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「マトリックスレザレクションズ」評 -混迷の時代を映し出す鏡

鏡になった。これぐらいのネタバレは良いかと思う。つまり、電話機が鏡になった。

これを象徴的と捉えるかどうかはさておき(個人的にはスマホで転送されるのを期待していた)、途中、姉妹になったウォシャウスキ姉のジェンダーに対する考え方を表したところや、ボットなるもので情報社会における人々のモブ化を強調したところ、またしつこいくらいオマージュをブチ込んでくる辺りに過去作への依存を通り越して否定まで感じさせるところなど、第一印象としては度肝を抜かれる内容だった。

とりわけ好きな作品だからこそ、何度も見返した作品だからこそ純粋に続編はうれしい。シリーズらしいオープニングから興奮がMAX。白い髭が目立つ、ちょっとやる気のないネオを見て、うれしくなる。20年経っても変わらないトリニティの美しさに、胸がキュンとする。前3作はゲームという設定だが、本当にゲームのような、ファイナルファンタジーⅦのティファ(なんと!)とかぶる。明らかに、重心がティファ、いやちがうトリニティに置かれている。

惜しむらくはアクションシーンだ。トリニティのカッコ良さを強調するあまり、ネオはただの弾除けに成り下がってしまっている。あの有名なマトリックス避けのバレットタイムのようなアクションシーンは、最後まで見られなかった。いくつか「お!」というシーンはあったが、物足りない。たしかに映像でやれることは当時の革命的技術でやり切っているのかも知れない。コアなファンの中でもアクションシーンを大切に思っている人からすれば、溜飲を下げるには至らなかったように思う。

私はコアなファンとまでは行かないけれど、好きな映画の続編を観れて満足した部分と、アクションシーンなど少しの違和感を拭いきれない部分とが同居した感想だ。ストーリーやコンセプトを伝えることに偏ったことで、捨ててしまったのだろう。まあそれも良い。ゲームの世界に前3作を閉じ込めたのは面白かった。しかし、それを超えて新しいコンセプトを伝えたかったのだろうが、羊たちはノスタルジーをより求めてしまっているのかもしれない。ネタバレだが最後のトリニティがマトリックスのビル群を眺めながら「Beautiful…」とつぶやく瞬間は、示唆的だった。時代を映し出す鏡を通じて、現実世界とマトリックスの世界とを行き来する、まさにおとぎ話。鏡よ鏡よ鏡さん、、、二番煎じ上等、このコンセプトで更に尖った続編を期待する。

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