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『スタートアップ:夢の扉』

2020年・韓国
原作:パク・へリョン
演出:オ・チュンファン
出演:ぺ・スジ、ナム・ジュヒョク、キム・ソンホ、カン・ハンナ、キム・ドワン、ユ・スビン、ステファニー・リー、キム・へスク、ソ・イスク、ソ・ソンミ

次が待ちきれない!となってしまうのが辛いので、大抵すでに完結しているドラマを観ています。なのについ観てしまったのが現在Netflixで毎週配信中の本作『スタートアップ:夢の扉』。なぜなら私、エンジニアに憧れがありまして… めちゃくちゃ数学ができる人とか。彼らには私に見えていない世界が見える… いいなあ…

本作は、厳密にいうと“エンジニアの世界”を描いているというわけではなく、タイトル通りスタートアップに情熱を傾ける若者たちの話、つまりはビジネスの場を舞台とした話です。
子どもの頃に父親を亡くし、逆境の中をひたむきに生きる主人公のソ・ダルミ(ぺ・スジ)が、様々な困難を乗り越えて(おそらく仲間とともに)成功する、ちょっと『梨泰院クラス』の女性版とも言えるようなお話のようですね。

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結論から言うと、このドラマにハマった、と言ってもいいかも知れません。次回配信を楽しみにしている状態です。
この作品は単純な成功物語かというとそうではなく、『梨泰院クラス』のようにいろいろな要素が盛り込まれた、見どころのある作品です。


(これ以降はこれまで配信された内容に触れている場合がありますので、まだご覧になっていない方はご注意ください)



キャンディ型(*注)の女性、ダルミの<成功物語>

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ソ・ダルミは子どもの頃に、両親の離婚により母チャ・イヒョン(ソン・ソンミ)と母について行った姉ソ・インジェ(カン・ハンナ)との離別を経験しています。その後、大好きだった父ソ・チョンミョン(キム・ジュホン)を事故で亡くします。つまり両親を失うのですね。父母の離婚の原因は父の起業に経済的な理由で母が反対したことでした。父は自分の事業への投資家探しに奔走し、ようやく光が見えかけたときに事故死してしまいます。
両親を失くしても、愛情深い祖母(父の母)チェ・ウォンドク(キム・へスク)がいたので、全くのひとりぼっちにはならなかったのが救いでした。
高卒のダルミは非正規雇用ながら職場で才覚を発揮しますが、契約期限後に再契約をしてもらえません。そこで一念発起してスタートアップを目指すことになります。その舞台となる、若者のスタートアップを支援する“サンドボックス”は、チョンミョンの事業へ投資をすることになっていたベンチャー・キャピタルのCEOが、チョンミョンの話に感銘を受けたのがきっかけで始めた事業でした。
ダルミの起業は成功するのか? そしてダルミはいったいどこまで行けるのか。これが本作の本筋となるでしょう。

ダルミの文通相手、ナム・ドサンの<本物と偽物の入れ替わり物語>

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ダルミが両親を失った時、祖母のウォンドクがダルミを元気づけようと、“ダルミに想いを寄せる少年から手紙が届く”というアイディアを思いつきます。しかし自分の文字では気づかれてしまう、とハン・ジピョン(キム・ソンホ)に代筆を頼みました。ジピョンは天涯孤独の少年で行き場を失っていましたが、ある日ウォンドクが手を差し伸べ、自分の店に住まわせていました。二人は次第に祖母と孫のような関係を築いて行きます。
代筆した手紙の差出人の名はナム・ドサン。その時たまたま手元にあった新聞にのっていた、数学の天才少年の名前でした。ダルミはこの手紙に励まされ支えられながら生きていきます。ダルミにとって手紙の中のドサンは初恋の人であり理想の男性となって行くんですね。二人の文通はジピョンがウォンドクの元を飛び出してソウルへ向かうまで続きます。
後に起業を目指したダルミが、偶然にも本物のドサンに会ってしまいます。ドサンはキム・ヨンサン(キム・ドワン)、イ・チョルサン(ユ・スビン)とともにサムサンテックという名の会社を起こしていましたが、投資家探しで行き詰まっていました。ジピョンはウォンドクのところにいた当時から持っていた投資の才能を生かして、今では投資家として立派に成功しており、その立場からドサンを知ることとなります。ダルミへの手紙の送り主が偽のドサンであったことがバレないように、ジピョンはドサンに協力を頼みます。ドサンは条件を出してその依頼を受けることにします。
この本物と偽物の入れ替わりがもたらす悲喜劇が大きなサイドストーリーとなります。


ダルミとウォン・インジェの<姉妹対決物語>

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さて、韓国ドラマですので、本作にもやはり財閥が登場します。しかしここでは財閥内のゴタゴタではなく、“姉妹対決”の対照的な背景として使われています。
両親の離婚で母について行った姉インジェは、母の再婚によって、財閥の養子となり、ウォン・インジェとなります。韓国では家父長的な戸主制が廃止(2008年に施行)されるまで、出生時に受け継いだ父親の姓を変えることはできなかったらしく、姓を変えるということは相当に大きな意味を持つようです(社会の変化につれ状況はどんどん変わって行くことと思われますが)。ドラマの初回に、インジェがダルミから「ソ・インジェさん」と呼ばれて「私の名前はウォン・インジェです」と力強く言い返す時、そこには複雑で大きな思いがあるということが想像できます。そしてそう言われたダルミにもそれは伝わりました。二人はもう家族ではないのです。
父(と情)を選んだダルミと、母(と経済力)を選んだインジェのどちらの選択が正しかったのか、あるいはどちらを選んだにせよそれを正しさという物差しで計れるのか。それはこれからわかって行くでしょう。

この姉妹対決の構図は、それぞれのキャラクターに注目すると、例えば美内すずえの『ガラスの仮面』や山本鈴美香の『エースをねらえ!』、ちばてつやの『明日のジョー』など古くから漫画によく見られる“恵まれた者”と“恵まれない者”、“努力によって事を成す者”と“(努力もするけれども)もともと天賦の才能がある者”との対立構造と同じですが、二人が姉妹である事で家族の問題としての側面もあるため、感情の面で複雑さを増しています。
この対決はどう決着するのか、姉妹の和解はあるのか、というところがもう一つのサイドストーリーでしょう。


ダルミとおばあさんの、おばあさんとジピョンの、あるいはみんなの<家族物語>

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家族については韓国ドラマで重要なテーマとなることのひとつですが、やはり本作でもここに触れないわけはありません。
ダルミの家族は一度崩壊しますが、その後は愛情深い祖母ウォンドクと二人ながら暖かい家庭を築いています。一方、母イヒョンとインジェは財閥の一員となったものの、養父と義兄との関係は家族とは言い難い寒々しいものとなっていました。インジェは、自分に対する養父の本音を知ったことで、財閥の傘の下から飛び出してスタートアップに挑戦することになります。そしてイヒョンの方は、財閥の夫の元を出て行き場を失い、なんとウォンドクに泣きついてきます。ウォンドクは特筆すべき懐の深さで、自分の息子を捨てていったイヒョンを受け入れ、新たに祖母、母、ダルミの三人の生活が始まります。

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天涯孤独のジピョンは、過去にウォンドクと“ちょっと微妙な祖母と孫”のような関係を築いていたものの気まずい別れ方をして、その後ぷっつりと関係は切れていました。ひょんなことから再会し、過去の恩を返したい、と、偽ドサンがダルミにバレないようにしたいウォンドクに協力する事で、交流が再開します。ウォンドクもジピョンも意地っ張りなので、一見ドライに見えるけれども実は暖かい関係性を育んでいきます。この二人の関係はじんわりきますね。

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ドサンの家族は喧嘩しながらも仲の良い普通の家庭に見えます。両親から愛されていることも伝わってきます。しかしそんな家庭でもやはり問題はあるのですね。ドサンは子どもの頃から人知れず“両親からの大きな期待”というプレッシャーと戦ってきました。過去に両親を失望させたくないためについた嘘の重さにも悩んでいたのですが、そのことをようやく両親に話すことができた時、見ている私たちもホッとします。

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家族に恵まれなかったダルミにとっては、一緒に起業したサムサンテックのメンバーである、ドサン、ヨンサン、チョルサン、チョン・サハ(ステファニー・リー)たちは家族のように大切な存在となります。画像認識のサービスの開発に成功し、憧れのシリコンバレーの会社から友好的な(と思った)買収の話を持ちかけられ、さあこれからみんなでサンフランシスコへ、と思っていたのですが…

と、ここからは言わないでおきましょう。

以上、12話まで観た短観です。
この12話でドラマの大きな転換期を迎えました。全16話ということなので、きっかり4分の3地点です。さて、これからどうなって行くのか、ますます楽しみです。

*注:日本の少女漫画『キャンディキャンディ』の主人公のような、逆境にくじけず生きる女の子の典型

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