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塔二月号若葉集より好きな歌五首

「塔」若葉集より、好きだった歌六首です。
いつもと同じく、素人の感想ですので、ゆるやかにお読み頂ければ嬉しいです。敬称略で書きます、すみません。

一日を思ひ出しつつマフラーを編めば編むほど夜は伸びゆく/小金森まき

若葉集174p

まずは小金森まきさんが塔に入会してくださったことがとても嬉しいです。Xや新聞でお名前をよく目にしていて、気になっている歌人でしたから、これから毎月お歌が読めると思うと嬉しいです。
今月のこのお歌は、「夜は伸びゆく」が、とても好きです。
私も編み物をするのですが、編んでるうちに編みあがった生地がどんどん伸びてゆくんですよね。そして、編み物はなにげに「夜」に合います。一通りの仕事や家事が終わった後で、心をふっと緩ませながら編むからでしょうか。
私も編み物の歌を詠みたいと思っていたのですが、なかなかうまくいかず。小金森さん、さすがです!

憎い、と君が言うとき紙のように白く鋭い三日月登る/潮未咲

若葉集175p

潮さんは六首載っていたのですが、すべての歌が心に響きました。
中でも、歌の中では詠みにくい(と私が感じている)「憎い」と言う言葉が使われていて、しかも初句に置かれているところがすごいなぁ、と思いました。
「憎い」と言ったときに登った「白く鋭い三日月」は、まるでよく研がれたナイフのようで、そこでも不穏を乗せていく。負の感情も極めればいいんだ、と思えた一首でした。

立ち寄りし古書店の本手に取れば青き時代のかの日に帰りぬ/小芝敬子

若葉集176p

よくわかります!と言いたくなった一首です。
私も先日、ある古書店に行ったのですが、棚に並んでいたのが私が若かったころの本ばかりで。赤川次郎や片岡義男、山本周五郎、柴田錬三郎などなどがずらっと並び、うわぁ、懐かしい!と思いました(←年齢がばれます?)
当たり前のことですが、本は次々と新作が出ますから、並べられている本も新しい作家の名前ばかりが並ぶことになります。それも嬉しいのですが、たぶんもう絶版になっている本たちが並んでいる古書店には独特の嬉しさがあります。
これはブック〇フなどでは見られない光景です。変な言い方になりますが、あそこも新しい古本ばかりなので、このような興奮は味わえないのです。
たまたま入った、たぶん個人店であろう古書店に、若い頃に夢中になっていた本を見つけるのは、古書店巡りの醍醐味でもありますね。


許されるつもりの「ごめん」がゆっくりと落ちてあなたの足元にある/ダヤン小砂

若葉集179p

ごめん、と言えば許してもらえると思っていた。それなのに、相手はその謝罪を受け取らずに、その人の足元に「ゆっくりと落ちて」ゆく。
これは、そのまま別れになる不穏さを予感させる。
許されなかったその一瞬を、丁寧に、それこそゆっくりと描いていて、心に残る一首です。切ないですけれど…。


しばし身に木犀の香を招き入れやがて黄金の息を吐きたり/浅野馨

若葉集183p

信州の山の上に住み始めて、なにが寂しいかというと、桜が近くにないことと、金木犀の香りがかげないことです。
金木犀は香りも素晴らしいですが、落ちた黄色の小さな星型の花も素敵ですよね。
急ぎ足で過ごす毎日。その中で、ふっと香ってきた金木犀の香りを、一瞬立ち止まって深呼吸で吸い、深く深く息をつく。そして、もう一度、日常にかえっていく。そんな一首と読みました。
香りを「かぐ」のではなく、「招き入れ」るという表現が深くて、好きです。


今月号も好きな歌が多すぎて、なかなか選べませんでした。
来月号も楽しみにしています。

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