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#私を構成する5つのマンガ

昨日の記事を投稿するときに知ったこちらのお題企画。
関連イベントは過ぎてしまったようですが、なにかのご縁。

「自分のルーツとなるような大切なマンガ」

5つだけ選ぶのは無理じゃないかしらん。
そう思いながら振り返り、自分史年代順に影響を受けた漫画を選んでみました。

Ⅰ.幼少期∼小学校 手塚治虫『三つ目がとおる』

手塚治虫さんや松本零士さんの大ファンである父の本棚には、火の鳥、ブラックジャック、キャプテンハーロックなどの両御大の作品がずらっと並んでいた。特に手塚治虫作品は、有名な長編だけでなく短編集『夜よさよなら アディオス・ノーチェス』や『鳥人大系』といったちょっとニッチな奴もあって、子どもの頭では難しくてどれも何度も読み返した。

その中でも、繰り返して読んだのが『三つ目がとおる』だった。
人生で初めて、読んで壊した作品である。金色のタイトル文字が印象的なKCスペシャルコミックス版だった。

三つ目族の末裔・写楽君とちょっとセクシーでかわいい寺生まれの同級生・和登さんが、世界各地に残る三つ目族の遺跡を巡る冒険譚なのだけれど、出てくる遺跡が実在するものだったりして、嘘か誠か白黒付けられない子供には、「本当なのかも」と夢に見てしまうほどインパクトの大きい作品だった。
その後、大人になって、手塚治虫さんの『ブッダ』や石ノ森章太郎さんの『サイボーグ009』といった歴史や宗教、神話をテーマにした作品や、言語学、比較人類学に関心を持つようになった基礎は、この作品で培われたのだと思う。

因みに、『怪植物ボルボック編』のトラウマで未だに植物の球根が怖い。

Ⅱ.中高生時代 羽海野チカ『ハチミツとクローバー』

男兄弟で育った私が、初めて自主的に購入した少女漫画だった。

実は第一印象は何も覚えていなくて、何がきっかけで買おうと思ったのかちっとも思い出せない。中学生だったと思うんだけど。週刊誌・月刊誌は買っていなかったし、今ほどネットで発売日を調べることは簡単じゃなかったから、いつもすっごく焦れていた。

当時買っていたのは、ONE PIECEとNARUTOとハチクロだった。
NARUTOとハチクロは最後まで単行本で完読したし、ONE PIECEも最後まで単行本で完読すると思う。三つ子の魂百までとは言うけれど、わりとお付き合いの長い作品に囲まれて育ったなと思う。

ハチクロで好きなシーンが二つある。

一つは、7巻で旅に出た竹本君がお寺の窓の透かしに感動するシーン。
コマ数で言えば1ページ分もないところだし、普通読み飛ばすポイントなのかもしれないけれど、竹本君が『出会ったコーフン』がとても伝わる描き方だと思う。物語をすべて読み終えた後、このシーンが、竹本君のその後のはじまりだったのだと気が付くのだけれど、それもお腹がじんわり温まる。

もう一つは、9巻ではぐみが「やりたいこととは何か」に向き合うシーン。大小さまざまな、何が入っているのかわからない箱を開けていくこと。それが人生と思い至るはぐみの心象風景は、そのまま私の心象風景になった。自分が岐路を迷うとき、必ずこのシーン、この草原が頭に浮かぶ。
このシーンには、もう一つ、物語をまたいだ感動ポイントがある。
それは、同じく羽海野さんの作品である『3月のライオン』で、土橋9段と宗谷名人の名人戦が幕を下ろした回にある。
ここからネタバレになるけれど、この回では宗谷名人との対局に敗した土橋9段が両親の待つ実家に帰ってくる。長年の努力が報われなかった息子をどう迎え入れるか、という両親の心配とは裏腹に、土橋9段はお土産をいっぱい抱えて『びっくりしたよ』とケロッとしている。もうこれ以上ないくらい研究したつもりだったのに、宗谷名人と対局したら、見たことのなかった扉がまだいっぱいあって、それにびっくりして笑っちゃった、と言うのである。
この、「見たことのない扉がいっぱいあった」というシーンの描写が、先に書いたはぐみの心象風景と重なるのである。しかも、これもまた『3月のライオン』の9巻なのだ。
『ハチクロ』では、心象風景の中で一人で取り組むべきものに立ち向かうはぐみが、我に返って振り返ると花本先生が後ろに立っているのだが、『3月のライオン』では土橋9段と宗谷名人が一つの心象風景の中で肩を並べて開くべき扉に向き合っている。共に闘うバディがいることの描写がより近く、寄り添ったものに変化していることに胸が熱くなる。
あれ、このシーン見たことあるな、から両方9巻に出てくる、ということに気付くまでの私の感動を誰かにも体感してほしい。

Ⅲ.大学時代① よしながふみ『フラワー・オブ・ライフ』

いつ何度読んでも面白い。よしながふみさんは本当に稀代の天才だと思う。

全4巻の短い話だ。
高校1年生のクラスに、一年一ヶ月遅れの、つまりはいっこ年上の金髪野郎(主人公)が入学してくるというところから始まる。それだけでもキャラ強いのに、主人公は白血病を克服しての留年入学だという。そして、そんなこと微塵の感じられないくらい底抜けに明るくて良いやつ。
キャラクター渋滞しすぎやろ、とツッコミたくなる。
しかも、クラスメイトも担任も家族も、みんなキャラ濃い問題児ばっかり。

よしながふみさんの美しい画風で青春学園コメディを描くと、かくも名作になるのか、という謎の感動を味わってほしい。
高校生の話だから、高校までに読んでおきたかった気もするけれど、大学生になってから出会ったのが大正解だったという気もしている。

Ⅳ.大学時代② 槇村さとる『リアルクローズ』

20代のあいだに何度読み返しただろうか、という作品。
働くって、どういうことか。物を売るって、どういうことか。奇しくも、百貨店ではないけれど、主人公と同じようにバイヤーとして働くことになった私の文字通りのバイブルだった。

小売店の、すべての売り物に作り手と買う人が居るということ。
売り場と言うのは、売り場に立つ者の気が一瞬でも緩むと、その一瞬よりも早く乱れ、居心地の悪い場所になってしまうもの。かといって、販売員も人間。一瞬も気を緩めない、というのは至難の業。
お客様の傾向だけでなく、店のキャラ、販売員のキャラも見極めて、店頭に出す商品を厳選する。流行っているから、いい商品だから、という一点突破では小売店は回らない。いくつもの掛け算、いくつもの化学反応が起こって、お客様の評価を得る。

そして、自分の人生。仕事一辺倒だけじゃないでしょ? とちゃんと示してくれるお仕事マンガ。大好き。

Ⅴ.アラサーで出会った 入江亜季『乱と灰色の世界』

決め手は、可愛くて綺麗な表紙絵。
購入した時には、すでに単行本も完結していた。
というか、『大人買いしたい!』という欲求に任せて購入した作品。

シリアスなストーリ展開なんだけれど、要所要所で挟まれるコミカルなコマが小気味いい。
5巻から7巻へと、最後の追い込みが激しくて、大きな喪失がある。その結末は、何回読んでも泣いてしまうので、疲れちゃったときのストレス発散にあまりに有効なのである。
もっと、スピンオフとかあったらいいのになーとついつい願ってしまう。

生み出す人たちに乾杯

さすがは「私を構成する漫画」たち。いくらでも語れる恐ろしさ。

書きあげてみて、共通するのはどのマンガも『生み出す人たち』の物語だったと気が付いた。

『三つ目がとおる』は、写楽君が自身の先祖が生み出したものを辿る冒険譚。その道中のために、写楽君自身もその英知を活かした道具を作ったりする。その後愛読した『ブッダ』も、仏教を作った人の話だ。

『ハチミツとクローバー』は、美大生の話。作品を生み出すことに文字通り人生と命をかける若者の話。

『フラワー・オブ・ライフ』は、実は漫研の話である。漫画家になることの難しさ、創作の辛さがしっかり描かれている。また友情はどう生まれるのか、というのも大きなテーマだ。

『リアルクローズ』は、洋服デザイナーという作り手も出てくるけれど、ムーブメントと売り場を生み出す人たちの話。作品という形は残らないけれど、販売員というのは、紛れもない生み出す人たちだ。

『乱と灰色の世界』は、魔法使いの女の子の話。子どもから大人へ、自分の居場所をどう生み出すか、人生の宝物はどう生まれ出るのか、を考える話。

そして、これらの物語を生み出した方たち。
そのおかげでどれほどの時を救われただろう。


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