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循環型社会のアイデア "Neighborhood Watering"

こんにちは、HITACHI Circular Design Projectです。
日立製作所と武蔵野美術大学 岩嵜ゼミでは、過去の循環型社会の背景を探る共同研究を行なってきました。研究成果については、冊子にまとめておりますので是非こちらのページから(文末にリンクがあります)ご覧ください。
現代社会において、過去の循環型社会の利点をどのような形で生かせるか。2023年度はプロトタイピング(試作)と対話を通して様々なアイデアの検討を行なってきました。今回は、現在検討している循環型社会を実現するアイデア "Neighborhood Watering" についてお伝えできればと思います。(文責 デザイナー 藤元貴志)

プラスチックの地域循環

江戸~昭和初期の暮らしと現代の暮らしとで大きく変わったことの一つに、工業化による大量生産品の流通があります。それまで地域内あるいは近隣地域内で多くが完結していたものづくりから消費への流れが、これを機に大きく変わりました。中でもプラスチックに代表される石油加工品の登場は、工業製品の低価格化を大幅に進めた一方で、それまで行われてきた資源循環を崩壊させる一因となりました。廃棄過程にも課題が多く、焼却時のCO2排出やマイクロプラスチックによる海洋汚染などが深刻な環境問題となっています。

Photo: Antoine Giret

環境破壊の代名詞のように扱われがちなプラスチックですが、加工が容易な素材であるプラスチックは、すなわち再利用がしやすいということでもあります。安全性などの課題はあるので真似しないでほしいのですが、家庭にある道具だけでもプラスチックの再成形は簡単にできてしまいます。
地域で廃棄されるプラスチックを自分たちで集めて、自分たちのために使うことができれば、プラスチックの有用性への理解が進み、回収・循環が進むのではないか。そんな考えから生まれたのが「ツナガルカカワルプランター」です。

ツナガルカカワルプランター

ツナガルカカワルプランター

このプランターは、廃プラスチックを地域内で再利用するためのアイデアです。この模型は、実際に自分たちで集めた廃プラスチックを、簡易的な手動射出成形機 (「キャップノソノゴ」という実験で使用したもの) で成形したものです。カラフルなマーブル色の見た目は、集めたプラスチックの素材の色がそのまま出ています。このプランターを地域で作り、花を植えて各家庭の庭先に、あるいは道端や公園にたくさん設置することで、華やな街並みを作れないかという考えです。一説によると、花がたくさん植えられている地域は治安が良く安全なのだとか。廃プラスチックを、単なる厄介なごみではなく、地域の魅力を高めるために使います。

手作業による成形のようす

また、このプランターは、地域の誰でも水をあげてよい、というルールにすことを考えています。本体に簡易的な水やりセンサー(土の中の水分を検知して、乾いていたらお知らせする機構)を取り付けることで、誰にでも水やりのタイミングが分かるようにします。自宅の庭にあるプランターに水をあげるついでに、近隣のお家のプランターにも水をあげる。それが、優しいコミュニケーションの生まれるきっかけになるのではないでしょうか。

修理という選択肢を

バタフライ・ダイアグラム (エレン・マッカーサー財団ウェブサイトより引用)

一方で、サーキュラーエコノミーの概念を表す「バタフライ・ダイアグラム(エレン・マッカーサー財団)」には、素材の「リサイクル(Recycle)」よりも先に、製品の「維持・長寿命化(Maintain/Prolong)」「再利用(Reuse)」「改修(Refurbish)」などが並びます。近年、欧米では「修理する権利 (Right to repair)」が認められるなど、製品寿命を長くすることを重視する考え方が一般的になってきています。

しかしながら、多くのメーカーは安全面等からユーザー自身による製品の修理を推奨していないのが現状です。加えて、メーカーや専門業者による修理には多大な時間と費用がかかることが多く、新品を買ったほうが安い場合もあります。つまり、製品が故障したとき、ユーザーは保証期間内であれば無償なので修理を検討するが、保証期間を過ぎたものは、手間や費用を考えて基本的には買い替えるという選択肢を選びます。たとえ簡単に直せるような故障であっても、多くが製品ごと捨てられるのが現状です。
この現状を変えられないか。この思いから生まれたのが「Choice to Repair」という考え方です。

Choice to Repair

Choice to Repairアプリのイメージ

「Choice to Repair」は、その名の通り、修理という選択肢をユーザーに知ってもらう機会をつくるというアイデアです。
「Choice to Repairアプリ」は、故障した製品の写真や詳細情報を入力することで、その故障が本当に買い替える(捨てる)べきものなのか、簡単な修理で直るものなのか、あるいは故障していても価値があるものなのか(中古として他者に譲れるのか)を人工知能を活用して判断します。

そして、簡易な故障の場合は、必要な部品の3Dデータや修理説明書がダウンロードでき、自宅や地域にある3Dプリンターで出力できる仕組みにします。そうすることで、ユーザーは短期間かつ安価で修理ができるようになり、修理という選択肢が便利で手軽なものになるでしょう。また、メーカー側としても修繕部品の在庫管理をする必要なくなるというメリットがあります。
3Dプリンターの材料として地域内で回収したプラスチックが使えるようになれば、地域内での資源循環にもなります。

家電製品の部品を再生プラスチックで造形した試作品

Neighborhood Watering

Neighborhood Wateringモデル

そんな「ツナガルカカワルプランター」や「Choice to Repair」が実現した地域のシーンイメージを、建築模型を作るときに使う小さな添景キット (テラダモケイ) を用いて立体模型で検討しました。想定する地域のイメージは、私達が滞在型デザインリサーチを行なった滋賀県長浜市の余呉地区。琵琶湖の北、余呉湖という湖のほとりにある、自然の美しい地域です。

湖畔の修理小屋

まず、ベースとなる湖と道を配置して、以降のレイアウトは作りながらメンバーで対話しながら考えていきました。はじめに、地域内でプラスチックを集めたり3Dプリンターで修理をしたりする拠点となる場所が必要なので、湖畔に小さな小屋を据えました (現地にも、似ている感じの小屋があるのです)。そこを中心に、行き来する地域の人を配置してみます。単なる集積場としてではなく、プラスチックを集めることが日常になるような交流の場をイメージしているので、湖畔だから釣りやカヌーの拠点にしたり、読書できるベンチも置いたり。生ごみを集めて堆肥化するコンポストを設置するというアイデアも模型に反映しました。

堆肥づくりのようす

そこから生まれた交流が、ツナガルカカワルプランターの水やりなどを通して、地域に広まっていく。隣近所との交流が潤っていくということをめざして、これらのアイデアを "Neighborhood Watering" と名付けました。
このあたりは、現時点では私達のアイデアに過ぎないので、地域の人と話したり、実験をしていく中で、より現実的なものへと深化させていきたいと思っています。

プラスチックの回収のようす
水やりとコミュニケーションのようす

余談ですが、このように立体模型を作りながらシーンを検討していくことで、「この修理小屋にはどんな役割があればいいだろうか」「こどもが一緒に参加できるようにしたい」というように、議論がより具体的かつ活発になりました。抽象的な段階の検討において、自分たちで模型を作り議論しながら具体的にしていく手法はとても効果的だと思いました。

今回は、現時点における "Neighborhood Watering" のアイデアについてお伝えしました。2024年度は、実働するプロトタイプの制作や実証実験などを行いながら、実現に向けた具体的な検討を進めていきたいと思っています。ご期待下さい。