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14日間と少しの恋


カフェラテを飲み始めた頃、ふと気付いた。

私が好きなのは、カフェラテじゃない。

外で大きなマフラーを巻いて、
白い息を吐きながら、
誰かを待っている素振りで、
両手に包み込んだ
カフェラテを啜る私、が好き。


もっと言えば、
そういうシチュエーション
が好きなだけなのである。

ここまで考えて、私は本当のことに ” 気付く ”。


私が好きなのは、秋だ。


秋に恋をしている。秋の全てが好きだ。

まだ雪の気配のない、
ひんやりとした柔らかい空気も、
どこかで焚き火をしているような、
木の燃える匂いも、
若さの象徴のように
揺れていた木の葉が、
色を変えて散っていく様も、

全て見守っているような、
それでいて
全てを見送っているような、
年末とはまた違う、
一年の区切りのように見える。

秋というものは、
冷たくて優しくて、
それでいて素っ気ないのだ。

春、誰とも分からない「貴方」を
待ち侘びていたのに、

私の気づかないうちに、
何度も「貴方」は私を訪ねてきていた。


子供の頃から、
ミッフィーで使われる色が好きだった。

赤も青も緑も黄も、
優しくて暖かい色だ。
少しくすんでいて、
淡くもなく、原色でもない。

秋の色。 
あれは全て、秋の色だ。

大人になるにつれて、
少しずつ忘れていた。
自分が本当に好きな色も、
音も、匂いでさえも。
貴方が毎年必ず訪れるのにも関わらず、
好きなものや愛していたものを、
今の今まで忘れていた私を、

貴方は、秋は、
許してくれるだろうか。

私が住む街は、
ただでさえ冬が早く来てしまう。
私が愛してやまない秋は、
せいぜい二、三週間で去ってしまう。

たった二週間。
きっと私は、
その二週間のために生きている。
365日のうち、14日間のために。

美しく儚い恋愛小説のように、
私はただ、
私の愛する14日間を精一杯楽しみ、
愛し、そして別れを惜しむだけだ。

実を言うと、
来年まで秋に会えないのは結構悲しい。
寂しい。切ない。

ずっとここにいてほしい。

どこへも行かず。


でも、そんな秋を、
きっと私は愛せない。
突然やってきて、
突然いなくなる。
そういうものに惹かれるのは、
私の性なんだと思う。

私が秋でも、
きっと同じことをするだろうから。

秋の過ごし方を少しだけ理解し始めた私は、
甘いカフェラテを飲むのをやめて、
初めて、こうして秋に向けて
手紙を書いている。

貴方に好かれたいと思い始めた私は、
少し渋くて温かいアールグレイを淹れて、
初めて、こうして貴方と遊んでいる。


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