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女性のためのサステナブルビジネス ~ミツバチと共に~

勤勉なミツバチは、自然界の「欠かせない働き手」です。

ミツバチの受粉活動は、生態系や食料システム全体を支えています。世界の被子植物の75%以上と、全作物の3分の1は、ミツバチや他の花粉媒介者による受粉に頼っています。

しかし、ミツバチの数は驚くべき早さで減少しています。ミツバチの大量死は、農薬や寄生ダニ、生息地となる場所の縮小が原因だといわれています。また、気候変動の極端な暑さは、ミツバチのコロニーや採餌行動を乱しています。

今、世界各地で、女性養蜂家たちが知識と伝統を共有することでミツバチの保護に貢献しようとしています。そしてミツバチは、彼女たちに「ハチミツ」という、重要な食料と収入源を提供してくれます。ハチミツは、特に女性たちの選択肢の少ない地域では経済的自立と自主性をもたらします。

全く異なる地域出身でありながら、“受粉者”への情熱で結ばれた、3人の養蜂家を取材したのでご紹介します。


「幼い頃から、ミツバチとのつながりを感じていた」- ジヤント・ウユンカルさん

エクアドル先住民、シュアール族のウユンカルさん © CONSERVATION INTERNATIONAL/PHOTO BY SEBASTIAN ESPIN

ジヤント・ウユンカルさんは、幼い頃、気管支炎を繰り返し、息苦しさに悩んでいました。抗生物質を得ましたが、効かなかったそうです。しかし、ハチミツが症状を緩和してくれました。特に父親が村の周囲の熱帯雨林にある空洞の木から採ってきた、ハリナシミツバチ(Melipona bees)のハチミツが効きました。

アマゾンに暮らす先住民は、何世代にもわたってハリナシミツバチのハチミツを風邪の治療や傷の治癒、微生物や真菌感染の防止に使用してきました。COVID-19のパンデミックの間、ウユンカルさんのような先住民コミュニティでは、上気道症状に対する代替治療として、ハチミツの需要が急増しました。

「パンデミックの間、ミツバチは私たちにとって、そして多くの人にとってとても重要でした」と、現在36歳のウユンカルさんは言います。

「私たちはミツバチに感謝すべきことがたくさんあります」

ハリナシミツバチ © CONSERVATION INTERNATIONAL/PHOTO BY SEBASTIAN ESPIN

しかし、薬効のあるハチミツであるにもかかわらず、アマゾン全域のハリナシミツバチは、森林伐採、農薬、気候変動による脅威にさらされています。ウユンカルさんは今、ハリナシミツバチを守るための使命感を持っています。

ウユンカルさんは、コンサベーション・インターナショナルの「アマゾン先住民族女性フェローシップ (アマゾンで環境保全活動に取り組む女性に資金を提供するプログラム) 」の支援を受け、自身のコミュニティや先住女性フェローのネットワークの女性たちとともに養蜂経験を共有しています。

ハリナシミツバチのハチミツは、以前は野生の巣を取り出す手法で採蜜されていましたが、その過程で巣が破壊されることも少なくありませんでした。ウユンカルさんは、女性たちに無刺蜂の飼育方法と、ハチミツが簡単に採れるように工夫された木箱で巣数を増やす持続可能な方法を教えています。

「ミツバチを増やすことで、ミツバチも私たちを助けてくれる、という考えです。私たちはお互いに支え合っているのです」と彼女は言います。

蜂蜜が簡単に採れるように工夫された木箱 © CONSERVATION INTERNATIONAL/PHOTO BY LUIS HERNANDEZ

ウユンカルさんは、ハリナシミツバチによるアマゾンの受粉をサポートすることは、「自然に恩返しをすること」だと語ります。さらに、ハチミツやろうそく、石鹸、キャンディーなどの関連製品を販売することで、女性たちは収入を得ることができ、より高い経済的自立が可能になります。

「私の目標は、伝統的な知識を強化し、コミュニティ内で経済を作り出すこことです」と彼女は言います。「自然が与えてくれるものを利用することができるのです。なので、街からの物資に頼る必要がありません」

ウユンカルさんは、養蜂とその関連事業は、彼女のコミュニティにとって、そしてこれまで伝統的に指導的役割から排除されてきた女性にとって、より自立性を高めるための足がかりとなると考えています。

「女性たちには、自分の仕事や意見が大切だということを知ってもらいたいです」と彼女は加えます。「男性が私たちのために話したり、私たちとの夢を見たりするのを待つ必要はないのです。」


「ミツバチと話す。彼らは、こちらが純粋な気持ちかどうかがわかっている」 - メナニ・カイトガ

フィジーで夫の養蜂ビジネスを引き継いだメナニ・カイトガさん

ミツバチの飼育は、最初は、カイトガさんの意思ではなく、亡くなった夫のモセ・リリワルさんの情熱を引き継いだものでした。2019年に突如夫を亡くしたカイトガさんは、家族の農場を維持していくために、大きな決断を下さなければなりませんでした。

「諦めることを考えたこともありましたが、私には子供たちがいました」と彼女は言います。「夫の死でくじけるわけにはいきません。家族のために立ち上がる必要があるとわかっていました。」

小学生を含む8人の子供を養うため、彼女は約23ヘクタール(56エーカー)のサトウキビ畑、根菜類や野菜畑、ティラピアの池など、農場の経営を引き継ぎました。

そしてもちろん、ミツバチもです。

カイトガさん © CONSERVATION INTERNATIONAL/PHOTO BY SERA NAGUSUCA

カイトガさんの夫であるリリワルさんは、コンサベーション・インターナショナルとフィジー政府が共同で運営していた、農家に持続可能な収入源をもたらし、作物の生産性を向上させるプログラムの一環として、ミツバチの飼育を学んでいました。リリワルさんはミツバチを熱心に世話しました。巣箱の周りの雑草や蔓を刈り、2ヶ月に1回黒砂糖をを与え、農場で記録帳にミツバチの状況を記していました。

今では、それらのミツバチの世話はカイトガさんの仕事になっています。農場を維持するために必要な数々の仕事がありますが、勤勉な受粉者であるミツバチの世話は、ほとんど手間がかかりません。そんなミツバチにカイトガさんは感謝しています。

「甘くて、楽な収入源です」と、53歳になったカイトガさんは言います。

「例えばサトウキビは、土地を耕し、刈り取り、運搬トラックを雇って製糖工場に運ばなければなりません。しかし、ミツバチの飼育は自然がほとんどの仕事をしてくれるし、ハチミツはとても良い値段で売れます」

フィジーの西部ラ州は高品質のハチミツの産地として知られていますが、この産業では、男性が支配的です。カイトガさんは、数少ない女性養蜂家の一人で、6つの巣箱を持ち、年間約240キログラム (530ポンド) のハチミツを生産しており、卸売業者が直接買い付けに来ています。

ハチミツの収入は、子供たちの教育資金にもなりました。現在、長男と次男は農場の運営を手伝っています。豊富なハチミツの収穫に励まされたカイトガさんは、ミツバチと共に家族の養蜂業を拡大させることに取り組んでいます。

「夫はいつでも20個の巣箱を持つことを夢見ていました。それが私たちの今の目標です」と彼女は言います。「私たちは彼が始めたことを続けるつもりです。これは、夢ではなく、目標なのです。」


「ミツバチは今、私の家族の一員。私は彼らを理解しているし、彼らも私たちを守ってくれる」 - パトリシア・ロドリゲス

コロンビア、パトリシア・ロドリゲスさん © CONSERVATION INTERNATIONAL

「私が若い頃、伝統的な男性優位社会が当然でした」と彼女は言います。

「女性たちは皆、夫のために料理をして、牛の乳搾りをし、農場の世話をしなければなりませんでしたが、その労働に対して決して賃金は支払われませんでした。彼女たちは生計を男性に完全に依存していたのです」

「母親と同じような経験をしないために、何か違うことをしようと思いました」とロドリゲスさんは話します。「女性と家族にとって、より質の高い生活を求めていました」

2000年、彼女は意思を同じくする地元の女性たちを集めて、チーズやヨーグルト、その他乳製品を作るための研修を行う組織を立ち上げました。現在、このグループには約50人の女性が参加しており、近くの市場で製品を販売しています。彼女たちは家族を養い、さらに彼女たちへ牛乳を提供している200の酪農家の生活も支えています。

ミツバチの巣箱 © CONSERVATION INTERNATIONAL/PHOTO BY JULIAN SOTELO

収入と生産の多様化を目指していたロドリゲスさんと仲間の女性たちは、持続可能な生計を促進し、コロンビア高地で暮らすコミュニティが気候変動に適応できるよう支援している、コンサベーション・インターナショナルのプロジェクトに参加し、養蜂を始めました。今では、ロドリゲスさんは、女王ハチを中心としたミツバチの女家長制社会に親しみを感じています。

「大変な仕事ですが、すっかりミツバチたちの虜になってしまいました」とロドリゲスさんは言います。「蜂箱は、私たちの女性グループを思い出させてくれます。どんな女性も、私たちの共同体の成功において重要な役割を果たしています。女性たちはみな賢く、一生懸命働きます。まるで巣の中のミツバチのようです。」

ロドリゲスさんは、10個の蜂箱から採れたハチミツと花粉を使って、ヨーグルトを甘くし、栄養価を高めて、販売しています。このハチミツの販売は、干ばつによる乳牛の生産量減少を補う助けとなりました。干ばつは、気候変動と今年のエルニーニョ現象によるもので、かつて青々としていた放牧地を枯渇させてしまったのです。

さらに重要なのは、ミツバチたちによるパラモの植物や低木の受粉作業は、この繊細な生態系を守るために役立っていることだと彼女は話します。高地の湿地帯は、ロドリゲスさんたちのような農村コミュニティを支えるだけでなく、ボゴタのような大都市に住む何百万人のコロンビア人の飲料水をろ過する役割も果たしているからです。

「この3年間、ミツバチが放牧地を改善するのを見てきました。植物がより早く育つのです」とロドリゲスさんは言います。「ミツバチは今、私の家族の一員です。私は彼女たちを理解し、彼女たちも私たちを守ってくれています」


投稿 :Vanessa Bauza, CI Senior Communication Director ※原文はこちら
翻訳編集: CIジャパン
TOP画像:養蜂で起業したパトリシア・ロドリゲスさん
©Ricardo Ahumada





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