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長浜市滞在型デザインリサーチ。過去の循環型社会から見つけた未来へのヒント


こんにちは、HITACHI Circular Design Projectです。これまでの記事では現在の循環に関わる実証についてお伝えしてきましたが、今回は、そもそも過去の循環型社会って何?どんなメンタリティや文化的背景で構成されてたの?これらを明らかにするため、日立製作所と武蔵野美術大学 岩嵜ゼミでは、滋賀県長浜市をフィールドに、過去の循環型社会の背景を探る“滞在型デザインリサーチ”の共同研究を開始しました。今回はそのリサーチ内容についてお伝えします。(文責 サービスデザイナー 長谷部浩子)

過去100年程度前の循環型社会をリサーチ

“サーキュラーデザイン”や“循環型社会”というキーワードはトレンドになっていますし、日本の江戸時代は究極の循環型社会と言われていますが、では、昔の循環型社会を形成していた人々のメンタリティやその背景となっていた要因はなんだったのか?それについてはまだ整理されきれていないと思います。なので、私たちは共同研究により、過去遡れる100年程度前の昭和初期の循環型社会の記憶が残っている高齢者が多く生活している滋賀県長浜市に滞在し、当時の生活様式や行動、メンタリティ、価値観を理解し、循環行動を支えた要素とそれらが失われた社会背景を明らかにすることで、未来に向けた問いの仮説を導出する、滞在型デザインリサーチを行いました。

活動拠点となった空き家

人から人をたどったアプローチ

日立の私と、武蔵野美術大学岩嵜ゼミの社会人学生野崎さんの2名で、滋賀県長浜市の余呉に50日間、下草野に27日間の計77日間におよぶ滞在型デザインリサーチを遂行しました。私と野崎さんは5月初旬に初めて長浜で出会い、5月末には一緒に暮らすという怒涛の展開でした。余呉では、余呉まちづくり協議会のメンバのご実家の空き家をご提供頂き住まわせてもらい、下草野ではまちづくりセンタの方の協力のもと地域にアプローチできた濃厚なリサーチとなりました。 日立でも業務改善のエスノグラフィー調査は専門的に行っていますが、今回の様に、地域に長期間住み込み調査するのは初めてのことでした。なので、形式化されたマニュアルもなく、初めてづくしのデザインリサーチでした。

当初はインタビュー対象者の計画もなく、すべて地域で出会った“人から人”をたどって進めていきました。 地域に滞在するリサーチを一言で表すと「人に支えられている」につきます。このリサーチに入る前の懸案は、短期間でどう地域のステークホルダと関係構築するかでした。ここで書き尽くせないのでまた別の機会でお伝えしたいと思いますが、プレ調査で日立は、飛騨高山の株式会社wip の神田さん平本さんへコンタクトし地域活動の経験談をお聞きしていました。その時のお話でも、地域に入り込むには信頼の高い“紹介者”が重要という示唆を得ました。

本リサーチでは、岩嵜教授がその重要な紹介者を担ってくださいました。岩嵜先生は滋賀県長浜市ご出身で、長浜市活性プロジェクトに従事されたいたことから、すでに市役所や自治体、大学などと信頼関係を構築されていました。岩嵜先生から滋賀県立大の上田先生、余呉まちづくり研究会のメンバ、余呉の滞在先、地域の方へわらしべ長者的につながっていくことができたのです。

その結果、1日数回のインタビューを連日行うことができ、インタビュー、フィルドワーク、地域住民の方とCo-creation workshopなど計35回の濃厚な定性情報を得られました。

フィルドリサーチの様子

フィールドリサーチでは、地域イベントにお手伝いとして参加させて頂きながら、その中でヒアリングしたりもしてました。朝5時から参加した月次祭や、茅(ちがや)から作る茅野輪づくり、キュウリの苗植えや玉ねぎ収穫の畑作業や、蕨(わらび)取りに山へ入り昔の山との関わり方の様子を教えて頂いたり。共同作業を共にすることで、自然な会話の中からエピソードを聞かせた頂けたり、また、地域の方との距離感がぐっと近くなれたと実感でき嬉しくなりました。


滞在エピソード

“地域に滞在した”というのが今回のリサーチの熱いポイントになります。宿泊施設から通うのではなく、“住む”ことで、地域内の関係性、文化的背景、価値観など言語化できていなかったインサイトを深く得ることができたのでした。余呉では、滞在前に自治会長さんやご近所さんへ挨拶まわりをしましたが、事前に自治区に私たち2人が住むことをアナウンスしてくれていました。そのおかげで、あいさつ回りやインタビューをした時には「住むって聞いてたよ」ってあたたかく受け入れてくれました。また、ご実家を提供してくれた方がご近所に住んでいて、ここではOさんと呼びます。Oさんが後見人的にいろんな配慮とサポートをしてくださいました。

おすそわけ

Oさんからは、何度もお惣菜やお米や野菜のお裾わけをいただいたり、Oさんを通じてその地域内の関係性に触れ理解する機会を得られました。お隣のおじいちゃんからも何度もお野菜をお裾わけしてもらい、滞在終了時は、「隣の家に電気がつかなくなるのがさみしい」とか「駐車場に車がないと寂しくなる」と言っていただけました。
このように地域の方と関係が深められたのは、宿泊施設ではなく、昔からその地域に存在してコミュニティに属していた住居、ある意味“信頼”の土台に住まわせて頂けたことが大きく影響したのだと感じています。私たちも、Oさんや地域やコミュニティに迷惑をかけないよう責任感のマインドが働いていたのだと思います。これは“自分事”としの浸透感が染み出た瞬間でした。どこの誰かもわからない2人をこんな短期間の滞在でご近所さんや孫みたいに扱ってくださりありがとうございました!

-リサーチ結果-
過去の循環社会の形成に関係していた
ソーシャルファクタ

リサーチ結果の一部を下記にご紹介します。インタビューのfact(事実)から解釈を入れたfindings(一時的な発見・気づき)を抽出・構造化し、過去の循環型社会の形成に影響していた、メンタリティや価値観、文化的背景、社会的状況などのソーシャルファクタ―(社会的要因)を洞察しました。


‐Social Factor‐ 資源を自ら調達することで身に付いた必要量の把握

自分達の生活に、何の資源がいつ、どれくらい必要なのか。生活に必要な資源の量を経験値として、感覚的に把握できていた。人々は日常的に、自然から生活に必要な資源や食料などを調達していたが、自分や自分の家族でどのくらいの資源が必要かを認識しており、調達時に必要量以上とりすぎることはなかったという。例えば、藁はかまどの焚き付け用に使用されたり、草鞋や草履の材料として活用されたりなど複数の用途があったが、1年間にどれくらいの量が消費されるかを認識し、用途別に必要な量を保存していた。冬の期間は雪が積もってしまい資源や食材の調達が難しいため、冬入り前に数ヶ月分の資源を用意する必要があった。その際に、取れる分だけ調達をして置くのではなく、必要な量を上手に確保することができていた。このように、どれくらいの期間で何をどれくらい消費するかを皆が感覚的に把握できていた。

<インタビューから>
「感覚。みんな使い勝手でわかるんやね。家族が多いと余計要るしな。みんながそれぞれ考えて、必要なものを確保していた。」

‐Social Factor‐ 自然を“守り(もり)”する精神

人と生態系の調和を重んじ、自然の成長に必要なものは取り過ぎず育むことを理解していた。資源の調達に労力がかかっていたため、一度に沢山取れるだけ取ってしまった方が効率良いように感じるが、そのような行為をすることはなかった。取り過ぎてしまうと生態系が変わり、持続しないことを知っていたためである。そのため、自分達が調達する分と、来年度以降の成長のために残す部分を判断し調達することができていた。また、生産を“管理”する感覚ではなく、共に同じ地で生きるパートナーとして山や動物などを認識していたという。このような他種へのまなざしも、自然と人間の調和を保つことができていた秘訣と考えられる。
 
<インタビューから>
「全部採らない。山芋はかっぽ(頭の部分)を残して採る。山を出るときは掘ったところは元通りに。山も人と共に生きる。」 

‐Social Factor‐ 共助と自制の意識「結(ゆい)」

余呉には“結”という言葉がある。結は農機具が工業化されていなかった時代ご近所の住民総出で、各家の田んぼの手伝いや茅葺屋根の張替えを行うなど、小さな集落や自治体単位における相互扶助による共同作業の制度。ご近所や集落に住む人々のことを、自分事として家族のように思いやり、困ったときは利益を鑑みずに助けるなど共助の意識が根付いた。自分と同じ屋根の下で暮らす家族のように、近所に住む人々のことを気にかけ、困っていたら手を差し伸べることができていた。「助けてもらうのは申し訳ない」・「気疲れする」ということはなく、気遣いしすぎずに頼り・頼られる関係性にあった。このような認識・関係性があったからこそ、モノの貸し借りや贈与・交換などの行為が成り立っていたと思われる。また、川の水や山の資源なども、近所の人々が心地よく使うことができるように汚さない、取り過ぎないなどの自制する意識も持っていた。
 
<インタビューから>
「昔は“結”で誰かのお家の茅を変えるときは助け合っていた。⼿伝うのが当たり前やった。」 

長浜の昔の生活からみつけた未来へのヒント

上記で一部ご紹介した過去の循環型社会を形成していたいくつかのソーシャルファクターから、私たちは未来に向けた問いの仮説をつくりました。ここでは、すべてはお話しきれませんので、株式会社日立製作所と武蔵野美術大学は、4月24日(月)より4月28日(金)まで、武蔵野美術大学 市ヶ谷キャンパス2Fにて、「ツナガルカカワル循環型社会展」を開催します!

リサーチのプロセスや、リサーチから導いた、過去の循環社会を形成していた、過去の循環型社会の形成に影響していた、社会的状況などのソーシャルファクタ―(社会的要因)と循環型社会に向けた未来への問いの展示 を開催しますので、ぜひ足を運んで見に来てください!


展示
日時:2023年4月24日(月)13:00〜20:00、4月25日(火) ~ 4月28日(金)10:00〜20:00 
会場:武蔵野美術大学 市ヶ谷キャンバス2F
住所:東京都新宿区市谷田町1-4 
参加自由