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来週の相場見通し(11/15~11/19)

 マーケットでは、相変わらずインフレ懸念が最大の話題である。先進国の期待インフレ率は軒並み上昇している。先週は米期待インフレ10年が2.7%台となり、期待インフレ5年は初の3.1%台となった。(下図)

(期待インフレ率 上が10年、下が5年)

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但し、こうしたインフレ期待の上昇の中でも、欧米の名目金利は一時大きく低下したことは印象的だった。これは、10月末から11月前半にかけてカナダ中銀、オーストラリア中銀、イングランド銀行などが、いずれも市場予想よりもハト派な金融政策決定を行ったことによる。 特にイングランド銀行が金利を据え置いたうえ、ベイリー総裁が市場の利上げの織り込みを牽制したことはサプライズとなり、英国長期金利は10月後半から40bpも急低下し、欧米金利の金利低下の牽引役となった。但し、英10年金利は0.8%水準はサポートされる見込みで、英金利低下による米国金利低下は、そろそろ限界と思われる。下図は英国10年金利のチャートだ。

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米国雇用統計では、非農業部門雇用者数は53.1万人、前回の雇用者数も31.2万人に上方修正された。労働参加率は61.6%で横這いとなり、景気拡大の中でも労働市場に十分に雇用が戻らない状況が継続していることが示された。但し、先行きの米国労働市場には、私はそれほど悲観していない。昨日公表された米国労働局の最新のデータでは、米国の自発的な離職者440万人と過去最高になり、退職率は3%まで上昇した。詳しくは下のリンクで確認してほしいが、退職率が以上に高いのはレジャー・ホスピタルで6.4%、特に飲食で6.6%である。しかし、こうした分野の職業は、米国では一般的にいってあまり高給職ではない。つまり、悠々自適で離職する人々ではなく、より待遇の良い職場を求めて職を離れる人々であり、企業サイドの求人件数が低下してくると、とたんに離職率は下がると思われる。実際にこの統計における小売り部門は前月の4.8%から4.4%に大きく低下し始めている。そして情報技術や金融などの高給職では、ともに離職率は1.5%と安定している。こうしたデータからは、米国の持続的な賃金インフレの懸念は小さいと考えられるのではないだろうか。(リンク下)

https://www.bls.gov/news.release/jolts.t04.htm


米国のイールドカーブについても確認しておこう。米金利はフラット化の展開が継続している。5年-30年のスプレッドは今年で最もタイトな70bp台割れとなっている。2014年にテーパリングが開始された際には、同スプレッドは200bpから2015年初頭には100bpまでフラット化が進行した。現在はテーパリングが完了した時よりも、また2015年12月に利上げが開始された当時よりも既にスプレッドはタイトなレベルにある。これは、今後の米金利の動向が2014年からの金融正常化プロセスとは同じようにならない可能性を示唆している。当時は大きく金利が低下したが、今回は膠着する可能性が高いと思われる。

こうした中、先週は米国の10月のCPIがついに6%に上昇する「CPIミニショック」が発生した。コアCPIも4.6%となり、約30年ぶりの高水準である。現在の米国でのインフレは「長期化」と、対象範囲の「拡大化」が同時進行していることは否めない事実となっている。現在は、市場はインフレへの関心が強いため、来週の英国のCPI統計はリスクイベントになる可能性があり注意したい。(下図は、米国CPI)

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さて、米国議会では1兆ドル規模のインフラ投資法案が成立した。これは老朽化したインフラへの投資で、上下両院ともに必要性で一致していたものだ。一方でバイデン政権の目玉政策である「BBB(Build Back Better)」法案については、当初の3.5兆ドル規模から現在は1.75兆ドルまで縮小して議論されているものの、未だに民主党内部での意見の一致も見いだせていない。特に足元でインフラ懸念が上昇していることで、マンチン上院議員から、この法案を現在の環境で成立させることへの疑問が呈され始めており、状況はますます不透明になっている。ペロシ下院議長は来週中にも採決すると表明しているが、どうなることやら。但し、この法案が成立しなくとも、短期的な市場への影響は小さいだろう。景気対策ではないからだ。むしろ、国債増発への懸念払拭や、富裕層や企業への増税リスクの後退から、債券・株式共に短期的にはポジティブに捉える可能性すらあるだろう。

もう一つだけ、米国のインフレ関連のデータを取り上げておきたい。先週末に発表されたミシガン大学消費者信頼感指数である。この中に家庭用品の購買意欲を示す指数がある。それが下のチャートだ。

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この78という数字は、1978年以降で2番目に低い数字である。つまり、米国では材料費や賃金コストの上昇が、最終製品に価格転嫁されてきたが、足元では家庭用品について、価格の高騰から購入意欲が大きく低下するところまできているのだ。また、同じミシガン大学のアンケートでは、「米国人に4人に1人がインフレによる生活水準の低下を感じている」とのことだ。米国のインフレは社会問題に発展しそうである。これから米国では年末商戦が始まる。サンクスギビング、ブラックフライデー(11/26)、サイバーマンデー(11/29)と米国の年間の小売売上の30%程度は、この1ヶ月間に集中すると言われる大事な時期だ。私は、米国人の貯蓄率の高さと、所得の上昇により、今年のクリスマス商戦は好調と予想している。家庭用品と嗜好品は別だからだ。全米小業協会(NRF)も今年の年末商戦について前年同期比8.5%~10.5%の見通しを発表しいている。これは直近5年間の平均である4.4%増を大きく上回り、過去最高の売上高を記録する見通しである。但し、インフレへの警戒感やサプライチェーン問題があるなか、本当にそのような好調な個人消費が期待できるかは、少し不安もあるところだ。

米国の外交については、バイデン大統領と習近平主席の米中首脳会談がオンラインで来週15日(日本時間16日)にも実施されることになった。これまでも、両者の電話会談は行われているが、外交上で正式な「米中首脳会談」としては、バイデン政権では初となる。正式な首脳会談であるため、オンラインとはいえ、会談後には何かしらの声明が出るだろう。ここには注目したい。トランプ関税の見直しを含む新たな貿易協定や、閉鎖されている両国の大使館の復活など、両国の関係が改善すれば、マーケットにはプラス要因となる。そして、私はその可能性はかなり高いと見ている。何故なら、バイデン政権の外交は積み上げ型の外交である。首脳会談が開催されるまでに、事務方がかなり念入りに協議を実施し、トップの会談はセレモニー的な意味合いだと思われる。トランプ大統領のときには、トップダウン型で大統領自身が出たとこ勝負で会談の席上で物事を決めるという異常な状況だったが、バイデン政権は違う。会談が実現した=何らかの成果が出ると考えてよい。このところ、米国はトランプ関税を修正する動きが続いている。欧州との鉄鋼・アルミの関税は撤廃されることになった。日本に対する同関税も撤廃される見込みだ。このように、中国だけでなく、まずは友好国の関税から既に手をつけている。そして中国だ。米中ともにインフレ懸念で悩む中、関税率の低下や撤廃は、インフレ抑制効果がある。今の市場が最も好感するテーマだ。また、タイミングとしても中国は6中全会で歴史的決議が採択され、習近平体制がますます強化された直後だ。COP26でも急に米中がメタンガス削減で歩み寄るなど、首脳会談を前に両国が急速に宥和しており、その成果を期待したい。

日本では、第二次岸田政権がスタートした。11/19にも経済対策を閣議決定する方針だ。岸田政権については、まだ海外投資家にもその実体がよく分からないと思われる。新しい資本主義とか、世界のどの国もいまだ成功していないテーマである。また、補正予算もあまり中身がなく、規模だけの話になっており、日本の新政権の姿は見えてこない。しかし、これはやむを得ないと思う。何故なら、現在議論しているのは、「補正予算」である。その名の通り、日本の針路を決める議論をしているのではなく、急遽やらざるを得ないことの対策費用を議論しているのだ。補正予算に時間をかけるのは愚の骨頂だ。補正予算は完璧でなくとも、スピードが重要だ。つまり、岸田政権がその政権のビジョンを内外に政策で示すのは、12月中旬までに出す「税制改正大綱」であり、12月下旬までに閣議決定する「来年度の本予算」であろう。ここで打ち出す方向性こそが、岸田政権の日本を導くビジョンであり、それは来年の中旬の骨太方針に繋がっていくのだ。それでも、私は足元の日本株にかなり強気だ。日本株においては、他国と比較して5つのアドバンテージがあるからだ。①盤石な政権基盤、②今から財政拡張、③新型コロナの感染抑制、④低インフレと金融緩和長期化、⑤企業業績回復と割安感。まず与党で絶対安定多数を確保したことは大きい。米国やドイツの政権と比べれば、遥かに安定している。そして、世界はこれまでのコロナ対策が次々に期限切れとなっている。政府のサポートが切れていくなか、日本だけが今から再びコロナ対策として、お金をばら撒くのだ。こんな国は見当たらない。しかも、感染者数は大きく低下し、経済は通常モードに移行する中での手厚いサポートである。そして、世界はインフレ懸念に苦労しているが、日本ではようやくCPIが前年比でマイナスからプラスに転じたレベルで、むしろ好ましい状況になってきたところだ。従って各国の中央銀行が金融正常化に動く中、日本だけが未だに出口戦略すら語れない緩和状況にある。最後は企業業績回復と割安感である。ソフトバンクグループの業績の悪化の規模が大き過ぎて、日経平均全体のEPSは2040円に押し下げられたが、ソフトバンクが普通の決算を出していたら、2,200円は超えていただろう。つまり、日本株は相当に割安である。

一方で日本株の懸念点は、①岸田政権が財務省寄りの色合いを出すこと、②自民党内での派閥再編、権力闘争の激化が予想されること、③コロナの経口治療薬の確保に遅れた可能性があること。但し、③については政府がメルクの経口治療薬を160万回分契約したとのことであり、その懸念は少し和らいだ。
来週については、米国では金曜日がオプションの権利行使日となり、このところ米国株はこの3週目の金曜日は何故か株価が下落する傾向が強い。高値圏にあることから、来週もやはり少し警戒が必要かもしれない。但し、週前半の米中首脳会談で成果が出た場合には、株価は素直に上昇すると思われる。特に日本株は中国株の上昇もサポートされることから、来週も3万円トライの展開を予想する。レンジとしては29,000円から30,300円を想定している。

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