【小説】#感動的なビデオ⇔ミステリー仕立て⇔うそ寒い話(ショートショート)

「これ、うそ寒いビデオ。ちょっと見てくれ」
 タイチは、小学校の教員をしている。

「うそ寒いだって」
 タイチは、昔から予測不能なところがある。

『無人島からの手紙』
 と、タイトルが記されている。
 
「クラスで、子供たちと鑑賞したんだ。終戦記念日に合わせてさ」
「おお。いい話だな。涙腺崩壊。超感動しそう。泣きそうだ」
 タケヒサが、声を詰まらせる。

「だが、どうも遣りすぎたみたいだな」

「遣りすぎた?」
「そうだ。結局、本人が手持ちカメラで撮影していない限り、何だかの演出が入り込んでしまうということさ」

「子供に指摘されたんだ。先生、コレちょっと(うそ寒い)って」
「悲しいな」 
「ま、ともかく見てくれ」
 DVDプレイヤーが動き出す。

『第二次世界大戦で激戦地だった無人島から、手紙が届いたのです。戦地で亡くなった父からでした』
 ナレーションからスタートした。
 テレビ番組。

「ヤバいな。もう涙腺にきそう」
 タケヒサは、ハンカチを取り出した。

『手紙は、日記風の手記でした。男性に向けられて書かれているようです。そもそも、父親がどんな人だったのか。男性は幼少期に別れたので、全く覚えていません。思い出すらありません』
 ナレーションが続いている。

『手紙は古すぎて、判別が不能です。何が書かれていたのでしょうか』
 途方に暮れる男性の表情。

『男性は、大学の近くで、個人タクシーの運転手をすることにします』
 同時進行で、男性の生活を追っている。
 ドキュメンタリー。

『大学の教授たちが、タクシーを拾うのを待っています。手紙をダッシュボードに隠して…』
 大学の研究者に、手紙を解析して貰うつもり。
 最先端の技術があれば、可能なのだ。

 結局、赤外線を照射することで、ノートに書かれてあることがわかった。
 浮かび上がる文字。

 ラストは、男性を乗せたテレビ局のヘリコプターで、無人島までフライトする。
 エンドロール。

「うそ寒くないよ。良い話だろ」
 タケヒサは、涙を拭った。

「よく考えろ。ヘリコプターで現地までフライトできるんだぜ」
「どういうこと」
「この番組。無理にミステリ仕立てにしてたけど。初めから、きっと全部わかってたんだよ」

「よく考えろ。ヘリコプターで現地までフライトできるんだぜ。ならさ、タクシー運転手なんてする必要ないだろ。テレビ局が本気出せば、何でも調べられたんだよ。タクシーじゃなくて、初めからヘリコプターを使えば良かったんだ」

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