(怖い話/by処刑スタジオ)タロウ犬・呪われたY字路

「どこか、S・キングの“スタンドバイミー”や、芥川の“トロッコ”みたいな。不思議な話なんだけど」
 叔父・水田太郎は話し始めた。

 母系の遠い親戚にあたるという。おしゃべり。怖い話も大得意だった。

 今、私は叔父と散歩中。
 目の前に、今園神社の真っ赤な鳥居がある。うっそうと茂る裏山。そして舗装されたY字路が広がっている。

「ありがと。S・キング好き」
 不思議大好き少女の私は、話に引きまれていく。

「俺があんたくらい小さかった頃。小学一年生。ここに“タロウ”という犬が住んでいたんだ」 
 
 この神社の付近をうろつく野良犬だったという。神社の神主が食べ物を与えていたって。

「同じ名前だ」

「そう。俺、学校でいじめられていてね。ネクラ少年。話下手でね。犬と同じ名前だとバカにされたこともある。さらに、犬のタロウもいじめられていた。俺と同類さ」

「へえ」
 本当に信じられなかった。

「それで自分が変わるきっかけとなる事件が起こる。あれからだ。子供心に、このままじゃまずいと思ったのは」

「何があったの」
 わくわくが隠せない私。

「神社の裏山の探検に出かけたんだ。学校でもプライベートでも一人きりだった俺は探検も一人きり。映画のスタンドバイミーとは違うよな」

「どこまでいったの」

「この山道を通って隣町だ。今と同じで薄暗くて怖い森だったなあ。このY字路があるあたりは当時、舗装もされてなくて土がむき出しだった」 

「帰れなくなったの?」

「そうだ。お約束通り、途中で迷子になった」

「真っ暗な山の中に、一人きりで取り残されてしまったんだ。怖かったよ。帰り道がわからなくなり泣いていたんだ。にっちもさっちもいかなかった。死ぬかと思った時」

「死んじゃったの?」

「否。無事だよ。でもね、無事に帰ってこれたのは犬のタロウのおかげなんだ」

「何があったの」

「その時、自分を呼ぶ声がしたんだ。幻聴だ。振り返るとタロウがいて、そのまま俺を先導するように歩き始めたんだ」

「すごい賢い犬だ。タロウに感謝しなきゃ」

「でもね、その直後に、神主が俺を見つけて保護してくれなければ、どうなっていたかわからない」

「なぜ」

「俺は、思い返す度に怖くなる。タロウは、このY字路まで下りてきた時、この神社と反対側の道へと行こうとしていたんだ。もし、そのままタロウについて行っていたら」

「その時、とっくにタロウは死んでいたんだ。前の日にY字路でトラックに轢かれたらしい」

 


 


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