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アジアの島国で、美しい海と温かいおもてなしと

「東南アジアのX国で密造酒による死者が出ています。」

テレビからアナウンサーの声が聞こえる。どこか異世界で行われている話、ん?まてよ。。。

31歳夏、私はその国にいた。これまでなぜ私は陸でしか生きてこなかったのか、深い後悔に襲われた。18年間、美しい海のある街で育ったものの「潜る」という文化がない街だったから、家族の友人も誰一人として、潜る話を聞いたことがなかった。

海の中はこれほどまでに美しく、私を優しく美しい群青の世界へいざない、先ほどまで悩んでいた人間世界での悩みを、魚世界がすべて開放してくれる。

その島は知る人ぞ知るダイバーたちのダイビングスポット、だとは聞いていたが、日本人は空港で見かけた1家族の他誰もいない。欧米人もいない。

小さな小船で沖合にでた。地元のおじさんと同世代の地元の女の子。彼女はダイビングをたまにしにくるという、私はびびってシュノーケリングにした。魚たちの楽園が広がり、ニモやスイミーの世界。

悠々と大きな亀やサメが泳ぐ。海の中で「波に酔う」という体験もはじめてした。水の危険がたまに頭をかすめながら、私は雄大な海に抱かれて25mクロールしかできない身体能力の限界を十分に知りつつ、休んでは潜り、を繰り返した。小船の上で葉っぱに包まれたランチを食べ、沖から海岸に戻ったときにはすっかり夕焼けが美しく水面を照らしていた。

そんな命をかけ(おおげさ?!)1日過ごした地元の女の子とガイドのおじさんとはすっかり同じ海を同じ日に経験した「仲間」となった。


「そういえばうまい酒がある、君にもぜひ飲んでほしい」

これまで数々の国を旅してきた。「100%スリにあうよ」と言われる街にいっても、過酷な途上国に行っても、なぜかぴぴっとはるアンテナのおかげで、一度も怖い目や危険にあったことがない。

ただ、その「酒」は、二人が話す雰囲気から、私がコンビニで買うチューハイやビールのような、そういうたぐいの酒ではないような気がした。でも一方でだまそうとかそういう気持ではなく、この島に来たからには、ぜひ日本からはるばる来た客にこの島の文化を味わってほしい。そんな心からの歓迎の精神を感じた。

そして、きんきんに冷えたマンゴージュースでがーっとわられた、ヤシの実からできたというその酒を、二人が飲むのをみて味見をしたふりをした。


一日潜った日焼けで頭が少しぽーっとしていた私は、もともとアルコールが強くないのもあり、それを伝えてホスピタリティの気持ちだけを受け取ることに決めた。


旅をすると、現地の知っている人、知っていない人に限らずとんでもない温かいもてなしをうけることがある。それはどんな世界遺産より心に残る思い出になる。

しかし一方で、法律を超えて人々の生活の一部としてしみ込んでるこのようなこともあるんだ。あの酒がどういう酒だったかほんとのところはわからない。向こうのたどたどしい英語から、もはや酒だったかも定かではない。でもそのホスピタリティだけはいい思い出として今も心に刻まれている。

コロナが明けてまた世界を歩むときは心にとどめておこう。