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組織において「信頼」の向上はどのような効果をどの程度もたらすのか?実証レポートVol.1公開!!

こんにちは!シンギュレイトnote編集部です。

シンギュレイトは、2024年1月より、大阪大学大学院 経済学研究科 松井博史研究室 松井博史准教授(以下、松井研究室)と共同研究を行っています。

本共同研究は、実践的かつ科学的な検証に裏打ちされた組織づくりのマネジメントモデル開発を目指すものです。その研究の中で重きを置いているのが「信頼」です。

今回、Organization Science誌に掲載された研究¹をもとに独自の調査を加え大阪大学大学院経済学研究科 松井研究室と株式会社シンギュレイトで、信頼の効果をまとめたレポートを作成しました。

信頼は組織にどのような効果をもたらすのでしょうか?以下、レポート本文です。


課題

組織のイノベーションやその他の効果を高めるため、数多くの取り組みがなされている。

組織内の信頼を向上させることは、その中の有力な取り組みの1つであると考えられるが、影響を及ぼす範囲や、影響を及ぼす程度は必ずしも明確ではない。経営層・人事は組織内の信頼の向上への投資にどの程度コミットすべきで、その際にはどのような効果がどの程度想定できるのだろうか?

結論と推奨取組み事項

  1. 信頼は経済的成長の鍵である。地域ごとの成長の違いや個人の年収の増加などを説明する最も重要な要因の1つとして多くの研究で確認されている。

  2. 組織においても信頼の効果は広く認められ、例えばDirks & Ferrin(2001)においては認知・満足度・行動・個人のパフォーマンス・組織のパフォーマンスの広い範囲に効果を認めている(Figure1参照)

  3. 信頼の効果の中でも、①従業員満足度などの満足度の上昇、②組織の状態の受容や経営陣の改革への取り組みの受容といった認知要素、③チーム内の対立の減少は検討された研究の多くで効果が認められており統計的効果量も高いとされており特に効果が期待されている。

  4. 信頼の効果には個人や組織の業績の向上やコミュニケーションの向上といった決定的に重要な要因も含むと考えられるが、測定対象や対象組織の違いにより常に効果が認められているわけではない。

  5. 組織内の信頼の向上は組織において直接的にパフォーマンスを向上させる鍵となる要素であるだけでなく、メンバーの主体性の向上やその他のイノベーティブな取り組みが効果を発揮する前提となる効果であることから、VUCAで特徴づけられる変化の激しい現代においてはでは特に効果が期待でき、経営層・人事は自社の各組織のパフォーマンスや状態のモニタリングに紐づけて信頼を管理しその向上を図るべきである。

信頼の効果

Organization Science誌に掲載された研究¹をもとに独自の調査を加え大阪大学大学院経済学研究科 松井研究室と株式会社シンギュレイトがまとめた信頼の効果²は以下のようなものである³。 

Figure 1: 学術研究において確認された組織における信頼の効果

Figure 1で示された効果のうち、①満足度、②認知は報告された論文のほぼすべてで効果が確認されており、効果量も一定以上であることから特に効果が期待できる。③葛藤においても、少数(3論文)ではあるもののすべての研究において高い効果量が確認されており期待できるものである可能性が高い。その他の効果においても、多くの研究では認められているが、行動や組織のパフォーマンスといったより重要な要因においては測定された内容や対象とされた組織の性質により常に効果が確認されているわけではないことに注意を払う必要がある。

信頼のグループ全体の成績への効果は、組織に限定された信頼の効果をレビューした本報告では測定内容や対象とされた組織の性質により研究結果が分かれている。しかし、一般的信頼は組織に限らない成長の最も重要なドライバーの1つとして多くの研究で確認されている(例えば地域の経済成長⁴、個人の年収の増加⁵、より本質的な内容への投資の増加と株価の上昇⁶など)。また、イノベーションの生成においても大きな効果を持つ⁷。経営層・人事担当者は、組織の信頼を離職率の低下やコミュニケーションの改善などのみをもたらすものとして狭く捉えず、結果として組織全体や各メンバーの成績なども向上させうる組織の心理的資源として認識すべきである。

信頼の効果は業績の向上のような直接的な効果を結果としてもたらすが、その背景にはメンバーの主体性の向上や経営層の取り組みへの受容とコミットといった実行プロセスやその前提となる認知の望ましい変化を含んでいる。VUCAと表現される変化が激しい現代において、イノベーションの生成や環境変化への適応がさらに求められるようになってきており、それらを助ける実行プロセスや認知の変化の重要性は増加していると思われる。付け加えるならば、実際の経営現場ではこのような効果が関係の中で繰り返されることでポジティブなフィードバックループが生じていると思われるため、研究で確認された以上の効果や学術的に確認されていない他の望ましい効果が生じていると想定される。

¹ Dirks, K. T., & Ferrin, D. L. (2001). The Role of Trust in Organizational Settings. Organization Science, 12(4), 450–467.
² 現時点で収集された結果をもとに整理したもの。また、信頼の効果をより明確に示すための独自の研究を実行中でありこの結果が追加される予定。
³ Dirks, & Ferrin(2001)の整理を参考に、独自に収集された研究を加えて文献内容を整理し、経営層やビジネス担当者が理解しやすいよう大きな誤解を与えない程度に簡便化してまとめなおしたもの。3研究以下しかまとめられなかったものは「少ない」とし、効果量が示された研究を平均してrが一定以上(0.45以上)であるとされたものは効果が高いとした
⁴ Algan, Y., & Cahuc, P. (2014). Trust, Growth, and Well-Being: New Evidence and Policy Implications. In Handbook of Economic Growth (Vol. 2, pp. 49–120).
(本論文が経済成長に関するハンドブックの中で独立した章として重要な位置を占めていることに注意されたい)
⁵ Butler, Jeffrey V., Paola Giuliano, and Luigi Guiso. "The Right Amount of Trust."Journal of the European Economic Association 14.5 (2016): 1155-1180.
⁶ Hilary, G., & Huang, S. (2023). Trust and Contracting: Evidence from Church Sex Scandals. Journal of Business Ethics, 182(2), 421–442. 
⁷ 例えばKong, D., Zhao, Y., & Liu, S. (2021). Trust and Innovation: Evidence from CEOs’ early-life experience during the Cultural Revolution. Journal of Corporate Finance, 69(8101984).
また、ex. Ghoul, S. E., Zhaoran G., OmraneHou, F., Wilson H.S. (2023). 
Social trust and firm innovation. Journal of International Financial Marketsでは社会的信頼が10%上昇ると特許数, 特許引用数がそれぞれ12.9%, 11.9%上昇することを示している。

大阪大学大学院経済学研究科 松井博史研究室について

松井博史准教授の専門は社会心理学。独立法人放射線医学総合研究所、アビームコンサルティング株式会社などで培った社会心理学・データ活用・コンサルティング経験などを生かし、人と組織の育成に関する応用研究を進めている。


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