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好きな作家と同じ姓になりたくて、私は結婚した

ある作家が好きだ。
どうしようもなく、偏愛的に。

10代の頃、どうにかして愛人になる術は無いかと考えた。
米国の滞在時期が重なっていたと帰国後知り、唇を噛み切る程悔やんだ。

そしてある日気付いた。土台無理な話だと。


では、どうすれば良いのか。
暗中模索のまま数年、職場を変えるタイミングが来た。

よくある挨拶回り。
その中の一人が、光っていた。

譬喩では無い。
光っていたのだ。

姓は、偏愛する作家と同じという。
瞬間、この人と結婚すると悟った。

押して、押し切って、結婚して、もう何年になるだろうか。
堕落的な恋愛をしていた自分はどこへ。
愛妻家ならぬ、正直者の愛夫家。

しかし、夫は知らない。

姓を打ち込み、自分の名より先に作家名がサジェストされる幸せ。
姓にさん付けで呼ばれ、ふと作家の顔が浮かぶ幸せ。

変わり映えのしない日常の中に、彼は、いる。
居てくれる。

愛人にはなれず、未だ一目会うこともかなわない。
それでも、この幸せは、私だけのもの。

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檸檬の様な青
ここまで読んで頂き、ありがとうございます! 至極しあわせです。