【小説】#心霊スポット案内人(ショートショート)

「さすがに、怖いな」
タケヒサが震えている。タケヒサは、久々の登場である。

――北海道・帯広市
グリュック王国は、当初の賑わいが嘘のように、来園者の数が減っていき、やがて廃園に追い込まれた。
敷地面積は約10万平方メートル。
だだっ広い空間。闇、闇、闇――

グリュック王国の跡地は、今では心霊スポットとして知られる。
連休ともなるとオカルトマニアや、一般のカップルが集まってくる。

「皮肉な結果だけど、下手したら、廃園前の本物のグリュック王国よりも、ある意味、熱いファンがいるかもしれないな」
ワダは、ワゴンの運転席で笑った。

ワダは「心霊スポット案内人」という肩書がある。
タケヒサは、この仕事の面接をオンラインで受け、現地での研修にやってきたのだった。
時給は、かなり良かった。

ワダのサイトの映像は、不気味だった。
正体不明。わけのわからない人影。サビた観覧車。音声データには、叫び声。獣のような息遣い。
ノイズ。光。

「100%、ヤラセだけどね」
面接時に、ワダが説明してくれた。
「俺、帯広市の観光課に勤めていたんだよ。だから俺、当時の意地なんだよ。つまり、たとえ心霊スポットであってもこの場所を話題にしたいんだよ。バカみたいだけど」

――タケヒサは今、王国が営業していた頃、死亡者が出たという観覧車の前にいる。
月並みな言い方だが、背筋が、凍えるほど不気味である。
心身が寒くなる。

ワダは、先ほど、プロモーション用の心霊映像を撮りに行った。
タケヒサは彼を待っているのだが、まだ戻ってこない。

(あ)
観覧車の後ろ。フェンスのところに人影が見えている。
白い人。女のよう。
アレが、ワダの新作らしい。
ナメクジのような不自然な動きで、フェンスをずるずると降りてくる。

(よくできている)
あのナメクジ人間を、ワダは闇の中から撮影しているのだろう。

「お待たせ」
ワダの声がした。
ワダは、そのまま帰ろうする。
「アレ、片付けなくていいのか? あのナメクジみたいなヤツ」
タケヒサが聞いた。

「走るぞ」
ワダが叫んだ。音声データを録音しているらしい。マニアを納得させるには、ここまで緊迫感が必要なのだろう。

タケヒサも走り出した。ようやく、ワゴンに乗り込んだ二人。

「ナメクジ人間は上出来だったな」
「違うんだ」
ワダが、ワゴンの運転席で青い顔をしている。
「違うって?」

「ああ。あんなところに俺、人形を仕込んだ記憶はない。きっと、アレ本物だ。本物の怪異としか思えない」

 

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