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来週の相場見通し(5/24-5/28)

 表紙の画像は、「泡(フロス)」とした。コロナ後の未曽有の金融緩和と財政政策により、マーケットでは局地的にフロスが発生している。米国株式市場全体がバブルだとは全く思わないが、個別銘柄の中にはかなりバブル的な株が混じっているだろうし、仮想通貨や最近話題のNFT(非代替性トークン)などは、かなりバブルの雰囲気があることは間違いないだろう。コロナからの正常化に伴い、徐々にそうしたフロスやバブルに市場の目線が向かっている。それ自体は市場の健全化、自浄作用であり、むしろ歓迎すべきことではある。インフレに対する市場の警戒感もその延長線上にあるだろう。

 米国では足元のインフレを裏付ける経済指標が相次いでいる。4月のCPIはコアで+3.0%と25年振りの伸びとなり、4月PPIは総合で6.2%と2010年以来の高水準、ミシガン大学消費者信頼感の1年先期待インフレ率は4.6%まで上昇した。銅価格は史上最高値を更新し、バルチック海運指数も年初の1,370から5月には3,260へと上昇するなど、インフレ圧力は増している。しかし、市場は本当にインフレをそこまで懸念しているかと言えば、それは怪しい。何故なら米国のハイテク株は、5/12のサプライズとなった強いCPIの直後は大きく下落したが、その日が底値となり、それ以降もPPIやミシガンなど強いインフレ指標が発表されても動揺していない。米国の期待インフレ率10年も5/12に2.56%台まで上昇した後は、2.49%(5/20)まで低下している。不安定ながらも過度なインフレ懸念は沈静化しつつあると思われる。その要因は3点ある。一つはFRBから繰り返し、インフレ圧力は一時的とコメントしていること、2点目は米国の名目金利が上昇していないこと、3点目は米国経済が強く、企業業績が好調であること(自然なインフレ)だ。

 今年に入って株式市場は、「2月後半から3月前半」と、「5月」にインフレや金利上昇を材料として2回の調整局面を経験した。2月の時は名目金利の急上昇に伴い、米国の実質金利が短期間で急速に上昇したことが要因だ。実質金利(名目金利-期待インフレ率)は▲1.1%から▲0.5%へと短期間に60bpも上昇した。過去のケースでも実質金利が短期間で50-60bp上昇すると、株式市場は調整しているので、同じパターンを辿ったということだ。一方で5月のパターンは状況が少し異なる。名目金利が膠着している中で、期待インフレ率が上昇し、実質金利はむしろ低下している状況で株価が調整した。市場のインフレへの警戒が先行し、FRBへの疑心暗鬼を原因とする株価調整だろう。重要な点は、下落率だ。2月がナスダックで12%程度、今回が9%弱であり、市場へのインパクトは小さくなっている。株式市場というのは、痛みやショックを受けると、それに対しての耐性を強める特徴がある。1回目のショックより、同じような要因なら2回目のショックの影響は小さくなるということだ。すなわち、今後もインフレ等による株価調整は起こると思われるが、その影響は限定的となるだろう。一方で株式市場が最も苦手なものは、サプライズや想定外の事態(未経験)である。そういう意味では、このテーマで株式市場が次に大きく動揺するとすれば、2つの状況が考えられる。一つは実質金利がプラス圏に上昇する場合だ。2月の株価の調整時は、実質金利は短期間に上昇したとはいえ、その水準はマイナス圏であった。この実質金利がプラス圏まで上昇すると、米国の自然利子率がゼロ近辺と予想されるため、実質金利と自然利子率が同じレベルとなる。これは、金融緩和状態でなくなるということであり、株式市場にとってはここ最近の未経験の事態となる。もう一つは、米名目金利が2%を超える場合だ。水準的に2%を超えるということはインパクトがあるが、当面はそのような事態は想定しない。従ってここ最近のインフレ懸念による株価の調整は、もう終盤か既に収束していると思われ、米国の株式市場への過度な警戒は不要だろう。但し、冒頭の繰り返しになるが、米株式市場ではIPO銘柄の調整や仮想通貨の急落など、金余りによるバブル相場の反転が局地的に発生しており、インフレ懸念以外でも相場の地合いは不安定になりやすい。しかし、これは市場の健全化であり、株式市場にとっては中期的にはプラスだということは念を押しておきたい。

 さて、日経平均株価は上値の重さが目立つ。市場ではワクチン接種の遅れを、株価軟調の要因としているが、日本においてもワクチン接種は進展しており、8割の自治体が7月中に高齢者への接種を完了可能としている。株式市場は常に現状ではなく、将来を見ている。現状が悪くても、「最悪期を過ぎた」というだけで、それはプラス材料となる。すなわち、本来なら日経平均株価はもう上昇を始めるはずだ。そうなっていないのは、日経平均株価の弱さは、ワクチン接種の問題だけではないということだ。考えてみれば、日本はコロナの安全度ランキングで世界第7位の優等生である。ワクチンとは接種率を上げることが目的ではなく、コロナを抑制することが目的のはずだ。日本においては、ワクチン接種率の低さばかりが指摘されるが、コロナの状況は世界と比べるとそう悲観するものではない。(さざ波と表現して炎上した人もいるが・・)やはり根幹は、ワクチン確保等の対応の稚拙さが、菅総理が掲げる「生産性改革」や「デジタル改革」に疑問符を付けていることだろう。新興国よりもワクチン接種が進まないような国で、菅総理が掲げる改革なんて出来るの?という疑問である。昨年の11月には海外投資家の日本株投資は3兆円を越えた。それだけ期待されたわけだ。しかし、今年は例年は盛り上がるはずの4月でさえ現物と先物で1,316億円の買い越しと低調だ。一事が万事ということなのだろう。

 しかし、それでも日本の株式市場に明るい材料も出ている。まずは、日経平均株価のPERは一時14倍を割り込むなど、急速にバリュエーションが改善していることだ。更にはマザーズ市場に下げ止まりの兆しもあるということだ。5/19に日経平均株価は▲1.3%も下落したが、この日にマザーズは+2%以上の上昇となった。マザーズは年初から9%弱も売られてきたが、ようやく下げ止まる雰囲気が出ている。日本の第一四半期のGDPは昨年第4四半期の+11.6%から反転し、▲5.1%とマイナス成長となった。設備投資や個人消費が弱く、緊急事態の対象地域の拡大により、4-6月も低調が見込まれる。但し、実質輸出が3四半期連続の増加であること、日銀短観における設備投資は強いことから、日経平均採用銘柄は底堅い推移が見込まれるだろう。日経平均採用銘柄にとって重要なのは、外需であり、米国、中国、アジアの景気動向だ。米国は景気過熱が心配されるほどだし、中国も7月の共産党100周年の超重要イベントに向けて安定した経済運営を行うだろう。日本でもいつまでも緊急事態が継続するとは思えない。景気敏感株に日本株には悪くない環境ということだ。

 中東が混乱している。アフガニスタンでは、米軍の9月に向けた撤退開始に伴いタリバーンが勢力を拡大している。イスラエルでは、反政府勢力(ハマス)が大量のロケット弾攻撃を実施するなか、ネタニヤフ首相はガザ地区に地上軍を派遣する事態となった。しかし、こうした地政学リスクについては、近年では金融市場にほとんど影響を及ぼさない。それは何故かと言えば、第5次中東戦争に発展する可能性がほとんどないからだ。アラブの春と、シリアの内戦長期化、それに加えてトランプ前政権の親イスラエル政策により、中東のアラブ諸国はもうあの地域にイスラエルが存在することを認めざるを得ない状況であるとともに、反イスラエルを国民に煽ると、それがいつの間にか自国の反政府運動に転じる可能性もあるため、昔のようにアラブ諸国で連携してイスラエルを攻撃するような状況ではなくなっている。それだけアラブ諸国も疲弊してきたのだ。従って、中東の個別の地政学リスクが、国際金融市場を揺るがす事態とならないのだ。一方で米国とイランの核合意交渉は進展しており、合意となれば市場は好感する可能性が高いだろう。

 ところで、米国とEUの鉄鋼・アルミに関する通商対立が緩和され、報復関税が見送られた。この動きは重要だ。バイデン大統領は、トランプ前政権の外交を否定しているのだ。バイデン大統領は、トランプ前大統領の対中強硬姿勢には賛同しながらも、関税を外交手段とするやり方には強く反対していた。しかし、大統領に就任してすぐに対中関税を撤廃すると、中国に弱腰と批判される懸念があり、できなかった。ところがバイデン政権の100日を過ぎ、市場も世論も、「バイデン政権は中国に厳しい」というイメージが定着してきている。従って、バイデン大統領が、対中関税は撤廃し、別の形で中国への圧力を強めることは可能であるように思われる。そして米国が対中関税政策を修正する場合には、株式市場にとってはサプライズ的なリスクオンとなるだろう。また、関税撤廃は足元のインフレ懸念も和らげることになるため、二重の意味でリスクオンとなる。キャサリン・タイUSTR代表も何となく対中政策の修正を匂わせるような発言もしているほか、中国でも対米交渉の代表である劉鶴副首相から、故春華氏に担当を変更するのではとの報道もあり、米中通商交渉に動きがあるかもしれないので注目したい。一方でリスク要因となるのが、米国議会で審議されている「戦略的競争法案」だ。これは、議会がバイデン政権に対して、北京オリンピックのボイコットや、同盟国と連携した中国への制裁を強化することを求めるものであり、その具体的な内容次第では大きな波紋を呼ぶものだ。日本政府や日本企業への影響も大きい。私が、今、最も注目している法案である。
 さて、株式市場はリスクオフではなく、リスクオンの調整と捉えており、そろそろ日本株、米国株ともに反転すると考えている。まだまだ不安定ではあるが、日経平均株価は27,500円~29,000円を予想する。(週末の状況で変更予定)

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