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やっぱり魔法の薬だったアセトアミノフェン

<要旨>
アセトアミノフェン(商品名:Tylenol、カロナール)が、遅発性ジスキネジアの治療薬になるかもしれない。

このところ、ジスキネジアについて調べていました。
クライアントの夜間の落ち着かない状況(restless)とか、口をモグモグさせたり手を動かしたりする不随意運動(dyskinesia)により、睡眠不足になり、それがてんかん発作を誘発するというので、お母さんは心配していました。最近はお母さんの判断で、ミダゾラムや抱水クロラールを投与しようやく入眠するといいます。

クライアントのジスキネジア(と私は思っている)は、今に始まったことではないのであまり心配していませんでした。認知症のお年寄りや、精神疾患の患者さんにはよくある症状で、本人は気づいていなかったりモグモグしてても命に関わることはないので、私自身重要視していませんでした。でも、最近は2,3時間以上も寝つかなかったりするようで、ときには唸ったり腕をピクつかせたりもしています。実は発作を起こしているのかもしれないのでは?と思いましたが、お母さんによると過去にこのような不随意運動があった際、脳波を調べたことがあってそれは発作ではないとのことでした。

ネットで調べるとジスキネジアを診断するのも難しいし、遅発性ジスキネジアであった場合治療が難しいということがわかりました。
クライアントの場合、難治性てんかんなので発作の回数だけでも天文学的数字、てんかん重積や鎮静の経験もあり、抗てんかん薬や向精神薬、睡眠薬など数え切れないほど使ってきたようで、原因を特定するのは難しそうです。

カナダは日本と違って、神経内科を気軽に受診、というわけにいかないようで、専門医の受診は年1回、そうでなければファミリードクターを受診になるよう。しかし、ファミリードクターの専門は内分泌なのです。しかも、受診には予約が必要で、結局お母さんは薬剤師と栄養士に、ジスキネジアに有効なサプリメントがないか聞いていました。サプリにたよるしかないのか・・・

そこで、私もネットでジスキネジアの薬がないか調べていたら、まさかの
アセトアミノフェンが遅発性ジスキネジアに効果があるという研究を発見したのです。

2021年に発表された京都大学の研究チームの研究でした。
下記リンクは、研究チームのリーダーと思われる方が博士論文としてまとめたものの要旨です。

アセトアミノフェンは解熱鎮痛薬で、安全性が高いことから子どもからお年寄りまで幅広く利用されています。なんで、アセトアミノフェンが・・・と疑問に思い、調べていくと、実はアセトアミノフェンの作用機序はよくわかっていないのだということがわかりました。これにもびっくりです。100年以上も前に発見されている薬なのに、なぜ熱を下げたり痛みを緩和するのかよくわからず使っていた・・・
そして、実は未知の効能もあったらしい。

私には思い当たるフシがありました。クライアントが呼吸苦があったときや私自身喘息発作で苦しかったとき、ダメ元でアセトアミノフェンを内服したところ軽減したことがあったのです。いくら調べても、咳止めや気管支拡張効果があるとは書かれていないにもかかわらず。

カナダでは、風邪でも痛みでも何かあればタイラノールです。
ふざけんな!と思いましたが、もしかしたら、タイラノールは何にでも効く万能薬なのかもしれません。

京都大学の研究は、まだ実用レベルまで達していませんでした。
それでも、私とお母さんは、アセトアミノフェンを就寝時に使用してみることにしました。ついでに、BCAA(アミノ酸)というこれまたカナダ人の得意のサプリメントなのですが、鎮静作用があるというのでこれも使ってみることにしました。私は、マグネシウム同様あまり信用していませんが、カナダ人はサプリメントに信仰心があるのです。

一体どの程度のアセトアミノフェンを使用したら、遅発性ジスキネジアに効果があるのか、薬剤性じゃないジスキネジアや不随意運動や夜間のrestlessにも効果があるのか、全くわかりません。やってみるしかないのです。
幸い、こちらではアセトアミノフェンは一種のサプリみたいにでかい容器で売られていて、鎮痛剤を使用することに全くといって抵抗がない。もちろん、飲み過ぎ注意ですけど。

クライアントは、タイラノールよりもAdvilを使う頻度のほうが高かったので、毎日服用するということは殆どありませんでした。コロナにかかったときや、ひどい膀胱炎になったときは併用したこともありますが、基本Advilだったのです。

ちなみに、昨夜試したところ、入眠に1時間ほど時間がかかりましたが、朝発作が起きるまでは落ち着いていたとのことでした。なので、1日目としては効果があったということです。京都大学の研究によれば、ジスキネジア抑制効果がでるための内服量や期間については不明ですが、向精神薬との併用というデータを鑑みると、常識的な服用量だと考えられます。(鎮痛目的として1日最大4000mg)アセトアミノフェンの知られざる薬効について、研究が進展することを祈ります。

余談ですが、すごく良い研究だと思うのですが、薬の研究には莫大なお金がかかります。アセトアミノフェンのような安価な薬の新たな薬効が発見されたからといって、製薬会社が研究費を支援するとは思えません。だれかが引き続き研究を進めてくれたらいいんですけどね・・・

■2021年発表の研究リンク↓

ちなみに、今回はジスキネジア、アカシジア、錐体外路症状、ドーパミン受容体、パーキンソン症候群、向精神薬の分類など自分のあまり得意ではなかった分野の勉強をする羽目になりました。
ついでに言うと、BCAAもよくわからないので勉強中です。

カナダに来てから臨床を離れていますが、逆に自分で調べなければならないことが多いです。日本のように、いつでも病院を受診して医師に相談できる体制がない。日本だったら鎮静剤でも抗生剤でも鎮痛剤でも医師の指示で投与していましたから、自分で考えることはあまりなかったです。アセトアミノフェンについては、あんまり効かない・・・と思い込んでいましたが、服用量が少なかったから効いてなかったのかも、とちょっと見直しました。

■ 英語版の論文です
Acetaminophen improves tardive akathisia induced by dopamine D2 receptor antagonists

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1347861322000810

アセトアミノフェンが効果あるかも・・・という論文をお母さんと同僚とに簡単に説明したりしました。

■ アセトアミノフェンの意外な働き

やっぱり、脳内でなんかしてるらしい。

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