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【プロジェクトV】"バーチャル×リアル"VTuberテレビ番組が誕生するまでの秘話!!

プロフィール                    渡辺 邦宏/Watanabe Kunihiro            日本テレビ放送網株式会社

東京大学経済学部卒業後、誰かにスポットを当てて輝く瞬間を見せたいと思い日本テレビに入社。コンテンツ制作局でAD、ディレクターを経て現職。


「大井くんの熱意と口車に乗せられてお話を受けました」

大井:今回は『プロジェクトV』の演出家・渡辺邦宏さんにお話を伺っていきたいと思います。渡辺さんは日本テレビで『プロジェクトV』の他にも数々の番組に携わっていますが、具体的にはどのような番組を担当されてきたんでしょうか。

渡辺:『有吉反省会』や『今夜くらべてみました』などの番組に関わって、初めてメインで企画・演出を担当したのは『新・日本男児と中居』ですね。入社してから7年目の時、企画が通りました。今は『1億3000万人のSHOWチャンネル』や『午前0時の森』を担当していますね。

大井:これだけのレギュラー番組に若い内から関わっている渡辺さんは、日本テレビの制作の中でもエースの1人です。これは声を大にして言いたいですね。

渡辺:別に声を大にして言わなくても(笑)。運が良かったというのもあると思います。

大井:制作現場の最前線にいる渡辺さんのような方に担当してもらえるとは思っていなかったので、ものすごく驚いた記憶があります。最初に『プロジェクトV』の話を持ちかけられたとき、どういう印象を抱いたか覚えてますか?

渡辺:当時は、VTuberという存在はニッチ寄りのコンテンツという印象でした。僕自身、触れたこともなかったので。更地を前にしたような感覚でしたが、逆に今までの地上波とは違う新しいチャレンジができるのではないかと思いました。

大井:当時の渡辺さんからすると、かなり多忙な状況の中でなぜVTuberをメインとしたチャレンジングな番組をやってみようと思ったのでしょうか。

渡辺:確かに……思い返してみれば、かなり忙しい時期でした。同時に8、9本の番組を進行していたので。やっぱり、大井くんと話してみて、その熱量に当てられた部分は大きいと思います。VTuberとはなにか、VTuberの持つ将来性、可能性の話とか、目指すべきところなどを熱く、しっかりと語ってくれたので「楽しそうだな」と思いました。「VTuberという未来ある業界でも、テレビ局の制作力があれば、きっとVTuber界のトップを狙える。そこでトップを取れば、ひいては世界に通ずるコンテンツを作ることになる。”日本テレビの渡辺”から、”世界でも戦える渡辺”に僕がします!会社を辞めても年俸1億稼げるようにします!」……という大井くんの熱意というか、半分口車に乗せられたと言っても過言ではないです(笑)。

大井:いやいや、本心ですよ!笑。改めて、演出として担当いただけて良かったなと思っています。

『プロジェクトV』制作秘話とその軌跡

大井:番組が始まる前、「VTuberをテレビでどうやって見せていくか」というのが議論のポイントだったと思います。渡辺さん自身、それまでVTuberをあまり知らなかったとのことですが、番組をスタートする当時はVTuberについてどう感じましたか?

渡辺:改めてにはなりますが、当時全くVTuberを見ていなかったので、アニメ、オタク、萌え文化くらいの、浅いイメージしかありませんでした。でも実際に番組を通して関わってみたら、全然そんなことはなく、個性があって才能の塊のような人達だなと感じました。回を増すごとに「まだこんな面白い人がいたのか」と驚きましたね。

大井:20代の頃から、テレビの第一線で活躍するタレントさんを数多く見てきた渡辺さんから見ても、そのように感じると?

渡辺:そうですね。場合によっては、そういった“テレビのエンタメのプロ”達と肩を張るくらいなんじゃないか、と思ったこともあります。

大井:どういったときに感じますか?

渡辺:正直、その場に合った「ワードセンス」などはプロの芸人さんの方が上手いとは思うんですけど、VTuberはそことは別ベクトルの面白味があると思っています。それは、VTuberそれぞれにが持つストーリー、個性、アイデンティティーを表現する「キャラクター性」です。もちろん芸能界でもその人の「キャラ」は重要ですが、僕は常々VTuberのキャラクター性は、リアルな人間のキャラクター性を超えていると考えています。例えば元プロボクサーの竹原慎二さんと星川サラさんが罵った初回で言えば、ビジュアル・口調・声色・全てを含めて“星川サラ”というキャラクターがあるから、失礼なはずのやり取りが笑いになる。現実のタレントさんで、あそこまで突き抜けた”ヤンチャな少女”はなかなかできないと思います。

大井:タレントとして凄いなと思うVTuberはいますか?

渡辺:大空スバルさんはすごいなと思っています。先ほどのキャラクター性の話でいくと、大空スバルさんは”超活発で元気な女の子”、というのが純度120%で表現できていると思います。「Summer Voyage!!」のライブで、大空スバルさんが『夏祭り』を歌っている最中に周囲に置かれた花火玉が誤爆する、というドッキリへのリアクションは、その活発さがいい方向にいきてすごく良かったです。予想した以上に面白くしてくれて、作り手冥利に尽きましたね。

大井:あの『夏祭り』は反響も非常に大きかったことを鮮明に覚えています。また渡辺さんが『プロジェクトV』を制作するにあたって、大事にしていたテーマやコンセプトはありますか?

渡辺:VTuberが普段は絡まないようなテレビ業界の大物、芸能人と関わるっていうのはテーマのひとつでした。『ルパン三世』の声優やれますよとか、乃木坂46と共演とか、ROF-MAOがsyudouさんと楽曲を作るだとか、内輪だけで番組が完結しないように、外へ向かっていくというのは意識して作っていましたね。まぁ、僕たちがそんなお膳立てしなくてもVTuber業界は社会へ進出していったわけですが。その一助になっていたら嬉しいですね。

大井:確かに、ここ1~2年でVTuberはものすごいスピードで社会に影響を与えるようになりました。それを肌で実感することはありますか?

渡辺:感じますね。コンビニに行けば何かしらのコラボ商品は絶対に並んでいるし。この間も月ノ美兎さんの「委員長のピーチティー」気づいたら手にとってましたから(笑)。本当に、日常生活の中で目にする機会が増えたと思います。

大井:『プロジェクトV』を制作する上での技術面の話ですが、普段のスタジオとは違ってかなり特殊な状況で撮影をしているじゃないですか。ああいった仮想空間、メタバースでの撮影で苦労したことは何でしょうか。

渡辺:細かい苦労はたくさんありますよ。カメラを固定して撮影しなければならかったので、自分で振れたらどんなに楽だろうと思ったりとか。でも技術面の問題なんて、時間が経てばどんどん解消されていくだろうなとは思っていましたね。進化のスピードが凄まじいので。今の話で言うと、物を持って何かするというのが表現として難しいんですけど、近いうちにできるようになるという確信はあります。何か食べるのをリアルな動作で表現したり、野球みたいなスポーツをするのはできそうですよね。少し前までは、高価なモーションキャプチャーをつけて撮影するのが当たり前だったのに、最近はパソコン1台でできるものもあるらしいじゃないですか。技術面の未来は明るいですね。

大井:この番組は地上波で放映するだけでなく、ネット番組やイベントの配信も手がけてきましたが、テレビと違って大変だったこと、逆に面白いと感じたことはありますか?

渡辺:テレビ番組よりよっぽど難しい部分はありました。“推し”の文化もある中で、外部の僕たちみたいな人間が作るコンテンツにお金払って見てもらうわけですから、それだけのクオリティが求められる。だからこそ、これまでのVTuberコンテンツにないものをやろうとしていましたね。

大井:毎回企画についても時間をかけて議論をしてきたと思うのですが、配信番組で手応えを感じた回はどれでしょうか。

渡辺:2つあって、1つはミライアカリさんのドッキリ企画回です。ミライアカリさんが底抜けに明るくて、そのキャラクター性が存分に生きたかなと。もう1つはROF-MAOの即興ドラマ回です。ファンの方々からセリフを募集するのも新鮮でしたし、人狼みたいなゲーム性もあったので面白かったですね。

大井:僕も挙げるとしたらその2つですね。ミライアカリさんのドッキリ企画は現場でお腹抱えて笑った記憶があります。ROF-MAOの即興ドラマ回はセリフを募集したというのもありますが、ファンからの反響がものすごく大きかった印象です。こういった番組は普段のテレビ番組と比べると、視聴者の声がより近くに感じられるかなと思うのですが、いかがでしょうか。

渡辺:確かに、深夜の番組にも関わらず、TwitterなどのSNSで反響が大きかったかなと思います。しかも、好意的な意見が多い。普段、自分の番組のエゴサをするときは結構否定的な意見が目に入ってくるので……。それが嫌になって「番組名 面白い」で検索したりとか(笑)。でも、この番組ではその必要が全くありませんでした。こちらが視聴者に「こう感じてもらえたらいいな」と思ったことが、そのまま伝わっていることも多かったです。もちろん好きなVTuberさんが出演しているから、というきっかけで見てくれた方がほとんどだとは思うのですが、こんなに前のめりで一生懸命見てくれる人がいるんだなぁと嬉しかったですね。

大井:面白いと言ってくれる方が本当に多かったですよね。

渡辺:否定的な意見なんて、「ミカエルが気持ち悪い」くらいしかパッと出てこない(笑)。

大井:確かにそうですね(笑)。視聴者の多くがVTuberのファンで、番組もファンコンテンツという意味合いも大きかったと思いますが、制作するにあたって気をつけていたことは何でしょうか。

渡辺:大きく分けると2つあります。1つは、「出演者であるVTuberさん自身が楽しいと思ってもらえる」・「ファンの方もこの番組、扱い方わかってるな」と思われるような番組にすること。常に出演者の方の個性がどう引き立つよう、リスペクトを持って制作する。もう1つは、それとは逆に「ファン以外の方が見ても面白いものにすること内輪だけの番組にならないようにすること」です。テレビ番組である以上。ファン以外の方の方が人数としては多く目にするので、VTuberを知らなくても楽しめる構成・設計はテレビ的な手法によって表現していました。

大企業に所属しているからこそ感じるClaNの良さ

大井:『プロジェクトV』はClaNと日本テレビと一緒に制作を進めてきましたが、渡辺さんから見て、ClaNという会社、ClaNのメンバーはどのように映りましたか?

渡辺:大井くんのワンマン会社じゃないんですか?(笑)。

大井:違いますよ(笑)。誤解を生むような発言はやめてください!(笑)

渡辺:まぁ、それは冗談として。みんな物腰が柔らかいというか、人当たりが良い人が多いなという印象です。社会人としてきちんと対話ができるし、お互い困ったら助け合えるような穏やかな人が多いですかね。攻撃的な人もいないし、チームとしての働きやすさを重視しているのかなと思いました。あとは、若い企業として良いところもたくさんあると思います。僕はテレビ番組という大きめの組織にいるので、企画が成立するまでに何段階も踏まないといけないとかあるけれど、ClaNチームの仕事のスピード感、次々に自分達の手で決まって行く実感は、魅力じゃないですかね。あとはやっぱり、社長が聡明でリーダーシップがあるってところじゃないですか?

大井:何だか最後、取って付け足した感が……。

渡辺:いやいや、大事なことですよ。大井くんみたいに、きちんとしたビジョンがある人についていきたいって思う人は多いはずですから。だからこそ、大井くんをはじめとして、熱意を感じる人も多いですね。自発的に企画を持ってきてくれたりとか。変な上下関係もなく、目的のために一丸となって仕事ができるっていうのは良い事だと感じてます。

大井:ありがとうございます。最後となりますが、渡辺さんが演出家として、今後挑戦してみたいことはありますか?

渡辺:大井くんと出会った2年前から変わらず、”VTuber並びにメタバース空間コンテンツを世界へ”を目標にしています。2年前とは全く違う景色が現時点でも見ていて、今後新しい形のエンターテイメントとして可能性をより感じているので、時間がかかってもこの目標は達成したいです。新番組は音楽番組として挑戦しますが、リアルとバーチャルが交わる新たな”メタバースミュージックショー”を作り上げたいと思っています。メタバース空間でのライブとは何か?今後メタバース空間をはじめ世界に打って出ることのできる音楽とは何か?そんな事を模索しながら、番組を制作していこうと思います。