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2023年6月の読書記録

6月の読書まとめ

2023年6月の読書メーター
読んだ本の数:16冊
読んだページ数:5015ページ
ナイス数:205ナイス

https://bookmeter.com/users/1257218/summary/monthly/2023/6

資格試験が終わった解放感もあって先月からだいぶ冊数が増えました! おかげでこの記事もだいぶ長くなってしまったけれど、まあ読む人いないだろうし別にいいか。

読書メーターのログを集計してみたら、昨年2022年は一年で144冊、今年は半年で74冊と大体似たようなペースで来ているようです。収束するもんなんだなあ。


各作品の感想・評価

評価基準

☆☆☆☆☆ 文句なし! 年間べスト級
☆☆☆☆★ 面白かった! 大満足
☆☆☆★★ それなりに楽しめた
☆☆★★★ 可もなく不可もなく
☆★★★★ イマイチ合わなかった……

📕☆☆☆☆★「カラー版 名画を見る目Ⅰ」高階秀爾

西洋絵画の歴史の転換点となった画家たちの作品を一作ずつ取り上げ、モチーフや技法、画家の背景など解説した一冊。
1969年に刊行されて以降読みつがれてきた名著を、図版をカラーに差し替え最新の研究を反映した注釈を追加したとのこと。

初読でしたが、ラファエロやドラクロワの計算し尽くされた配色や、ターナー独特の夢幻的・映像的な色彩感覚の話は白黒図版じゃピンとこなかっただろうと思うので、カラー版で読めてよかったな。
なぜかマネの「オランピア」だけ画質がガビガビで残念でしたが……。

どの章も面白かったけれど、特に印象に残っているのは、思想は尖っているのに表現技法は堅実で保守的だったクールベと、本人は保守的なのに破壊的な絵ばかり描いてしまうマネという二人の対比的な人物評。この二人のことをもっと知りたくなった。
Ⅱも買ってあるので早く読まんと。

🎧☆☆☆☆☆「プロジェクト・ヘイル・メアリー 上」アンディ・ウィアー

これネタバレ無しで感想書くの難しいなあ……。

独創的なSF的アイディアがこれでもかと詰め込まれているんだけど、記憶喪失でまっさら状態のナイスガイな主人公と一緒に少しずつ状況や知識を飲み込んでいく導入のおかげで自然に物語へ入り込むことができました。
めちゃくちゃとっつきやすいし読みやすい。絶賛されるわけだ。

絶望的な状況でもとにかく前向きに、自分にできることを模索するという姿勢が、主人公にも、プロジェクトに携わる他の技術者たちにも通底しているのいいですね。「三体」の悲観的で殺伐とした未来感と対象的で、わたしはこちらの方が好き。
下巻が6/30に配信されたので、早速聴いてます。おもしれおもしれ……!

📕☆☆☆★★「どこの家にも怖いものはいる」三津田信三

怪奇作家の「私=(三津田信三)」と、三津田ファンで怪談好きの編集者・三間坂が、不思議な共通点を持つ5つの屋敷幽霊譚を検討していくうちにある真相にたどり着く……という、モキュメンタリーホラー的な作品。

怪談を検討する三津田&三間坂パートは、三津田さんの著作の話や現実の固有名詞がガンガン出てくるし、序文や参考文献も作り込んでいてリアリティレベルをかなり現実に寄せているんですが、このパートが挟まることによって、怪異譚自体も「この日本のどこかに本当に存在する話」のように感じさせるメタ構成がすごくうまくてイヤでよかったです。

5つのテキストを検証し結論を導き出す手法はミステリっぽいけれど、すべてが解かれるわけじゃないのでミステリ読みとしては据わりが悪くてモゾモゾしますね……。

📕☆☆☆☆★「友が消えた夏 終わらない探偵物語」門前典之

名門大学演劇サークルの合宿で発生した十数年前の連続殺人に、一級建築士の名探偵・蜘蛛手啓示が挑むお話。合間合間に別の誘拐事件のパートが挿入され、なかなか凝った構成です。

相変わらず洗練とは無縁のアイディアドカ盛りぶりが嬉しいし、作中の探偵にも読者にもフェアに情報を提示する誠実さや、恣意的な記述を良しとしない生真面目さ、そのせいで犯人の造形がえらいことになってる歪みが好もしい。 真面目さと豪快さが共存したヘンテコな味わいが門前作品の魅力だと思っているんですが、本作でも十分堪能しました。

謎が解けてからのタイトル回収もまさかそう来るか! と驚き。続刊はどうなるんだ……。

そうそう、本作、蜘蛛手さんから宮村くんへの友情がわりとストレートに語られている部分があって大変ニッコリしました☺️

📕☆☆☆☆★「先生、大事なものが盗まれました」北山猛邦

形のない概念までも盗み出す異能力者の「怪盗」たちが跋扈する離島が舞台の特殊設定青春ミステリ。

彼らが何を盗んだか? が謎の焦点となるわけですが、そこから展開される1話のWhyや2話のHowも実にユニーク。
北山さんらしいキャラクター同士のとぼけたやりとりもかわいらしくてよかったな。主人公トリオの信頼関係もイイし、探偵役のヨサリ先生も教師として生徒を守る姿や見え隠れする謎めいた過去が実に魅力的。3話の登場シーンは痺れた!

今後に続くフックも多く仕込まれていて大変気になるんだけど……先生、続きはいつ出るんでしょうか?

🎧☆☆☆★★「はじめてのクラシック入門」許光俊

クラシックはたまに聴く程度で、歴史や作品形態、用語など体系的な知識はほとんどなかったので読めてよかった。皮肉交じりの忌憚のない書きぶりが楽しい
後半の作曲家や演奏家たちの短評は、作風やおすすめの楽曲、エピソードなどが端的にまとまっているし、曲調を解説する語彙や表現が実に多彩で興味をそそられた。調べて聴いてみよ! という気にさせられる。

しかし、オーディオブックだと気になった曲名を見返したり、実際の曲を聴きながら読んだりできないのが辛い。鑑賞の手引として役立ちそうなのでそのうち紙かKindleで買って手元に置いておきたいところです。

指揮者一人一人の解説が面白かったんで、そもそもなんで指揮者が変わるとこんなに演奏が変わるのかも解説欲しかったなー。

📕☆☆☆☆☆「エラリー・クイーン完全ガイド」飯城勇三

作家と同名の名探偵 エラリー・クイーンが探偵役を務める作品群とドルリー・レーン四部作に絞ってのガイド本。全作実に面白そうに紹介してくれてるし、各作品のエッセンスを継いだ国内ミステリも紹介してくれるから双方向に読書が広がるのでイイですね。紙面のデザインが凝ってて読みやすいのも◎。
「首断ち六地蔵」にテイストが近いという「悪の起源」、読んでみたいな。

名探偵エラリーと作家クイーン両方の苦悩と変遷を辿って行けるところも面白い。章の間に挟まれたコラムも、訳者によるキャラクターイメージの違いとか、本国と日本での受容のされ方の違いとか、面白いトピックが充実です。ただ、「後期クイーン的問題」がらみの論考はまとめられてもやっぱり理解できた気はしない……。

各話解説はネタバレなしを謳っていますが、後半の展開や「この作品のミステリとしてのキモはどこか」といった内容には触れているので、気になる方は気をつけたほうがいいかもしれません。わたしは読んじゃいましたが。

📕☆☆☆☆★「本格王2023」本格ミステリ作家クラブ

本格ミステリ作家クラブが毎年発行している年刊ベスト短編アンソロジー。
「本格王」って名前と表紙のダサさで毎年スルーしていましたが、今年は気になる作家さんが多かったので手に取ってみました。さすがに高水準。

一番好きなのは荒木あかね「同行のSHE」。高速バス内の事件と主人公バディの物語の重ね方が巧みだし、弱い人々に戦いを強いない優しさが好き。
「刑事コロンボ」を下敷きにした今村昌弘「ある部屋にて」のソリッドな切れ味もよかったです。

白井智之「モーティリアンの手首」と潮谷験「20XX年の手記」は舞台が未来である点やジャブ的な仕掛けの配置、出題そのものを包括するような企みなど、類似点が多いのにストーリーの味付けが全然違うのが興味深かった。

📕☆☆☆☆★「百合小説コレクション Wiz」アンソロジー

男性や社会からの抑圧と抵抗を描いた作品が多いなという印象を受けたのですが、それを「夫と妻と愛人」というミニマルな構図でしたたかな抵抗を描いてみせた 櫛木理宇「パンと蜜月」が印象深かったです。

3人のかわいい「悪い奴」らの思惑が絡み合う アサウラ「悪い奴」のオチには笑顔になったし、世界大戦を舞台に、嘘で彩られた少女等のすれ違いを抑えた筆致で優しく描いた 坂崎かおる「嘘つき姫」にはすっかり惹きこまれた。エマが嘘をついた動機をはっきり描かないところがいいですね。
この2編はミステリとしても読めるかも。

深緑野分「運命」は、メッセージが前に出過ぎて生硬な印象ですが、散々いろんな百合を展開した後でこうした百合を書く行為へのエクスキューズを描いた作品で締める構成はいいなと思った。

🎧☆☆☆★★「赤ずきん、旅の途中で死体と出会う」青柳碧人

シンデレラ、眠り姫等々、西洋の童話を本格ミステリとしてアレンジした連作短編集。

「本当は恐ろしい◯◯童話」的なブラックな味付けがチープで好きにはなれないけれど、ガラスの靴やお菓子の家、何があっても眠り続ける姫といった元ネタのアイテムをミステリに転用するアイディアと、それを本格として成立させるための追加要素の配置が巧み

同作者の「むかしむかしあるところに、死体がありました。」と違って、探偵役の赤ずきんが旅の道中で出会った事件という形式の連作なので、各話の自由度は下がったけど、賢くしたたかな赤ずきんのキャラは痛快だし縦軸の物語も楽しめました。

お菓子の家ならではのトリック&逆トリック、タイトルの厭なダブルミーニングが決まってた「甘い密室の崩壊」が個人的ベストかな。

🎧☆☆☆★★「ある行旅死亡人の物語」武田淳志・伊藤亜衣

大金を残して死んだある行旅死亡人の出自を追ったドキュメンタリーで、杉江松恋さんのYoutube番組「ミステリちゃん」で紹介されていて気になっていた作品。

警察や探偵もさじを投げた八方塞がりの中、地道な調査で身元を特定し彼女の人生を掘り下げていく過程が実に面白いし、停滞感なく端的にまとめられていて読みやすい。
現金の出処や身元を隠していた理由など多くの謎は解かれないまま終わるので少し拍子抜けしたけれど、これはわたしの期待の仕方がよくなかったな。

📕☆☆☆☆★「蒸気駆動の男:朝鮮王朝スチームパンク年代記」アンソロジー

蒸気で動く絡繰人形・汽機人ききじんの男「都老トロの設定を5人の韓国SF作家が共有し、蒸気技術の息づく朝鮮王朝を描いたアンソロジー。川名潤さんの装画のかっこよさに惹かれて手に取ったのですが、韓国SFという新しい世界を知れて面白かった。

官僚や奴婢、県令に行商人に王と、スポットを当てる時代も階層も物語も五者五様でそれぞれ面白かったです。実際の政変を蒸気技術の絡んだものとして再解釈する「蒸気の獄」は、元ネタ知らんとちょっと辛かったけど……。

朝鮮王朝の歴史を反映してか暗く重い話が多いけれど、スランプに陥った伝奇叟(話売り)が山中で出会った不思議な出来事を描くキム イファン「『朴氏夫人伝』」は清々しくて好きだな。イヤミスとして完成度の高いパク ハル「魘魅蠱毒」もいい。

一番印象深かったのはトリを飾るイ ソヨン知申事チシンサの蒸気」
王朝に渦巻く権力争いを舞台に、若き王と汽機人の家臣の深い連帯を描いた物語で、汽機人特有の冷徹さを以て王を支えてきた国栄クギョンが、儒の思想では割り切れない情を得てしまった姿の痛ましさが印象的でした。アンドロイドものではベタな展開ではありますが……。
かつて国栄の非情さに戦いていた李祘が、成長するにつれて王としての冷徹さ得てしまったという対比。そんな彼が最後に国栄へ下した命令の奥ににじむ感情……。実によかったです。

📕☆☆☆☆★「密室ミステリガイド」飯城勇三

密室を扱った海外ミステリ20作、国内ミステリ30作を対象に、あらすじやシチュエーションを紹介する「問題編」、ネタバラシの上で詳説する「解答編」に分けて解説したガイド本。
既読作が16/50しかないので「解答編」はほとんど読めていませんが、ひとまず読了ということで。

密室トリックそれ自体がユニークな作品は言わずもがな、推理による密室の解体手順や物語への活かし方、他の謎への絡ませ方など、作品における「密室の扱い方」が優れている作品も多数紹介されているのがいいですね。「密室トリックガイド」じゃなくまさに「密室ミステリガイド」だなあと。

過去の作品に登場した「密室講義」や「密室制作動機の分類」を列挙しそれぞれ分析したコラムも濃密でした。いつか全ページ読める日が来るのかしら。

📕☆☆☆★★「いきものとイラスト - キャラクターデザインから本づくりまで。」坂崎千春

さかざきさんの個展で購入。画業20周年を記念した本で、いきものをデフォルメ&擬人化しキャラクターとしてデザインする際のこだわりや、絵本・装画などの制作プロセスなどがまとめられており興味深く読みました。

これまでに手がけたキャラクターのイラストがたくさん見られて眼福! 研ぎ澄まされたシンプルな線やフォルム、静かな表情から滲み出るあたたかみ、唯一無二だなあ……。

ミステリファンとしては「このミス」のニャームズが取り上げられていて嬉しかった。

🎧☆☆☆☆★「ゲームの王国 上」小川哲

すごく面白いんだけど、秘密警察やクメール・ルージュの暴虐やら村民間の知識の断絶によるえぐいディスコミニュケーションやら、理不尽な描写がキツくて、しんどい読書でした……audibleだと辛い場面もじっくり時間かけて摂取することになるから逃げ場がないんよね。

革命期のカンボジアを冷徹に、シビアに描きつつ、土と会話できる男の異能バトルや綱引きの神みたいなものすごい与太話もぶち込んでくるバランスがすごい。いやカンボジアがこういう国なのか?

完璧に敷いたはずのルールが、人間の悪意や欲望で崩され頭を抱えるムイタックに「地図と拳」の細川を思い出した。
この世は理だけで測れないと思い知らされた彼がこの後どういう道を辿るのか。楽しみに下巻へ進みたい。

📕☆☆☆☆★「エフェクトラ 紅門福助災厄の事件」霞流一

近年の霞作品は特殊な舞台設定が多かったけれど、今回はシリーズ探偵紅門福助が撮影所で起きた連続殺人事件に挑むスタンダードなミステリ。
おかえりなさい紅門さん!

事件パートは緊張感なくてちょっとダレたけど、足跡のない殺人に密室からの犯人消失、過去の陰惨な事件を匂わせる見立てまで施されてなかなか盛りだくさんだし、3章立てて犯人特定→トリック解明→動機説明と展開される解決編は整然として読み応え十分。動機の背景は少し唐突に感じたけど見立ての転倒っぷりはかなり好みでした。

しかし特筆すべきはラストのタイトル回収のインパクト!これは最厄だわ……😂

7月の気になる新刊

📕書籍

7/14「アンデッドガール・マーダーファルス4」青崎有吾
7/19「ソース焼きそばの謎」塩崎省吾
7/21「アミュレット・ホテル」方丈貴恵
7/24「可燃物」米澤穂信

好きなミステリ作家の新刊が続々出てきて嬉しい限り。
ミステリランキングはだいたい毎年9~10月までに刊行した作品が対象となるので、これから締め切りまでどんどん増えていくことでしょう。今年は候補作何冊読めるかな。

🎧audible

7/14「ヘルドッグス 地獄の犬たち」深町秋生
7/21「赤ずきん、ピノキオ拾って死体と出会う。」青柳碧人

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