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塔五月号 若葉集より好きな歌五首

こんにちは。
いつも通り、私の主観での好きな歌五首について書かせていただきます。
敬称略で、失礼します。

骨壺に涙が落ちるその度にごめんと言ってしまいそうになる 柴田凛

192p

連作のうちから、身近な方が亡くなったことがわかります。
その方のご遺体が焼かれて、収骨をしているときの景と読みました。
なにか、後悔があるのでしょう。亡くなってからその時まで、心の中で「ごめん」と言い続けてきたように思います。
生前に言えなかった「ごめん」、もうその人に届かない「ごめん」。
とても切ない歌だと思いました。


目を閉じて暗い世界を遮断する夜には夜のほのかなルクス 鈴木ベルキ

193p

調べたら、ルクスとは照度の単位とのことです。例えば1ルクスとは月あかりの明るさとのこと。
夜に目を閉じて、かすかな光を感じている景と読みました。
暗い夜なのに、作者はほのかな光を感じています。それが、たとえば希望のように、私には感じられます。また、作者のやさしさにも。
これは深読みですが、絶望するような世界の中にも、一筋の希望を作者は見いだせるのかもしれません。そんな優しい一首だと思いました。


愛しさはデロンギのような温かさ 乾いたりせず火傷などせず 染川宣大

193p

第一子が産まれた時に、私もデロンギを買いました(電気代がとても高かったので、すぐに手放してしまいましたが・汗)。
ファンヒーターのように部屋を感想させてしまうことなく、石油ストーブのように火傷することもありません。それはそれは、しずかにじわぁっと温かくなっていく。
作者は「愛しさ」が、そんなデロンギのような温かさだと詠います。
そのやさしさが、とても好きです。


無機質な文字列なれど文体に父の面影形見のメール 林陶子

194p

お父様が亡くなられた後に、残されたメール。作者とお父様は、いろいろなことをメールで伝えあっていたのでしょう。そのメールを読み返しながら、お父様を偲んでいる一首と読みました。
デジタルの文字ですから、書き文字のように癖があるわけではない。けれど、「文体」の癖がお父様を表している。
私は、父とはメールのやり取りをしたことがありませんが、家族とのLINEでは、やはりそれぞれの文体があるなぁ、と感じます。それは、「はい」という返事ひとつをとってみても、なにやらの癖が、それぞれにあるのです。
作者はお父様とのメールを、削除することはできないのだろうなぁ、と思いました。亡き人の痕跡は、大切に取っておきたい、ですよね。


節分の鬼に泣く子を抱き上げる 桃太郎になどならなくていい 小金森まきさん

197p

節分の鬼に泣いている我が子(たぶん男の子)を、抱き上げて宥めている景と読みました。
下の句がとてもいいです。「桃太郎」は、いろいろな「ヒーロー」の代表としてここに詠まれているのでしょう。作者はどんなヒーローにもならなくていいんだよ、そのままでいいんだよ、と、子どもを全肯定している、と思いました。
泣き虫のままでいいんだよ、悪と戦わなくていいんだよ、弱くていいんだよ、男の子だからって〇〇しなきゃいけないなんてこと、ないんだよ。
そんな声が聞こえてきます。
下の句がとても、とても好きです。


以上、五首でした。
今回ははからずも、身近な人の死を詠んだ歌と、あたたかく優しい歌の二種類が心に残ったようです。(こうして書き留めるまで、気づきませんでした)
今月もいい歌がたくさんありました。そんな歌に触れられて、本当に幸せだと感じます。ありがとうございました。

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