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川上未映子『黄色い家』感想


3日くらいでどーっと読んでしまった。
ぐんぐん読み進めさせる力がすごい。厚めの本なのに「まだこの辺か」って疲れない。
Twitterの感想でも帯でも書いてあったけど、一気読みさせる本なんだな。出来事が面白いんだろうか。社会の闇ってみんな覗いてみたくなるけどそんな感じ?って思ったが、東村山での生活とかれもんの頃はそうでもないしな。疾走感?
東村山での黄美子さんとの生活を描いた二章の魅力は生まれた環境に対する鬱屈感とそれを吹き飛ばすような、視界が開ける感じ。
でも、トロスケにお金盗まれたところから一気に物語がぐんっと進む感じがあるんだよな。あと、れもんの火事とか。母親の金の無心もか。やっとうまく回り始めた時に大きな出来事が起こって展開するというか、強制的に転換させなければならなくなるというか。
それで闇のお金に手を出して加速していくんだな。

花の一人称視点で話が進むから、花が不安定になったときの世界の揺らぎ方がすごい。これが帯で描かれてた「川上の小説が読者の心に残すのは、印象ではなく、経験(後略)」だという亀山郁夫の言葉につながるものだろうな。

人間関係において「私がいないとダメなんじゃないか」って割と簡単に思ってしまうけれど、全然そんなことないんだよな〜〜。優しくて気が利いて責任感が強くて視野が狭くて自信がない若い女の子がなりやすい思考なのかもしれない。ダメな男製造機の女の子とかよく聞くしな。
若くなくてもかな。旦那が家のこと全然してくれないとか色んなところで聞くし。私もパートナーに対して気が利かないなと思うこと多々ある。
だけど能力の問題じゃなくって、場所によってどの立場にもなれるし、もしくは場所によって決まってきちゃうんだろうなと思った。いつもさっと共有の荷物を持つ子はいつのまにかいつだって自分が持たなきゃと思うし、持ってもらう子は船頭多くして船山に登るじゃないけど手を出さないほうが良いかな、とか考えてるうちに手が出せなくなっていくんだよね。
人と関わる経験を積んでからなら大丈夫なんだけど、その練習してる段階の距離感わかんないときはどっちも息苦しくなっちゃうんだな。それが学校の友達とかだとお互いの生活に責任ないし、距離感ミスってもそこまで重くならないんだけど、この本の場合…………。
という誰にでも経験のある人間関係の難しさで共感させながら日本社会の階層を含めた構造みたいなものを見せつけられて引き込まれるという……。明らかに怖いもの見たさで読み進めていった部分はあるんだけど自分の住んでいる世界と地続きのものだしだからこそ目が離せない。

川上未映子は前に『ヘヴン』を読んだだけでそのときはイヤな生々しさが強くて暗い気持ちになったというか、目を逸らしたくなるお話だったんだけど、それは作家に力がある証拠だし、今回はその生々しさで逆に目が逸らせなくなった。そしてイヤじゃない生々しさになってたんだろうな。前回は私が嫌いなタイプの生々しさだったってこともあるだろうけど。

あと登場人物たちが魅力的だったな。お金があるなしではなく、生まれたところから逃げられない、逃げてもどこに行く当てもない苦しさをそれぞれ抱えたひとたち。でも一人一人が抱えてる苦しさを書いてる文章がまた面白くってどんどん読んじゃうんだ。

個人的に一番ぐっときた部分が登場人物が昼寝してる場面での「それは眠っているのにぜんぜん眠っているように感じられない、わたしにも覚えのある苦しい昼寝であるような気がした。なにもすることがなく行くところのない人が、どうしようもなく意識を中断させるためにするような昼寝。」っていうところ。めちゃくちゃ覚えある〜〜〜〜。

個人的には直木賞取った『木挽町のあだ討ち』よりも面白かった。
でもあの作品も1週間も経たずにぐーっと読んじゃったな。最近そんなのが多いのかな。それとも力のある作品のいくつかはいつの時代もそうなのかしら。

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