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「ヴィンチェンツォ」評 -ありえないでょ?でももしかしてあるかも

映像を見る気がしなくて、そろそろ解約しようかとまで考えていたネットフリックス。それでも最近は、古い懐かしい映画に力を入れているようで繋ぎ止められていた感がある。そんな中、ランキングに必ず出てきて、かつロングランの韓国ドラマが、このヴィンチェンツォ

会社の後輩も上長も見ていて、映像を見たくないとか言ってた矢先に少し見始めると、これが、めちゃくちゃ面白い。最近の韓国ドラマは引っ張り方が洗練されてきた。韓国ドラマ特有のワンカットでドーンと長めに引っ張って雰囲気を高めるやり方が、随分と少ない。テンポが良い。1話1時間強×20話と長いドラマなのに、一気に観てしまった。仕事に支障ありあり。

とはいえ、韓国ドラマのパターンにしっかりハマっている。基本的に主人公を軸に脇役を際立たせる。毎回終了前には必ず次が観たくなる驚きのイベント。音楽でシーンを創り出すところ(ワーグナーのようなライトモティーフのようで結構気に入っていて、自動的にスイッチが入る)や、客を飽きさせない要素をふんだんに取り込んでいて、最後まで楽しく観させてもらった。

特徴的なところは、最大級に残虐なバイオレンスを濃い目のコメディのスパイスで巧妙に隠し、かつノワール的な映像美で肯定感を演出するという、なんとも離れ技。個人的に映画もドラマも好きだが、トーンが明るいままでここまでの残虐な悪党を描いた作品は見当たらない。

韓国の解説者、ハ・ジェグン氏の言葉を引用する。「国民の怒りが限界に達するほどに公的システムが信頼をもたらしていないので、結局のところドラマが一線を超えてしまった」。もちろんドラマはドラマでしかない。韓国に蔓延する権力や金に対する欲の大きさ、日々のニュース、その反感。すべてがデフォルメされているけれど、実は身近にあるもの。それを明るみに出し、かつそれが共感を生んでしまっている、韓国社会。

さて日本では?いやーありえないでしょ(笑)という反応が返ってき来そうだ。私も半ばそう思っていた矢先、タクシーの運ちゃんが「ウチの社長は毎日飲み歩いていて、ウチの給料では考えられない店のネーチャン連れて遊んでいる」というような話をしていた。ほほう。日本でもあるのか。見えていないだけなのかも。ありえないと思わせられているだけなのかも。

高度な社会風刺という面で秀逸なのは、ドラマの中のイベントが悉く実際の事件をモデルにしていることだ。作家のパク・ジェボム氏の引出しの多さに敬服。過激な描写も多く、ネタバレにはなるが最終話付近の殺人劇は衝撃がまだ残っているほど、毒の強いものだ。これから観る方はどうぞお気をつけて。

音楽のチョイスも良い。実際にオペラの鑑賞シーンも出てくるし(リゴレットかな)、全編通してカバレリア・ルスティカーナのテーマが流れ、ピアノピースやオペラアリアもたくさん出てくる。モーツァルトのレクイエムからラクリモーサが流れたときは一際ゾッとした(当然、死を暗示して)。キム・ヒウォン監督のこだわりだった模様。

小ネタの面白さも随所に散りばめられている。ディテールにこだわる様子は、作家のスタイルなのか韓国のトレンドなのか。映画やドラマのパロディやオマージュ、小さな仕込みや韓国語の名前や設定など、探すとキリがない。豚の血、ケーキからジュース、RDU-90、ハトに助けてもらう、ハサミで攻撃、カンフーハッスルなどなど。いろいろ探しながら、2回目を観るのも面白いかも。日本語で全て伝えきれないことが残念。私も全ては理解できなかった。

本当はイタリアロケをしたかったらしいが、コロナで出来ず、全部CGだったとか。映像の完成度の高さも楽しみのひとつ。ソン・ジュンギが男前過ぎて、おっさんの私でも眼福だった。男前なのに、演技が上手い。私は男なので女優の方に目が行くことの方が当然ながら多いはずが、この俳優は結構見入ってしまう。ソン・ジュンギ扮するヴィンチェンツォへのリスペクト、少しオーバーながら脇役たちのBL描写も、影響しているのかな。とにかく、男前過ぎる俳優。絵が締まる。

ストーリーや展開については、あまり多くを語らないことにする。韓国の多くの事件の知識を知っていれば、より面白くなること請け合いだ。韓国の権力とお金の関係については多くの情報がある。日本でも話題になったハンジンやロッテあたりのこと、また、大統領と財閥との癒着をめぐる数々のテーマ(最近だとサムスンと朴槿恵とか)に少し触れるだけで、もっと楽しめると思う。

韓国ドラマの面白さに、またやられた。この流れでまた他のも観てしまいそうだな。いやいや、寝不足でいろいろ影響出るから、我慢しようかな。でも観たい(笑)

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