超こわくない話(ギャグ劇団笑)『軽快な足音・八甲田山の兵隊ゆーれい』
僕は寺の息子。本当は怖がりだが見えてしまう。
青森県にスキーに行った帰り道、仲間たちと吹雪に巻き込まれてしまった。
車の中に閉じ込められて動けない。
周囲は真っ暗。グーグルマップは、電波がつながらなくなっている。
「まずいな。俺たち死ぬぞ」
運転席でKが震えている。
Kはオカルト好きで、ホラースポット巡りを趣味にしているほどだった。
「八甲田雪中行軍遭難事件って知ってるか?」
「知らない」
誰も知らなかった。
「きっと、この場所は1902年1月23日に起こった『八甲田雪中行軍遭難事件』の現場だよ」
「どんな事件だ?」
「青森歩兵第五連隊雪中行軍隊。雪山での訓練中、日本軍の兵士199人が死亡したんだ。今でもホラースポットして、若者が怪異に巻き込まれるという話が多数報告されている」
「本当か」
「ああ。新田次郎の『八甲田山 死の彷徨』の取材ノートでも触れられているほどだからな。兵士の足音を聞いた。軍服姿の幽霊を見たと……」
『ザッザッザ』
やがて、暗闇に足音が聞こえ出した。
雪山で凍え死んだ兵士たちの亡霊が現れたらしい。
亡霊たちが車を取り囲んでいる。
「来たよ。目を合わせるな」
Kは言った。
すると
『タタタン、タタタタ』
軽快な足音に変わった。
おそるおそる窓の外を見ると軍服姿の幽霊たちがタップダンスを始めている。
雪の上でなぜタップダンスの音が聞こえるのか。全くわからない。
「コマネチ」
コマネチをする兵士。
「ガチョーン」
兵士たちが、ギャグを繰り出してくる。
笑っていいのかわからない。
「君たちは、幽霊じゃないの? 若者が襲われた話を聞いているけど」
僕は聞いた。
「見損なうな。国を守る為の軍隊だ。兵士が死んだからと言って、後に生まれた現代人を襲うわけなどないだろう」
「巷に広まっている怪談は嘘なの?」
「大嘘だ。ほら話のホラー話だ。本当は遭難者を助けたかったんだが幽霊なんで助けることができない」
「この吹雪は明日の朝にはやむ。気象庁に問い合わせたから確かだ。それまで君らが退屈しないように、みんなで漫才を披露することにする。一生懸命練習したんだぞ」
「漫才?!」
「俺は軍隊に入る前まで落語家になりたかったんだ。死んでからもチャップリンなどのコメディ映画も見ている。今はトレンドも取り入れなきゃね」
僕らは雪中行軍隊メンバーのギャグや、ショートコントを眺めながら吹雪の中を過ごすことになった。
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