【小説】#爆破予告のアール・ブリュット展(ショートショート)
「また、爆破予告だよ」
キュレーターが扉を開ける。彼は都内で行われるアール・ブリュット展を企画している。
アール・ブリュット展とは、日本では「障害者の表現」として推進されている。
人気も上々。政府のSDGs推奨の取り組みもあり、大手企業のスポンサーもつくようになった。
この業界に彼が足を踏み入れた時、アール・ブリュット展は日本では、ほとんど見向きもされなかった。
近年ではメディア報道も過熱している。
莫大な金も動く。
比例するように、アンチからの攻撃にさらされるようになった。この国は、偏ったアタマの持ち主が多い。
政府のサポートも気に食わないのだろう。
爆破予告は2度目。今回もイタズラだろうが、警察から中止のお達しがあった。
ここは、アーティスト・カズヤのアトリエ。カズヤは、このキュレーターが抱える人気ナンバーワンのアーティストである。
彼の為に、個人用のアトリエを提供しているほどだ。障がい者アーティストブームで、彼らは宝石のような存在になっている。
「カズヤ」
キュレーターは話しかける。
「……」
アーティスト・カズヤは、重度の自閉症を抱えている。
「ちょっと、ごめんね。来月から予定のアール・ブリュット展は、中止になりそうだ。カズヤは心配しなくても良いよ。必ず展覧会は実現させる。今日は、何を描いているの?」
「……」
相手から反応が無くても、とにかく話を続けることがベストだと思っている。
行く行くは心を開いてくれる。話をしてくれる。分かり合えるに決まっている。必ず、カズヤ本人から感謝の言葉が聞けるだろう。
今日、カズヤが描いている絵は、ジャン・デュビュッフェに似ている。
ジャン・デュビュッフェは「アール・ブリュット」の提唱者である。ジャン・デュビュッフェ自身も、障がい者の絵からインスパイアされているのは明らかだった。
「凄いね。新境地なのかな」
キュレーターは話し続ける。
カズヤの新作は高騰しそうだ。
「……」
反応はなかった。だが、心の距離が縮まっているのは間違いない。
「困ったことがあったら、必ず言ってよね」
キュレーターがアトリエを後にする。
やがて、カズヤは仲間にラインを打ち始める。
『……作戦成功。アール・ブリュット展は中止になりそう。みんなで正体を隠して爆破予告メール、展覧会を阻止する投稿をしてよかった。これからも嫌がらせを続けて、金に目がくらんでいるとロクなことならないって、あのキュレーターに教えてあげよう』
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