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キュリー夫人の実験ノートは今も放射線を放ち続けている。

世界最古のツイートが高値で落札された、というニュースが最近ありました。

なんでも、ツイッター社の共同創設者兼CEOのジャック・ドーシーが2006年に投稿した最初のツイート "just setting up my twttr" の原本データが、290万ドルで落札されたんだとか。

そんなものどうやって「原本」と保証するんだという話ですが、非代替トークン(Non Fungible Token; NFT)という、ブロックチェーン技術を応用したデジタル鑑定書を使うそうです。ツイートのデータと購入者を唯一無二のNFTに紐付けることで、「このデータは紛れもない本物です。購入したのは紛れもなくこの人です」と保証するそうな。わかったようなわからんような。

現在は、文章も画像も立体物さえもデータ化してコピー・共有できてしまう時代。そんな時代でも(そんな時代だからこそ?)、「本物」「原本」「リアルタイム」には高い価値がつくということなのでしょう。

このニュースを見たときに私は、かつて「研究者の心得」的な研修で聞いた、キュリー夫人の実験ノートの話を思い出したのです。

放射性物質の研究を開拓したキュリー夫人

キュリー夫人の説明なんてもはや不要なんじゃないかと思いつつも、ざっくり紹介します。

マリ・キュリー(1867〜1934)は、放射性物質の研究で多大な功績を残した科学者です。女性が研究者を目指す道などほぼ皆無だった時代に、苦学の末にフランスで学位を取得。配偶者のピエール・キュリーと共に、放射性物質の崩壊現象と、それに伴う放射線の発生について研究しました。

放射現象に関する研究が評価され、1903年にアンリ・ベクレル、ピエール・キュリーと共にノーベル物理学賞を受賞。

ラジウムとポロニウムの発見および性質の研究が評価され、1911年にノーベル化学賞を受賞。残念ながら、ピエールは受賞を見ることなく事故で他界していました。

第一次世界大戦でのエピソードも有名です。キュリー夫人は、放射線つながりでX線撮影の技術があったため、自らレントゲン車を運用して戦地に赴きました。負傷兵の体内に残った弾丸や砲弾の破片を検出して、治療に役立てるためです。

研究者・技術者・教育者として非凡な活躍をしたキュリー夫人でしたが、日常的な放射線被曝により健康を侵され、60代で病に倒れました。

「今も放射線を放つノート」が意味すること

キュリー夫人が実験室で使用していたノートは、100年以上たった今でもα線やγ線を放っています。放射性ラジウムの微粉末や、その崩壊系列の核種が付着したのでしょう。

このことが意味するのは、キュリー夫人が実験室で放射性物質を扱っていたまさにその場に、ノートも常に共にあったということ。実験室にノートを持ち込み、リアルタイムで記録していたからこそ、放射性物質がノートのほぼ全体に付着したのです。

実験しながらリアルタイムでノートをとる。当たり前のようですが、これができない人が案外多いのです。

某再生医療関係の研究で、実験ノートがあまりに杜撰だったことがかつて取り沙汰されました。手書きの記録がほとんど残されておらず、後からPCで打って印刷したようなメモが糊付けされているだけ。観察事実でなく感想が書かれている。オリジナルの略語が説明なしに登場し、第三者が見ても意味がわからない。

こういう事があったので、「実験ノートの書き方」みたいな研修が、大学でも企業でも見直されるようになりました。

研究者本人によってリアルタイムに記録されたことを立証できなければ、実験データとして価値を持たず、裁判の証拠にもなりません。だから私の職場でも、実験ノートは手書きを原則とし、印刷物を貼付する場合は割印を押し、1ページ書き終わるごとに日付とサインを記入するようになっています。

キュリー夫人の場合だと、「放射性物質の付着」という彼女ならではの証拠が、実験ノートが本物である事を物語っています。やはり研究者としてのマリ・キュリーも、彼女が残した実験ノートも、紛れもない本物だったのです。

本物を積み上げる

何でも簡単にコピー・編集でき、事実とフェイクが入り乱れる現代。「リアルタイムに記録された本物の情報」を選び取ることは、すべての人の課題です。同時に、自分が記録者・発信者になるときは、後世の人たちのために「本物」を積み上げるんだという意識を持ちたいものです。

「本物であることを保証する手段」をこだわりだすとキリがありませんが、「信頼される度合い」を高める工夫は案外簡単ではないでしょうか。

たとえば、自分の筆跡が残る手書きメモ。
たとえば、出典の明確な情報。
たとえば、日時データつきの写真。
たとえば、証人になってくれる人の存在。

こういった「本物」の積み上げを、普段からどれだけやっているか振り返ると良いかもしれませんね。そして、本物に基づいたアウトプットをnoteやブログとして積み上げてゆけば、きっと強力な資産になるでしょう。

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