!」

未来は反撃を許して悔しがると同時に距離を取り、即座に拡張武装を召喚する。

未来「『ドラグキャノン』!」

ガチャガチャガチャ!

跳ね飛ばされた左手首と電蛇タイヤーの代わりに、火山竜レイダーの拡張武装『ドラグキャノン』が装着され、キャノンの口から蒼い波動が放たれる。

音邪「むっ!」

音邪は撃ち出された波動を当たる寸前にかわし、一瞬で未来の懐に入り込む。

音邪「やるじゃないか……だが」

グサッ!

サタンブレードが未来の脇腹にもろに入った。

未来「いっけねえ!!」

バキンッ!

この一撃でHPがかなり削られて焦った未来は、せめて痛み分けで終わろうと音邪の右足に蹴りを叩き込む。
しかし当の音邪は、特に焦る様子も効いている様子も見せていなかった。

音邪「無駄だ!腹が剣でつかえている!そんなことでいつものパワーが出るものかーー!」

音邪は未来の脇腹をサタンブレードで突き刺したまま、未来の体ごとサタンブレードを思いっきり振り回す。

そして遠心力が加わって勢いが増してくると、それを解き放つかのように近くの建物へ思いっきりぶん投げた。

ゴキンッ!

未来「ぐえっ!?」

建物に激突した未来は自身がくらったダメージの大きさに驚愕する。

音邪「その建物は『世界の理』の結界内に入っている……つまり『特異点』だ。
今俺は生身の状態で『レイダー』の力を行使し、サタンブレードをお前ごと投げた。
『レイダー』の力を加えた打撃が、『特異点』にダメージを与えることはない……」

音邪は体を強く打ちつけて倒れ込んでいる未来に、余裕のある足取りで近づいていく。

音邪「では、その『特異点』に与えられるはずだったダメージは一体どこに行ったのか?
答えは表面で外に向かって弾かれた。
その弾かれた力をお前は全身に受けたのだ、未来。おかげで刺さっていたサタンブレードは抜けたようだがなー。」

音邪はしてやったりと言わんばかりな表情を浮かべつつ、近くに落ちていたサタンブレードを拾った。

音邪「もうそのダメージでは動けまい!!
トドメだーー未来!!」

音邪は倒れ込んでいる未来にサタンブレードを振り下ろそうとした。


ーーヒュンーー

刹那、"何か"が風を斬った。

音邪「!?」

ガンッ!

音邪は危険を察知してその"何か"をサタンブレードではたき落とす。

ドガッ!

"何か"は地面で大きくバウンドして空へと飛んでいった。

音邪「い、今……今俺に飛んできたものは……まさか!!」

音邪はすぐに"何か"が飛んできた方向に目を凝らす。

すると遥か遠くのマンションの屋上に、"見覚えのある"何かがいることに気づく。

音邪「……ッ!最悪の、展開だ……
よりによって!まさかお前まで俺を狙いに来るとは…………


レオン!!!」


レオン「おっ、気づいたようだな。」

『レイダー』に変身して屋上にしゃがみこんでいるレオンは、音邪が焦る様子をスコープ越しに見て、ニタニタと悪い笑みを浮かべる。

そう、音邪に向かって飛んできた"何か"。

それはレオンの『スイッチライフル』から放たれた"銃弾"だったのだ。

この武器はレイダー全員が持つ遠距離用の武器で、『ライフルモード』と『ショットガンモード』の2つのモードを使い分けながら戦える、いわば最強の銃。

今回レオンが使っているのは、弾数が少ない代わりに射程が長く、精密に対照を狙いやすい『ライフルモード』。

レオンはこのマンションの屋上から、チマチマと音邪にダメージを与えようと画策していたのだ。

レオン「『銃弾が地面で大きく跳ね返る』……ククク、これなら、勝てるかもしれない……!」

レオンは興奮しながらライフルの上部に取り付けられた『デッキチャージ』に、自身のカードデッキ、『スナイパーシャークデッキ』をセットする。

デッキセット!
スナイパーヒッティング!

ダダダダダダダダダダダダ!!!

大量の銃弾が『スイッチライフル』の銃口から激しく飛び出し、遥か彼方にいる音邪目掛けて降り注ぐ。


音邪「やっべーー!逃げるが勝ちってやつだーー!」

音邪はそれを目視して直ちにこの場から逃げ出そうとする。

未来「させるか馬鹿野郎!」

ガチン!

音邪「うわん!?」

しかし、ここで未来が音邪の足に向かって電蛇タイヤーを投げつけたことで、音邪の全身に激しい電撃がほとばしってしまう。

未来「言っただろ!?逃がす気はねえってな!!」


音邪「ナメヤガッテーーーーーー!」

ダダダダダダダダダダダダ!!!

音邪は鬼のような表情を浮かべて真紅のオーラを放つも、レオンの撃った銃弾が遂に音邪の元へ着弾する。

バキュンッ!

音邪「ぐはっ!?」

音邪の胸と左手を銃弾が貫通。
そして銃弾は『レイダー』のものであるため、『特異点』と化した道路で跳ね返りーー

バンッ!

一発の銃弾が音邪の頭部を貫いてしまった。


金沢八景 大通り

そして同じ頃。
2人の女子が茜色のアスファルトの上をノロノロと歩いていた。
奈義子と一花である。

2人は何を思ったか、今頃になってようやく金沢八景に現着。
零斗たちと同じく、明らかにやる気がない。

一花「いや~、2019年の街並みってゴチャゴチャしてなくて綺麗だよねー!ね?奈義子ちゃん?」

奈義子「は、はい……あの、一花ちゃん?」

一花「ん?何〜?」

奈義子「その、何というか……


進み遅すぎませんか!?」

一花「え?うん。だって、わざと寄り道したり、歩くペース落としたりしてるもん。」

奈義子「何でですか!?
今までにない緊急事態なのに!」

一花「いーい奈義子ちゃん?私達みたいな『青春スコアが低すぎ&論文もまともに書けなくてワンチャン留年民』は、今回の件で先生に怒られることになろうと関係ないんだよ。
何故なら仮にこのままこのゲームをやり続けたとしても、どうせ留年になって怒られる未来が待ってるからね。
遅かれ早かれ行き着く先は一緒ってこと。
だから音邪を止めに行くくらいだったら、こうやって何が楽しいんだかよくわからない無駄話で青春スコアを稼ぎつつ、今日ここらへんでやるお祭りにでも行ってたほうがいいってわけ。わかる?」

奈義子「ええ……でも、班長の快人君はこの世界でゲームを続けていくつもりですよ?」

一花「うん。だからね、一応音邪を止めに行くには行くんだよ。
それで、お祭りの時間が来たら速攻で戦線を離脱する!
音邪は急に私達に邪魔をされて気が散るし、私達はお祭りにいけるしで最高でしょ!
一応仕事はしてるから、快人も文句は言わないだろうしね。」

奈義子「は、はあ……いいと、思います。」

論文を完璧に書いて卒業を確定させようとする音邪とは違い、論文もロクに書けずに青春スコアも低い一花は、現在総合で1を取って留年という、かなり恥ずかしいことが起こりそうになっている。

これがテーマが違ったり、青春スコアをある程度稼げたりしていれば少しは違ったのであろうが、とにかく今回の総合は一花の成績を本格的に危ういものにしてしまいそうだ。

よって問題が起こってレポートを書かされるだけになったり、青春スコアをある程度稼げたりした方が、今の一花にとっては建設的なことなのだ。
特に後者は『多少論文の評価の基準が甘くなる』という、極めてありがたいおまけがついてくるため、音邪の邪魔なんかよりも優先してやるべきであることは間違いない。

一花「にしてもさー、音邪がイレギュラーとはいえ勝ち組になろうとしているところを見ると、もうメンバーの大半が総合地獄を前向きに進んでる状態にあるってことじゃない?
このままだと、切り札がなくて特に何の進展もない私達の存在が、結構悪目立ちしちゃうことになるかも……」

奈義子「まあその可能性は否めませんよね。しかも体育祭とかと違って、できなくても時間が解決してくれるなんていうものでもないですもんねー……」

一花「本当だよ……あーあ、生きづらいなあ……」

『青春』してるかについてを評価の基準にすることで、攻略が極めて困難でシビアな教科となってしまった総合。

彼女らのような『個性』を持つ学生達にとって、この総合は進級を阻む高い壁となるのであった……


金沢八景 六浦

音邪「……ク、ククッ……ハハ、ハッハッハッハ!」

そしてそんな"底辺ども"とは違うってところを見せてやりたい、進級=卒業ルートを独走している音邪君は、未来とレオンにかなり体力を削られて追い詰められてもなお、余裕を崩さぬ様子で大きな笑い声をあげていた。

未来「チ、んだよ音邪!
残りHPあとわずかのこの状況で、一体何がおかしいってんだ!
この状況からでも逆転できる策が、あるとでも言うのかよ!?」

音邪「クク、策?そんなものはない……



そんなものを弄さなければならないほどに、この俺が追い詰められているとでも思っているのか!?」

Change the fate!!

突如音邪のサタンブレードから、通常の音声とは異なる神聖な音声が鳴る。

そして音邪の体から真紅のオーラが溢れ出し始め、音邪の持つサタンブレードの刀身に、その全てが集束されていく。

未来「げっ!?まだ何かやるっていうのか!?」

音邪「ああそうとも!今この瞬間からこの俺が持っているサタンブレードは!
俺を理想へと運んでくれる『約束された勝利の剣』よ!!」

Grand order!!

サタンブレードが真紅の光の刃となって発熱し、周囲の道路のアスファルトをその高熱で徐々に溶かし始める。

音邪「命焦がす滅亡の怒り!!喰らうがいい!
破壊の剣|《デストカリバー》だぁーーーーーーーー!!!!」

音邪が負傷していない右手でサタンブレードを一振りすると、今まで刀身に宿り凄まじい高熱を周囲に放っていた真紅のオーラが、巨大な斬撃波となってレオンに襲いかかる。


レオン「な、何だとーーー!?」

ログアウト……

レオンは一瞬のうちに斬撃波が直撃して体が塵となり、その場でゲームからログアウトになった。


未来「お、おいおいおい!何だその技は!?攻略サイトにもそんな技乗ってねえぞ!?」

音邪「……気にするな。あれこれ考えたところで、もうお前の負けは確定している。」

未来「いぃ!?ま、まじかよ……」

未来は本質を読み取れる音邪から『負け』ときっぱり言われたことに、素直に絶望する。
いつも虚言しか口から出てこない音邪だが、こういう真剣な時に限ってはエビデンスに基づいた本当のことを言ってくるのだ。

音邪「だが、この技が体への負担が大きい…………ただでさえ体力が減っているというのに、つくづく使い勝手の悪い技だ。
だがこの俺は!
その技が俺のHPを0にしてしまう前に、『レイダー』に変身することができるのだーー!!

『インストール』!!」

Satan!

音邪は体に負荷がのしかかってくるこのタイミングで、満を持してサタンレイダーへと変身し、HPを一瞬のうちに全回復させた。

未来「あ、あーー!こいつ!!
回復できるとわかってて、"試し撃ち"感覚でレオンに技ぶっ放しやがったな!?」

音邪「その通り!!お前らとの戦いなど、最初から最後までお遊びだ!!」

音邪は決して敗北することはない。
そのもはやこの世の"運命"と化した力は、世界の理さえも破壊し得る圧倒的なものになりつつあった。

男の子「ねえねえ、そこの変なお兄ちゃんたち!!
今の何!?何してたの!?」

未来「……ん?」

すると突然、未来の背後から小さな子供が未来に声をかけ、未来と音邪の周りを無邪気に駆け回る。

未来「お、おいおいおい!
お前、そんなところで走り回ってたら危ねえぞ!!
いいか?この変な黒い方のお兄ちゃんはな、人を殺すことを何とも思ってない、最っ低な野郎なんだ!
近づくのはよしたほうがいいぜー。」

音邪「…………」

男の子「ええーー!?じゃあさ、あの黒いお兄さんが何やってたのか教えてよ〜?僕だってやってみたいよ〜。」

未来「ダメダメ!!あんな技を使うような大人になっちゃいけません!
さ、ほら、お父さんとお母さんのところに帰るぞ!」

未来は男の子の手を握って親の元に連れて行こうとした。

音邪「そう、それ……お前の弱点とはそれだ……!」

未来「…………あ?」

Grand order!!

未来「何!?」

未来が一瞬目を放した隙に、音邪はまたも"運命を変える力"を発動した。

ズバババババ!!

すると先程まで元気に走り回っていた子供の体から無数のサタンブレードが飛び出し、未来の体に数本のサタンブレードが突き刺さる。

未来「て、てめえ……!何の罪もねえ子供を殺してまで、自分の成績が大事か……!」

音邪「いーや、今のは成績のためでも、この俺がかっこよくあるためでもない。
お前を嘲笑うためだ。
大口を叩いてこの俺に説教をするような愚か者は、自分の『個性』に抱かれて死ぬといい。」

音邪は策に嵌って死に至る未来のアバターを鼻で笑い、再び己の目指す『特異点』への道を歩き始めた。

音邪「俺の時代……そう、俺のための世界が、遂に訪れる……!ククッ、ククククッ、アッハッハッハッハ……!」


夕日で伸びた音邪の影が、楽しそうに頭を揺らしていた……

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?