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ラフ・シモンズも惚れた才能

ファッションとアートのコラボレーションは、もはや当たり前に行われている事ですが、ここ数年でとてもインパクトを受けたものがありましたのでご紹介します。
ラフ・シモンズがロサンゼルスを拠点に活動する現代美術家、スターリング・ルビーと共同で制作した2014-15年秋冬コレクションです。
ファッションとアートの融合が理想的に結実した素晴らしいものでした。

Raf Simons×Sterling Ruby(ラフ・シモンズ×スターリング・ルビー)

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スターリング・ルビーは1972年生まれ。光沢のあるポリウレタンやブロンズ、鋼鉄を用いた立体作品から、ドローイングやコラージュ、ふんだんに釉掛けした陶器、油彩画、写真、映像、さらにはキルト、タペストリー、衣服、ソフトスカルプチャーといった布作品まで、多様な素材や技法を駆使する。ルビーの作品では常にさまざまな要素が緊張関係を保ち、危うい均衡を成り立たせており、社会の中の暴力や圧力、美術史に関わる問題のほか、自身の過去も扱われる。全ての作品において、流動と静止、ミニマリズムと表現主義、純粋さと汚れの間で揺れ動く作家像を見ることができる。

スターリング・ルビーはこれまでもラフ・シモンズとコラボレーションしていましたが、僕もその存在をしっかりと認識したのはこの時が初めてでした。

このコレクションは、現在まで続くラフ・シモンズのアーカイブ熱が高まり始めた時期とちょうど重なり、過去の功績をより際立たせる事にも大きく貢献しました。
さらに言うとラフ・シモンズのクリエイションが時空を越え、ひとつの線として全てが繋ぎ合わさった瞬間だったのではと思います。
とりわけ異彩を放っていた2000年前後のコレクションに匹敵する、もの凄いパワーを秘めたものだったからです。

当時ラフ・シモンズを取り扱っていましたが、残念ながら日程的にショーを観ることができず、出張に行く前にウェブで内容をチェック。
ファーストルックから久々にこれはヤバいということになり…細かい部分まで目に焼き付けてから日本を発ちました。

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その頃のラフ・シモンズはというと、先程もお話しした通りアーカイブへの注目はまだ大きくなく、しかしながらジル・サンダーを経てディオールのアーティスティック・ディレクターとして素晴らしいコレクションを発表し、第一線を走り続けるデザイナーとしてもちろん評価の高い存在でした。

自身のブランドではミニマル、ジェンダーレスと言った時代の先を行く芸術的でクオリティも素晴らしいコレクションを連発していましたが、正直飛び抜けた分かりやすさやウエアラブルさはあまりなく、日本でもめっちゃくちゃ人気があったかと言われると実はそうでもなく、熱心なファンがしっかりと見守っていたような時代だったと思います。
しかしジャーナリストや業界受けはとても良く、パリのファッションウィークの中でも別格だった事は事実です。その後、アーカイブを含め人気が爆発します。

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Raf Simons 2013年春夏

当時の話に戻ります。パリ18区にあるショールームに到着し、実際の商品を見ましたがその迫力に圧倒されてしまいました。
まず倉庫のように広々としたショールームには、ランウェイの時と同様にスターリング・ルビーの星条旗のオブジェが天井からぶら下げられ、商品を含めまるで現代美術を見ているかのようでした。

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実際のショールームと展示のイメージ

これまで抑え込んでいたミニマルなスタイルから、一気にエネルギーを解放したかのような大胆な表現が素晴らしく、スターリング・ルビーの作品から引用したものを含めペインティング、布地、フォトなどの断片が洋服にコラージュされ強烈なインパクトを与えます。
計算されていないような不規則な配置も、かえってカオスな美しさを生み出し、奥深い闇の世界へと観る者を誘うのです。

宇宙飛行士のような厚底ブーツにスキニーパンツを合わせ、トップスにボリュームを持たせる。未来的な雰囲気とクラフト感の対比。
現代アートを経由しパンキッシュなムードを貫いたそのスタイルは、往年のラフ・シモンズらしさをさらに研ぎ澄ませたものになっていました。

Raf Simons 2014-15年秋冬

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それから数年後の2018年、スターリング・ルビーの作品を幸運にも生で見る機会がありました。六本木のタカ・イシイギャラリーで最新のペインティングを中心とした個展を開催していたからです。
インパクトのある配色、盛り上がった絵の具、ストライプ柄の布地のコラージュなどからは、荒々しい不調和な美が剥き出しでとても格好良く感じました。

今回の新作では、赤とオレンジと黄色、セルリアン・ブルーと緑と茶といった感情をかきたてる不調和な配色が、冷たい白あるいは焦げたような黒の背景と組み合わされています。ボール紙や帯状の布からなるコラージュの上には指紋や筆跡が残り、激しい動作や厚く盛り上がった絵の具使いは強迫的で不穏な感覚をもたらします。

武骨ながら詩的でもある作品タイトルは、CRSS(cross: 十字、横切る)、WIDW(window: 窓)、VERT(vertical:垂直)といった略語を含んでいます。こうしたタイトルは、画面を二分割あるいは四分割しているコラージュの要素を表わすとともに、地平線、格子、旗、鉄格子、そしてとりわけこのシリーズでは窓という、作家が繰り返し用いるテーマを暗示しています。この窓のどちら側に視点があるのかは不明確です。私たちは窓から外を見ているのか、外から窓の中を見ているのか、どちらでしょうか?

「CRSS. UMBRA VITAE.」は、詩人ゲオルク・ハイムが危機に瀕した1912年の世界について天空の光景や暗い思索を記した黙示録的な詩「人生の影」にちなんだ作品です。「WIDW. MAZATEC.」は輝く空を描く一方、「VERT. BOW.」 は、嵐のあとの虹を含んでいます。不確かな未来の姿を予示しながら、内と外を行き来するこれらの心象風景は、究極的には一体性、全体性、再統合へと向かいます。

Sterling Ruby「VERT」

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僕がこのnoteを始めた時にも書きましたが、ユースカルチャーやアートを積極的に取り入れた1990年代末から2000年代初頭のラフ・シモンズは本当にセンセーショナルでした。


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衝撃を受けた当時の記憶を、鮮明に呼び醒ませてくれる素晴らしいコラボレーション。近年のラフ・シモンズのベスト、個人的にも忘れ難いシーズンです。




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