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来週の相場見通し(8/15~8/19)

 今回も簡易バージョンでお届けする。マーケットが夏休みモードになる中、米金利は膠着、株式市場は日米ともに底堅い展開で推移している。米国雇用統計後に、市場の先行きの利上げ見通しは上方修正されたものの、依然として来年の利下げを織り込んでいる状況だ。現在は、来年3月までに3.66%まで利上げを実施し、来年末までに60bp程度の利下げが行われることを織り込んでいる状況だ。

(FFレートの織り込み)

ブラード総裁からは「年内に3.75%~4.0%まで金利を引き上げた後、来年の1-3月期に追加利上げが必要か判断したい」とかなり具体的な発言が出ている。ポイントは、あくまで追加利上げの有無であり、利下げの必要性は全く言及していないことだ。更に一昔前までは最もハト派で知られたミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は、「今年の年末までに3.9%へ利上げし、来年は4.4%まで利上げすべし」と最もタカ派的な発言に転じている。
いずれにしても、マーケットではインフレ鈍化、株高、景気後退リスクの低下という3つのポジティブ材料で明るいムードが続けば続くほど、FRBには望ましくない状況であり、FRBからは市場を警戒させるような強い言葉が出てくる。市場のセンチメントとFRBの言動は「逆相関」の関係にあるのは興味深い。
こうした中、米金利のイールドカーブは2年と10年金利が一時は節目の▲50bp程度に拡大した。(下図)緑部分が順イールド、赤色が逆イールドだ。

(短期の2年と10年の逆イールド)

この逆イールドがどこまで拡大するのかは、米長期金利の動向を考える上で重要となる。下のチャートは2年と10年の逆イールドの長期チャートであるが、1970年代から1980年代は異常値なので、それを除けば、現在でも既にかなり大きな逆イールドであることが分かる。▲50bpよりも更に拡大する可能性はあるものの、私は長期金利が2年金利水準へと上昇することで、イールドカーブはフラット化に向かうと考えている。つまり、長期金利はじりじりと再び3%台に向かうだろう。

(2-10年逆イールド長期チャート)

それにしても、日米ともに株式市場の雰囲気はかなり明るくなってきた。そのきっかけとなったのが、米国の雇用統計だ。
米国雇用統計では、非農業部門の雇用者数、平均賃金、失業率ともに予想を上回る強い内容が示された。景気後退とは程遠い状況であることが広く認知され、過度な悲観論が消えた。但し、需要サイドが強烈に強いわけではなく、需要は底堅く、供給が弱いことによる労働市場の強さであることは留意が必要だろう。
求人件数が1千万件を超えるなか、労働参加率は低下しており、人口動態や社会環境による労働力不足が顕著なのだ。
米国は第二次世界大戦後のベビーブーム世代であるブーマー(1946~64年生まれ)が退職期に突入している。現在米国の65歳以上の人口は5400万人程度だが、10年後には7500万人とも推定されており、労働供給力はプレッシャーを受け続ける構造問題を抱えている。
賃金インフレが抑制されていないことに対し、CPIやPPIの前月比が低下したことや、ガソリン価格が大きく下がったことで、インフレへの過度な警戒感も薄れており、これが株式市場の上昇の1つの根拠として説明されている。ところで、市場で話題になったサンフランシスコ連銀のレポートを紹介しておこう。下のリンクで詳細を読めるが、ポイントは長期のインフレ期待は賃金インフレにほとんど影響しない一方で、短期のインフレ期待は大きく影響するということだ。つまり、市場ではミシガン大学の5年先インフレ期待に注目したが、実はこれだけではなく、1年先インフレ期待も注目する必要がるということだ。そして、そのミシガン大学の1年先インフレ期待は、やや鈍化した。今後、もっと注目される指標にランクアップするかもしれない。

Will Workers Demand Cost-of-Living Adjustments? | San Francisco Fed (frbsf.org)


さて、バイデン政権は520億ドルの半導体業界支援法案を成立させた。最初に法案が提出されたのが20年6月であり2年の時間をかけてようやく成立した。同法案自体は米国半導体業界にプラスであるものの、業界の規模との比較では支援額が物足りないほか、半導体市場は供給不足の問題に加えて、足元では需要が急速に低下しており、同法案の成立後にフィラデルフィア半導体指数は大きく下落するなど、あまりポジティブに捉えられていない。
半導体市場への不安は、今回の米国の決算でのインテル、エヌビディアやマイクロン・テクノロジーの先行き見通しの下方修正にも既に顕在化しており、今後は注目していく必要があるだろう。私は、半導体サイクル自体は消滅したわけではないものの、半導体を産業のコメとして必要とする社会変化により、従来のような激しい落ち込みを伴う半導体サイクルの時代は終焉した。これからのサイクルは、下げは限定的で、比較的浅い調整に留まる半導体サイクルをイメージしている。

岸田首相が党役員人事と内閣改造を行った。現在の主要な閣僚は留任の上、最大派閥の安倍派から萩生田氏を政調会長へ、経産省に西村氏を起用するなど派閥に配慮しつつ、防衛相には経験者の浜田氏、デジタル担当相に河野太郎氏、経済安保担当相に高市氏など、担当分野への知見が深い人物を起用した。岸田首相は「政策断行内閣」とネーミングし、これから「仕事」をする姿勢を示した。私がネーミングするとしたら、「河野太郎再起内閣」、「平時モード内閣」である。どういうことか?この内閣の顔ぶれは、平時の環境で問題をそつなくこなすタイプの閣僚の面々ではないだろうか?この中に、河野氏を除いて、何かハレーションを起こしてでも、改革を断行した閣僚はいるだろうか?そういう意味で、河野太郎氏は異質な存在で目立っている。広報本部長から閣僚入りしたことで、相当に気合が入っているだろう。そして、デジタル省こそは、菅前政権の肝いり政策であり、ここまで迷走してきた期待外れの省である。このデジタル省は単に日本のデジタル化を推進するような甘いコンセプトではなく、各省からデジタル予算を取り上げ、縦割りの各省庁にデジタルという横ぐしを刺すという非常に重要な省になるはずだった。それだけに、簡単ではない。強靭なパワーと突破力が必要になる。まさに、河野氏が適任なのだ。コロナの一番厳しいときに、河野ワクチン担当大臣は、短期間で100万回を超えるワクチン接種をやってのけた。その河野氏が降板すると、ワクチンの状況が急に不透明になった。河野氏が首相候補として適任かどうかは分からないが、少なくとも仕事は完遂するパワーと能力があることは証明済みだ。特に河野大臣のこれまでの言動から、デジタルやDXの本質について造詣が深いと思われる。つまり、デジタル化の先にどんなライフスタイルやサービスの変化があるかを具体的にイメージできている。私は結構期待している。また、この大臣の顔ぶれだと、河野大臣がやることが目立つだろう。それは、河野首相誕生への大きな原動力となる可能性があると思われ、今後の政局動向とともに注目している。岸田政権は、足元は「有事」であると何度も口にしている。しかし、大臣の顔ぶれは「平時モード」で活躍する面々であるのだ。まだ決めつけるのは申し訳ないが、私の期待を裏切り、各大臣が改革を断行してくれることを願う。

さて、来週であるが夏休みモードで市場は閑散だが、大きくは崩れないだろう。但し、翌週のパウエル議長のジャクソンホールを控えて、徐々に金利は上がりそうだ。今の米国株は多少の米金利上昇には崩れないが、それでもスピード調整はあり得るだろう。日経平均株価も売買代金の累積が集中している2万8千円後半から2万9千円を一気に上抜けるには材料不足だ。今週の予想レンジは28,100~29,000を見込んでいる。


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