#仮面おゆうぎ会 28作品感想完走
坂るいすさんの「仮面おゆうぎ会」を、遅ればせながら夫婦そろって堪能しています。
諸事情あり読み始めるのが遅れてしまったのですが、何とか最終日までに読み切って感想を書くことができました。フルマラソンを他の人より1週間遅れてスタートした(そんなやついない)けど何とかゴールにたどりついた感覚です(フルマラソンしたことない)。妻はぼくより数日早くゴールしてました。「え?もう読んだよ?」じゃないわ。はよ言え。
ぼくは普段、あまり小説を読みません。昔は読んでいたこともあるけど、今はめっきり手に取ることが減ってしまいました。読むのは実用書や専門書など、目の前の世界をどう見るか直接考えようとする本ばかり。
noteを始めてしばらく経ち、文章を書きたい!という気持ちの行き着く先の一つに、小説があるのかなあと思い始めました。詩も、短歌も、きっとそう。文章は現実世界を切り取ったり映し出したりするだけじゃなくて、もっとゆたかな世界に連れてってくれる。自分は少し、生き急ぎすぎているのかもしれない。
そんなことを、今回の応募作品から教えていただけた気がします。
ああ、ごめんなさい。ぼくの文章観の変化なんて語ってる場合じゃない。今回応募された29作品(最終28作品)は、6/6 (日)にはnoteの街から消えてしまう運命にあるのです(るいすさんのnote参照)。
結果はもう明日の晩に発表されてしまうけど、作者の方々へ届くといいなと思いつつ、以下に感想を書き綴ります。Twitterに放流したものをまとめたもので、ネタバレを含んでいたのでは…と今更ながら気付いたことをどうかご容赦ください。ごめんなさい。
改めて、以下多少のネタバレを含む前提で、ご了承いただける方は伴走をお願いします。時々あらすじ紹介。ちなみに、感想は妻とぼくで分担して書きました。仮面感想です。なんやそれ。
【No.1】 雨露つたい 骸は何処へ
粘着質な夏の夜、湿る脳の下側、露の流れ入る腔。静かにまくしたてる触感表現に全身が小さく痺れ上がった。缶のプルタブから始まる指先の細やかな描写が、全体を通じて漂う湿潤な空気を一層艶やかにしてくれる。選び抜かれた文字の密度にうっとり。すごく好きな世界観です。
【No.2】 不器用な青春を夜に隠す
多分、ぼくは一生この耳で聞けないであろう女友達同士の会話。少しぬるめのビール、半分しかかじってないからあげ。弱々しい雨粒に包まれた背中越しに、強がる凛ちゃんの表情は見えない。二人のいる部屋の外から雨音だけが聞こえるようなラストが、淡く儚く、美しいです。
【No.3】 アイリッシュ・パブで昼食を
「あ、ビネガーもらおっか」「時間ぎりぎりまでコーヒー飲んじゃおうね」。そう言うヤスヨさんの姿は、読み終える頃には優美な雰囲気とともに浮かび上がる。憧れと羨望の狭間を揺れ動く眼差し。それを追うようにして進む昼下がりのワンシーンに気付けば引き込まれてました。
【No.4】 思い出を消さないで
AIに仕事を奪われた僕が100万円に釣られて参加した、アンドロイドとの恋愛実験。美しく魅力的な彼女に僕はどんどん惹かれていく。テンポよく進むストーリーに引き込まれた先にあった驚きの結末。抱き合えたら、どうか思い出は消さないでほしいと願ってしまいました。
【No.5】 『おはよう』を告げるネコ
「やあ、おはよう」と窓から入ってくるクロとのおしゃべりが「私」の毎朝の日課。ある日、友達とケンカして悩む「私」にクロは教えてくれる。大事なのは自分の気持ちに素直になること、それを言葉で伝えること。クロと「私」のやりとりに癒され、背中を押してもらいました。
【No.6】 ワイルドサイドを歩け
お店に着いた4人が黒いネクタイを外す様子に軽い既視感。こんな風に旧友と集まり、他愛もない、でも忘れない話をあと何回できるだろう。時の流れがこの日彼らに許したものが、愛か友情かなんてどちらでも構わない。ただ今までと同じくあってほしいと願いたくなるお話です。
【No.7】 声の告げる先
一年ぶりに聞いた遠くにいるあなたの声。「うん」の一言だけで私に答えるあなた。それだけで意味も感情もわかってしまう私。二人で重ねた長く深い月日を確かめるような会話。部屋に吹き込んだ風が伝える「そばにいるよ」というメッセージに、やさしさを分けてもらいました。
【No.8】 夕顔
「いなくなってしまったんです」「探してもらえますか」と交番に駆け込んできた一人の女。え?どゆこと?誰が?と頭に「?」を浮かべながら女と巡査の会話から目が離せない。「?」が消え切らない最後、目線を序盤に戻しつつ、続きがあるならもっと読みたい!と思いました。
【No.9】 神さまの手ちがい
ユウキくんのお願いを見守る目線がやさしい物語。ぼくらは日々、社会のために「こうしょう」しながら「カンケイカクショ」と「重大発表」できる成果を模索している。それはもしかしたら「それはね。あのね」と囁けるほど小さく健気なものでいいのかもしれないと思いました。
【No.10】 笹原さんはおしえたくない
学校ってこうだったなあとしみじみ顧みた。今あの頃の自分を傍から見れば手に取るように心の機敏が、寸分先の未来が読めてしまいそうだけど、それを自分におしえたりはしないと思う。大切にしてほしいものをもう知っているから。笹原さんもそうなんじゃないかなと、寄り添いたくなります。
【No.11】 蛍売り
戦禍を越えて生きる人々に、自分はどれだけ想いを馳せられているだろう。モノトーンあるいはセピアで描かれる親子の生き様に、夏野菜が僅かな彩りを、蛍が仄かな灯りを与え、瞼を滴る汗は確かな意志と希望を時代の先へと送る。最初から最後まで「すごい…」の一言でした。
【No.12】 夜空に舞う桜は
気づけば真っすぐな菜穂を見つめる先輩の気持ちになりきってた。テンポよく移り変わる心配、期待、驚き、喜びの感情。菜穂は彼とどんな言葉を交わしたのだろう。舞い散る桜は切なさを運ぶことが多いけど、この夜だけは違ったみたい。二人で夜空を見上げる顔が浮かびました。
【No.13】 20日ぶり35回目
どこかに何か仕掛けがあるんじゃないかと思わず読み返してしまう。それとも、恋人が消えることは何かのメタファーだろうか。幸せとは「新しく手にするもの」ではなく「あるけど見失わないようにするもの」だとしたら。まっつんの声は、ぼくの耳にはそう届いた気がしました。
【No.14】 勇者とホストとハローワーク
ドラクエⅢのスピンオフ?否、リアルの詰まったドラマだった。「ラジオ体操って、第二まであるの、知ってる?」と尋ねるヤマギシさんがカッコよすぎる。シャンパンタワーは社会の創造と破壊の縮図。そこを生き抜く人は誰もが勇者なのだ。そう思わずにはいられませんでした。
【No.15】 オレにマイクをくれ
「やけに心に沁みて、胸を打った」歌詞。大人になると、過去の視点を見失ったり忘れたりするってよく言われる。でもそれって実はただ「見ないフリ」をしているだけで。誰かがずっと、そっとその視点を守り続けてくれていることの大切さを教えてもらえる温かいお話です。
【No.16】 約束
夢を追って上京したコウキ。夢を語る彼の笑顔を見て、自分も夢を持てた気がしていたユイカ。手紙から辿る二人の「約束」と、お互いつき続ける「ウソ」の行方。最後の手紙に記したユイカの想いに、胸が強く締め付けられるようでした。
【No.17】 付け足されたエンドロール
中高の同級生だった高橋と二人で飲みに行くことになった私。「友達」に優しい高橋と、終わったはずの気持ちに戸惑いながら「友達」を演じる私。彼のことが分かり過ぎてしまうから、斜め後ろから見ていたい。最後の言葉を過去形にした私から切なく強い意志を感じました。
【No.18】 悲恋をこえて
中盤ガラッと場面の切り替わるところで思わず「えっ」と声が漏れてしまった。人を想う気持ちはいつの時代も同じはず。叶わず散った恋はきっと昔の方が多かったんだろう。そう思うと、この二人も、もしやあの二人も…想像が広がる。今を生きる眼をゆたかにしてもらいました。
【No.19】 多角形の月
「松井は、お酒を飲んだ後の遠回りがいちばん好きらしい」。とりあえずここで頷くこと10回。二軒目まで引っ張ってからスイッチが押されるまでの「あかり」の感情の高まり具合に頷くこと100回。五角形の月はもう、誰にも見えないんじゃないかなと思ってしまいます。
【No.20】 牡丹の上で猫はキリンの夢を見る
「家の歴史を次世代に」「五体満足な子を」。亮ちゃんの父の言葉を思い出したら結婚したくなくなっちゃった。そんな私に亮ちゃんはキリンの話をしてくれる。結婚は二人が好きでさえいれば幸せ、ではない。けれど亮ちゃん、ずっと私を抱きしめていてください。
【No.21】 近未来 fall in love
フィクション、あるいはすぐそこに迫った現実。主人公の細やかな目線が捉える描写で、「リアルではないもの」が当然になった世界を余計に感じてしまう。ぼくらはまだまだ気づくことができる。だからもっと見えるように、マスクだけは取れるようになりたい。そう思いました。
【No.23】 マチルダ
読んだだけのはずの「バーン!」の音が耳から離れない。リズムよく展開する言葉に夢中になってたらいつの間にか読み終えてた。舞台はニューヨーク?それとも。映画とどこかパラレルに描かれるストーリーに、ぐっと感情が持っていかれそうになります。
【No.24】 わたしはだぁれ
手のひらを軽く弾むように綴られる言葉たち。それらを解きほぐし「わたし」が誰かを考えるけど、答えはなかなか見つからない。見失っているものの正体にはまだ気付づけていないんだねと諭される焦り。この感想を書きながら、本気で焦ってます。夫婦そろって。
【No.25】 芽生え映え
マキの小指から生えてきた双葉。インスタにあげようと言う私、気になる草太くんに相談したいと言うマキ。マキの恋なんかより、インフルエンサーになれる方がずっと面白いのに。自分はきっと特別なはず。そう信じていたあの頃を思い出し、ちょっと苦く懐かしくなりました。
【No.26】 Vanillaトレイル
あまくてあまくて、あったかい。料理と食事の何気ないシーンはとりわけカラフルで、二人の日常が満ちている様子を映し出しているかのよう。「わたし」はたまに急いてしまうけど、ヴァニラの香りをたどる歩みはもっとゆっくりでいい。淡く広がるラストが素敵です。
【No.27】 交差する雨音
恋人の腕の中で見つけた、昔の恋人からのメール。引き戻される記憶。でも「かれ」との時間はもう交差しない。わたしがいるのは間抜けな雨音がする古いアパートで、恋人にしたのは乾いたキス。それでも現実を選んで生きる彼女は、小さな幸せを大切にできる人だと思います。
【No.28】 闇を、書く。闇を、売る。
闇がなければ書けないのか。ネガティブな感情ほど解像度の言葉を求める必然には抗えないのか。物書きの苦悩に真剣な眼差しを向けつつ、こんな風に笑い飛ばしてくれる人が隣にいてくれたらいいなと素直に思いました。ちなみにうちの妻もバイリンガルです(会津弁&標準語)。
【No.29】 また一緒に良い仕事をしよう
異動を前にして元上司に会いに行った「ぼく」の物語。新しい部署に行けば、ぼくを助け、育ててくれた城崎さんとは対立することがあるかもしれない。そんな不安を抱えながらも、城崎さんの言葉を大切にする「ぼく」はきっと、良い仕事ができるはず。そう信じたくなりました。
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はーーーーーーー。感想書くって難しい。ほんと難しい。
作者の方の意図を汲み取れていなかったり、誤解していたりしたらどうしよう。そんなことを思いながら書きました。作者の方がわからないって、ドキドキしますね。仮に自分の作品にも感想を書かなきゃいけなかったとしたら、それはできなかっただろうなと思います。
1週間、夫婦で一緒に楽しい時間を過ごすことができました。作者の方が追々ご自身のアカウントで作品を掲載されたら、そちらへのリンク貼り直したい気分です。いいんかな、それ。
主催のるいすさん、作者の皆さま、素敵な作品を届けてくださり、そして大切なことを教えてくださり、ありがとうございました。
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