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王道だけど新しい、嫌味ゼロのラブコメ 『着飾る恋には理由があって』(最終回視聴後)

お洒落家具&雑貨の会社の広報でSNSのインフルエンサーでもある真柴(川口春奈)と、ワケあり天才シェフでミニマリストの駿(横浜流星)のアクシデンタルな出会いから、偶然の再会と思いがけない同居、真柴の憧れの社長・葉山(向井理)との三角関係… というラブコメ王道的なストーリーを、表参道のお洒落マンションを舞台に繰り広げる、素敵がいっぱい詰まったドラマが終わりました。(記事アップまでだいぶ時間が経ってしまいました…)

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こうして簡単にまとめてしまうと、おもしろかったのかどうかよくわからなくなってしまいます。王道という言葉は陳腐と裏腹だったりもするからです。

しかし本作には新しい面がありました。

真柴と駿の対等性

これまでの王道ラブコメと明らかに違う点は、真柴と駿の関係性でした。

王道ラブコメでのカップルの男女の関係性は、程度の差こそあれ、大抵が男性優位です。彼氏は彼女より物を知っているか(精神的に)大人で、彼女に対して高い位置からアドバイスし、忠告し、注意し、保護し、彼女を導きます。
彼氏の態度はドSから一見対等なものまで色々なパターンがありますが、本質を見ると男性優位なのです。

本作における真柴と駿の関係はどうだったでしょうか。

悩む真柴に駿がかける言葉は、上からのアドバイスや彼女を導こうとするようなものではなく、応援の言葉、勇気づけの言葉でした。
それは悩む駿に真柴がかける言葉も同様で、二人の間にどちらかの優位性は見られません。

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唯一、SNSで自分のアカウントが炎上し、どうしていいかわからず、アカウントごと削除してその世界から消えたいと考える真柴に言った駿の言葉、「逃げるな」は、二人の対等性から逸脱していそうにも見えました。これが「問題や嫌なことから逃げてはいけない」という一般的な忠告だったなら、そうだったかもしれません。ですがこれは、駿が自らが苦しんだ経験に照らして発した言葉で、忠告というよりは願いに近いものでした。

しかし、このように対等であるような二人の年齢設定が、真柴27歳、駿26歳と、駿が1歳(だけですが)年下なんですよね。駿が年上でもこのような関係を描けたかというと、難しいのかもしれません。それくらい私たちの頭には男女の関係についての固定観念があるのです。(ただ、年齢設定は確かドラマ内では語られることはなかった気がするので、見ている分には意識されません。しかし設定の段階では意味を持つと思います)

壁ドンなし、頭ポンポンなし

本作には壁ドン的な、男性が女性にちょっと強引に迫り、女性がそれを動揺しつつも受け入れるようなシーンはありませんでした。あるいは男性が優しく女性の頭をポンポンして子ども扱いし、女性がそれを嬉しがるようなシーンもありません。
男に押し切られるような女や、子どものように保護下に置かれるような女はここにはいませんでした。羽瀬ちゃん(中村アン)も香子さん(夏川結衣)も、男に流されず、男と対等であろうとする存在として描かれています。

印象的なキッチンカー越しのキスシーンこそ、駿の位置が上からでしたが、それを除くと大抵のシーンで二人の顔の位置が同等でした。
それがなんなの? ではあるかもしれませんが、これは結構二人の関係性を象徴しているような気がするんです。もちろん俳優二人の身長差が大きくないというそもそもの状況もあるのですが、それを考慮しても。

冷蔵庫前でのキスシーンは唐突で、壁ドン的と言えなくもないですが、二人の表情と交わした目線が、強引さとはちょっと違っていました。

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(この写真は普段より二人の身長差がありますね… もし意図的につけたのだったらそういうのもなくしていっていいと思いますが)

少し忠告的に喋りすぎた駿の唇を真柴が指でつまんで黙らせるシーン(それのお返しもありました)なども、言われるままではないという真柴のスタンスを表す面白いシーンでした。

単に壁ドンや頭ポンポンがすでにありふれた表現になってしまっているから避けただけ、ということなのかもしれませんが、それらを避けることで、親密なシーンにも二人の対等性が表現されているように感じました。

一見リアルなファンタジー

20代後半でそれなりにキャリアを積んでいて、日々仕事に頑張っている真柴は、キャラクターとしてはリアリティがあります。しかし作品世界を見渡すと全てがあまりに理想的で、ほとんどあり得そうもないファンタジーだと言えるでしょう。

表参道のおしゃれマンション、可愛い主人公、おしゃれなワードローブ、偶然出会ったイケメン天才シェフとの再会からの同居、暖かい同僚や後輩に優しい上司、さらには憧れのイケメン社長と急接近、SNSで炎上し退職するもその後ネットで開いたセレクトショップで成功(の兆し)、最終的にイケメン天才シェフと結婚して一児をもうける…

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悪い人が一人も出てこない、みんなが真柴を愛してる、穏やかな世界。

こんなのあり得ない。あり得ないからこそ、今の殺伐とした落ち着かない日本の状況の中で、ほっとできる時間として機能していたドラマだったのではないでしょうか。毎回終盤に絶妙なタイミングで入ってくる星野源の楽曲『不思議』も曲調といい歌詞といいドラマにマッチしていました。(この、星野源が入ってくるタイミングを「追い源」と呼び習わしていたそうですね)

真心込めて仕事に打ち込んで、素直な態度で人と接していれば、穏やかで幸せな日々がやってくる。そういう希望を皮肉なしに見せる嫌味ゼロのファンタジーを、生ぬるく感じた人もいれば癒しと感じた人もいるでしょう。

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このドラマを手がけた新井順子プロデューサーは、『アンナチュラル』(2018)、『わたし、定時で帰ります』(2019)、『MIU404』(2020)などの話題作も手がけているそうで(『MIU404』の一部のみしか見ていないので、機会があれば見ようと思っています)、次にどのような作品を生み出してくれるのか気になるところです。

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