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「自然の力を活用した気候変動対策(NCS:Natural Climate Solutions) 」とは何だろう?

エディターズノート:「気候適応」や「ブルーカーボン」など、環境に関する専門用語はいたるところで見られます。コンサベーション・インターナショナル(CI)では、そうした用語について、各専門家にインタビューする形で、「~とは何だろう?」というシリーズで解説します。今回は、気候変動問題に取り組む際に自然の力を活用する、「NCS」として知られる手法について、CIの気候科学者ブロンソン・グリスコムに話を聞いてみました。


Q. まず「自然の力を活用した気候変動対策(Natural Climate Solutions : NCS )」とは何でしょうか?

自然は、気候に良い影響を与えます。炭素を大気中から吸収し貯蔵する機能を持つ森林をはじめとしたその他高炭素生態系の力を活用すれば、気候変動の抑制に役立ちます。そのため、そのような自然生態系の保全や再生活動、また利用や管理の改善、そして、貯蔵量の増加や温室効果ガス排出の回避を目的とした行動は、すべて「自然の力を活用した気候対策(NCS)」とみなすことができます。

Q.なぜ今NCSがよく聞かれるようになったのでしょう?

大半の科学者たちが、世界がCO2排出量を大幅に減らすには2030年までの行動がカギであり、それまでにパリ目標で合意された各国の数字目標が守られなければ、気候は破壊的な状況に陥ってしまうだろうという予測に同意しています。それは、つまり、沿岸都市が海面上昇によって流され、何百万人もの人々が故郷を追われたり、「100年に1度」レベルの台風が年に何度も起きたり、干ばつや飢きんの発生など様々な悪影響が考えられます。そうした中、存在している自然を損なうことなく、その力を活用することで、世界が目標達成に必要とされる炭素吸収量の3割を自然の力で賄うことができるのです。

Q.それは、大気中から炭素を吸収して貯める、またそれらの活用を可能にする大きな装置のようなものを想像しましたが、そんなイメージですか?

それは木を表現した言葉ですよね?笑
そうですね、そんな感じです。

実際に世界では、科学者が森林生態系と同じような働きをするデバイスを作っている最中ですが、どれも木ほどコストパフォーマンスがよくありません。それにどの人工機械も空気と水をきれいにして、野生動物のすみかを与えたりといった木ができることをすることはできません。

Q. NCSとは、単に木を植えるということなのでしょうか?

自然気候対策の7割は、植林に関することです。でも木を植えるだけではありません。自然気候対策には3つの特徴があります。それは、

  1. 気候にとって重要な地域を守ること

  2. 自然生態系を再生し、拡大させること

  3. 現在利用できる土地の管理をより良くすること

です。

Q.そうなのですね、しかしそこに木がどう働くのか良く分かりません・・

重要な生態系とは、例えば、炭素の貯蔵から家庭用材料など、大抵は森林のことです。NCS(自然を活用した気候変動対策)の基本的な考え方は『木を切らず、必要のない畑を森に戻す 』ということなんです。

Q.  その3つの「守る」、「再生する」、「管理する」ができれば、気候変動の解決に役立ちますか?

そうです。根本的に、気候変動を食い止めるには、2つのことー①炭素の排出を減らす、②余分な炭素を大気中から取り除くことーをするべきなのです。2017年、CIの科学者チームが行った調査によって、NCSの活用で世界全体で必要される炭素吸収量の3割が達成され、なおかつ、他の気候変動アプローチ以上にたくさんのメリットがあることがわかりました。

Q. たくさんのメリットとは?

自然がもたらすサービス全てです。水を濾過してきれいにする涵養機能や、きれいな空気を作り出す、生き物たちの生息地となる、などなどーここには書ききれないほどあって、自然はそれらをすべて無償で提供してくれていますね。

Q. しかし、NCSもコストはかかりますよね?

そうとも言えるし、そうではないとも言えます。NCSのいくつかは逆にコストを抑えることができます。たとえばより良い林業や農業は炭素を貯蔵しながらも、木材と食料をより多く生み出すことができます。しかし、コストがかかるNCSもあります。例えば畜産業を止めて森を再生することなどがそうです。しかし、初期段階でお金がかかる対策でも、長期的に見れば、気候変動のコストを避けることにつながるので、全体ではコストを抑えているということになります。

Q. 自然を活用した気候対策はコストパフォーマンスが良く、既に存在するということですね。

はい。まさにそうです。

Q. ではなぜ世界各国では、NCSが進んでいないのでしょうか?

考えられる理由はいくつかあります。NCSが広く普及しない理由の一つは、ファイナンスの問題です。現時点で気候緩和対策として充てられている資金の3%だけがNCSに使われています。そもそも予算がつかないという場合もあります。

第二に広報の問題があります。世間一般に、自然は気候変動に対する力強い味方としてではなく、猛威としてのイメージがあります。人々にとって自然は、最先端のテクノロジーを持つものといったイメージよりも、豊かさあふれた姿とはうらはらに恐るべき相貌をあわせもつ存在となっているので、私たち国際NGOとしては、各国の指導者に自然に対する考え方をまず理解してもらう必要があります。

Q. 予算の追加とより良い理解が必要なのですね。他にありますか?

NCSを考えるとき、土地利用の問題を考慮する必要があります。これはとても複雑な問題です。研究室の科学者でも、企業の開発者さえ、土地利用の問題を解決させるようなすごい装置を考えてはくれないものです。土地には、たくさんの人間と文化と社会と食べ物と経済が混じり合っています。それぞれのコミュニティの土地に歴史と伝統と人権があります。

しかし、今地球上に暮らすわたしたちには多くの選択肢は残されていません。より良い土地の管理者として、既に何世代も土地を管理している先住民のコミュニティからその教えを学ぶ必要があるでしょう。

Q. もし、十分な予算がついたとしたら、実際のNCSはどういったものなのでしょうか?

既に素晴らしい事例がいくつかあり、NCSがどれだけ効果的かわかっています。
たとえばコスタリカでは、国内林とマングローブを減らすことなく、保護することによって気候変動の世界的リーダーになっています。

ここ25年間、コスタリカのGDPは3倍に、森林面積は2倍に増えました。そして、2050年までに脱炭素社会の実現することを宣言しました。コスタリカは、農家や地主と直接対話をしながら、森林を守り、再生する行動に対して、彼らの土地が提供する炭素と水と生物多様性サービスのための支払いを行っています。

Q. すでにやる気のある国があるようですね。他の国はどうでしょうか?

毎年冬に国連気候変動会議(COP)のために各国のリーダーが集まります。世界各地で市民が排出削減へ向けて真剣な取り組みを進めるのを政府が後押しする内容を検討する機会です。そこで重要になるのが、NCSなのです。

素晴らしい点は、自然の力を活用した気候対策は、他の環境問題―生物多様性の減少、土壌の劣化、淡水保全―なども同時に解決することにつながる、ということです。


投稿 :ソフィー・ベルタゾ (Sophie Bertazzo)、原文はこちら
翻訳編集:CIジャパン
トップ写真:コスタリカの森 © Trond Larsen


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