『 ともだちは海のにおい 』
あつい、夏の日。
ゆらゆら、ゆらゆら、海の中で、
のんびり暮しているみたいに、いい気持ち。
なにもない海。
波も、鳥も、月も。
ただ、空いちめんに、銀の粉になって
星が散るばかりの、夜の海で、ふたりは出会いました。
やさしい、大きなくじらと、
ビロードのようにうつくしい肌の、すこし甘えんぼうのいるか。
くじらは、本を読むのが好きで、詩や物語も書いて、
ビールが好きで、もちものは、みんな、口の中にいれています。
いるかは、体操が得意で、あたまをなでてもらうのが好きで、
お茶が好きで、部屋には、いっぱいものが置いてあります。
いるかのうちで、それぞれの「かなり」を、いいな、と思う日もあります。
くじらのうちの、シャボン玉のような光のなかで、
ふたりでビールを飲みながら、眠ってしまう日もあります。
パリのモードに憧れるくじらが、しばらくパリへ行って過ごしたり、
人魚に手紙を書いたり、誕生日を祝ったり、哲学をしたり、恋をしたり。
こわがりのときのいるかが、夜、くじらに
あたまをなでてもらって、たのしい思い出のはなしをしたり。
一緒の時間と、それぞれの時間と、海の時間とで紡がれる、
詩のような物語と、物語のような詩。
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工藤直子さんの著作『 ともだちは海のにおい 』のレビュー。
ことり文庫さんのHPより抜粋。
http://kotori-bunko.net/top/souko/review/yomimono/umi-nioi.html
さむい、秋の夜。
お鍋をふーふーつついた後、豆をがりがり、
コーヒー片手にほっとする穏やかな時間。
パートナーが、記憶の本棚から一冊の本を取り出す。
私は読んだことがなかったけれど、この紹介文を読みクスッと笑う。
私も、記憶の中のお気に入りの本棚から『ぐるんぱのようちえん 』を取り出してページをめくる。
大人になってもときどきこっそり顔を出す、絵本の登場人物。
彼の中でゆらゆら泳いでいたくじらといるかが、私の中にもやって来る。
私の中でぶらぶら歩いていたぞうが、彼の中にも遊びに行く。
テレビはないし、外は静かだし、私たちの会話がBGM。
宝石のような言葉のかけらをひろい集めながら、夜は静かにふけてゆく。
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Photo @ Matsumoto, Nagano
あがたの森公園の図書館の中庭。この一角だけ鮮やかな黄色に染まっていた。仲良しのイチョウの木とベンチ。
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