ネドリー06

あれからずっと、デニス・ネドリーの復活を待ち望んでいる

 前回のブログ「全力の『ジュラシックパーク』ごっこ」であげた全4作の名場面のなかで、私の息子がもっとも気に入っているのが1作目『ジュラシックパーク』中盤の「デブのネドリーがディロフォサウルスの毒をくらう場面」。私自身が子どもの頃好きだったシーンでもある。というか私はこのデニス・ネドリーそのものが好きだ。『ジュラシックパーク』について語り始めたからには、彼に触れないわけにはいかないだろう。

▲ ウェイン・ナイト演じるデニス・ネドリー

◆ 映画を動かすために一番がんばった男

 ネドリーはジュラシックパークのセキュリティーシステムを管理するプログラマーで、デブでコーラとスナックが好きで勤務態度は最悪、机の上も下もゴミだらけ。周囲を不快にさせる言動を趣味としているような男だ。

▲ この場面、よく見ると仕事中なのに
PC画面で『ジョーズ』らしきものを鑑賞している

 しかし、彼には重要な使命がある。それは状況をかき乱し映画を動かすこと。専門家たちがパークを視察するメインストーリーの裏側で、ライバル会社に恐竜の胚を売り渡し大儲けする計画を着々と進めるのだ。その顛末、デニス・ネドリーがおそらく生涯で一番がんばった数時間を以下振り返ってみたい。

 ▲ 運悪く決行当日は大嵐。胚を盗み島から逃げ出す
途中で、車がぬかるみにはまり立往生してしまう。

 ▲ 滑って転んでメガネをなくした上、

▲ ワイヤーを木に巻きつけて脱出をはかろうと
奮闘しているところでディロフォサウルスと遭遇。

▲「肉食系だろうが小型だし、適当に追っ払おう」くらいの
認識で雑にコミュニケーションをはかろうとするも、失敗。

 ▲ そしてどんどん不穏な雰囲気に。

▲ シャーッ

▲ えりまきが広がったかと思うと、
ビュッと毒が飛んでくる。ベトベト。

▲「目が、目がー」

▲ 踏んだり蹴ったり。

▲ 最後はディロフォサウルスと車中で二人きりに。

 何回見ても超名場面。こうしてネドリーの野望は露と消え、お役御免となる。合掌。息子はこの一連のシーンがお気に入りで、「ディロフォサウルスやろう、おじさんとディロフォサウルスのところやろう」とせがんでくる。彼はもちろん恐竜役だ。最初おとなしく人なつっこい様子でクークーホロホロと喉を鳴らしながら近寄ってきて、いきなりシャーッと吼えて毒を飛ばすくだりをひたすら繰り返す。そして自ら大爆笑。

 そんな息子は知るよしもないだろうが、私はこのネドリーという男のことが心底愛おしい。彼がいなかったらこの映画はどうなっていただろうか。彼が自らの欲望に従って胚を盗み出し、その際セキュリティーシステムを解除したからこそ、ティラノサウルスやラプトルらは檻から出て人間たちを襲うことができたのだ。もし彼が善良なプログラマーだったら、あのヤギも「ヒルのような」弁護士もサミュエル・L・ジャクソンも恐竜に食べられることはなかったし、少年ティムはゲロを吐いたり感電したりせずに済んだはずだ。

▲ ネドリーがいなければ、こんなことにはならなかった

▲ この娘もこんな思いをせずに済んだ

 あのスペクタクルもサスペンスもアドベンチャーも、すべてネドリーが状況をかき乱し空回りしたおかげであり、つまりは彼こそがこの映画を動かし走らせた立役者なのだ。ありがとうデニス・ネドリー、愉快な映画を本当にありがとう。

◆ ネドリー生存説

 私は、ネドリーは実は生きているのではないか、とひそかに信じている。劇中、彼が登場する最後のカットはディロフォサウルスと車中で二人きりになったところであり、続くカットではその車が大きく揺れ動き、ディロフォサウルスの咆哮とネドリーの断末魔の悲鳴、そしてぼてっ腹が鉤爪で切り裂かれたとしか思えない恐ろしい効果音が響き渡った。誰がどう見てもネドリーは死んだ。どう考えても彼は恐竜に食われた。確かにその通りだ。が、死にざまが画面にはっきり映ったわけではない。ならば後はこちら側の領分、想像力次第ではないか。私には見える。深手を負いながらもなんとかディロフォサウルスを撃退し、泥の中から盗んだ胚を拾い上げるネドリーの姿が。彼は地獄の苦しみに耐え、いくつもの奇跡の連鎖のおかげで生き延び、傷を癒した後消息を絶つ。一生遊んで暮らせるだけの富を得られるはずだった計画が頓挫し、恐竜の毒で視力を失い、車椅子生活を余儀なくされながらも、世界への憎悪と逆恨みが彼の心を支え続けるのだ。そもそも彼はたんなるだらしないデブではない。ジュラシックパークのセキュリティーシステムを任されていたほどの腕前の持ち主、プログラマーとしては一流である。

▲ 名高い「アッハッハーン」のシーン。
小学生の頃マネしまくった

 この10数年間に起きた大規模なサイバーテロの裏側にはつねに彼がいたし、『ジュラシックワールド』で大暴れしたキメラ恐竜「インドミナス・レックス」開発の糸を引いたのも実は彼だった。すべては悪意を世界中にバラ撒くための準備と実験にすぎない。盲目の大悪党デニス・ネドリーが再始動する日は近い……

 残念ながら、遊び心と過去作へのオマージュ満載の傑作『ジュラシックワールド』でも、ネドリーの復活は実現しなかった。あと2作つくられるという続編でも、絶対そんなことは実現しないだろう。というか正直しない方がいい。先に私はネドリーの生存を「ひそかに信じている」と書いたが、「信じているふりをするのを楽しんでいる」といった方が正しい。もう決して現れないネドリーを自分勝手に空想するだけで十分なのである。皆さんも『ジュラシックパーク』鑑賞の折りには、ぜひ心のなかでネドリーにエールを送ってあげてほしい。

▲ ちなみに『ジュラシックワールド』では、
このかわいそうな人のことが一番心に残った


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