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『コーヒープリンス1号店』

2007年・韓国
原作:イ・ソンミ
演出:イ・ユンジュン
脚本:イ・ジョンア、チャン・ヒョンジュ
出演:コン・ユ、ユン・ウネ、イ・ソンギュン

幼い頃に父親を亡くし、いくつもの仕事を掛け持ちしながら、一家の大黒柱として母と妹との生活を支えるコ・ウンチャン(ユン・ウネ)は、活動的でボーイッシュな外見からしょっちゅう男性に間違えられている。
アメリカから帰国した財閥の御曹司チェ・ハンギョル(コン・ユ)は、祖母から結婚をせかされているが、いとこのチェ・ハンソン(イ・ソンギュン)の元恋人ハン・ユジュ(チェ・ジョンアン)への想いが断ち切れず、その気になれないでいる。祖母からの見合い攻勢をかわすため、ひょんなことから出会ったウンチャンに恋人役を依頼する。ウンチャンを男と思い込んだまま…
ある日ハンギョルは祖母から、結婚しないなら商売をしろ、と寂れたコーヒーショップの再建を任される。失業して困っていたウンチャンは、男性しか雇わない、というその店で、自分を男と偽ったまま(というか、ハンギョルにそう思わせたまま)働き始める。次第にハンギョルへの想いが膨らんでいくが、ハンギョルもまた、ウンチャンに惹かれて行く。
ハンギョルに想いを寄せるウンチャンだが、他方でハンソンの優しさに癒され、信頼を寄せていく。ウンチャン、ハンギョル、ユジュ、ハンソン、絡み合ったそれぞれの想いはどこへ行き着くのか…

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2007年の作品ですが、古さを感じさせません。この作品は当時相当ヒットしたらしいですね。

話は、“ウンチャンが女性であることが何らかの事件でハンギョルにバレそうになる、しかしバレない”というところを行ったり来たりする形で進んで行きます。
一家の大黒柱として働きづくめの健気なウンチャンは男性に間違われるのには慣れていても、自ら男性と偽ったがためにハンギョルへの恋心を明かせない状況に煩悶します。見ているこちらは(というか私は)、もうバレてもいいんじゃない? もう好きって言っちゃいなよ、っていう気持ちになり、ちょっとイライラしてきます。いやまあ、バレてしまったら話の大半が終わってしまうんで、そういうわけにも行かないんですけれども。
店をクビになったら困るから、というのが大義名分だけれど、心の奥に、嘘をついていたということでハンギョルに嫌われてしまうんじゃないか、という恐れもあるので、真実を言い出せないのは無理もないと言えば無理もない。
何となくですが、韓国ドラマでは、この“思い違いや真実を知らないことから起こるすれ違いとか行き違い”で見る者を焦らすくだりが、時間的に長い気がします。

時間的に長い、で思い出しましたが、ハグとかキスのシーン(いつもというわけじゃなく、想い合う二人がついに…という場面ですね)も、すごく長い。あちらからこちらから、ぐるっと回って、遠くから近くから、空から… これでもかというくらい見せますよね。ムーディーな歌とともに。(そのかわり、その先の際どいシーンは皆無です。何かコードがあるのでしょう)

そういうのも併せて考えると、韓国の視聴者は感情を掻き立てられる場面を長く見たいと思っていて、制作側はそれを考慮してそういう風に作っているのかなという気がします。泣く場面なんかも多いですよね。男も女もよく泣きますし、涙の量も多く、まさに滂沱の、という感じです。泣く場面に関しては、日韓の感情表出の違いを感じます。私は、あまりに泣く場面が多いと、自分は泣いてなくてもだんだん疲れて来るんですが、それは泣く場面を見るのも体力が要るからです。だから韓国の人はタフなんだなーと思ったりしてるんですけれども。

だいぶ話が逸れてしまいました。

不遇なヒロインの部類に入るウンチャンですし、恋の相手は財閥の御曹司、結局は結ばれる“キャンディレラ物語(注*)”ではあっても、特筆すべきことがあります。

それは、ウンチャンが男性と思われたまま男性から愛されること。男性を愛したと自覚したハンギョルが精神科にかかるところをコミカルに表現したり、他にもホモフォビア的な場面は各所にありますが、それでも当時とすれば結構画期的だったのではないでしょうか(そうでもないのかな)。
そして、二人の想いが通じ合ったあと、そのまますぐ結婚、とはならずに、ウンチャンが自分の夢の実現のために旅立つこと。これは、お金持ちのイケメンと結婚するのだけが女の幸せじゃない、という小さな宣言ではないでしょうか。最終的にはハンギョルの元へ戻ってくるのですけれども、すぐにでも結婚したいハンギョルをかわして、ウンチャンはまず仕事への興味を示します。

しかし、そのように少し新しい部分がある反面、ハンギョルのキャラクターは古くからの男性像そのものです。ウンチャンへの気持ちに気づいて戸惑うのはわかりますが、そのためにウンチャンに冷たく当たったり不機嫌を丸出しにしたりします。なぜそういう態度を取られるのかわからないウンチャンは、悩み傷つき、ハンギョルに気を使います(この辺りが結構長いですよね)。ハンギョルはおそらく、自分に気を使ってもらおうとして意識的にそういう態度に出ているのではないでしょう。私にはそれが、自分の機嫌の表出で“無自覚に”周りをコントロールする、非常に家父長的な男性像に見えました。想いが通じ合ってからも、年上だからか、社長だからか、ウンチャンに対して束縛的かつ命令的なのも気になりました。
このような“恋愛状態において束縛的かつ命令的な男性”というのは韓国ドラマの中ではよく登場します。しかも、それがまるで男らしさの象徴であるかのように、肯定的に描かれていることが多いです。そんな風にされた女性は「自分はそれほどに愛されている」と感じる、という風に。

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そんなハンギョルを演じたコン・ユが、キム・ドヨン監督の映画『82年生まれキム・ジヨン』(2019年・韓国)で、女性としての生きづらさから壊れていくジヨンの夫デヒョンを演じたのは、とても感慨深いです。

諸々ひっくるめて、『コーヒープリンス1号店』は見て損はないドラマだと思います。


ところで、今年、『コーヒープリンス1号店』の“同窓会”的なドキュメンタリーが制作されたらしいですね。
ミニョプ役のイ・オンさんはこの作品の後、事故で亡くなっていたんですね…


ドラマの内容とは関係ないですが、カフェの同僚のノ・ソンギ役のキム・ジェウクは、最近でも当時とほとんど容姿が変わらなくてびっくりします。

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そしてこれもまたドラマの内容とは関係ないのですが、ハンソン役のイ・ソンギュンが、あの『マイ・ディア・ミスター 〜私のおじさん』のおじさん、パク・ドンフンを演じた俳優ということに気づいたのは本作を見終わってからでした。本作の方が10年以上前に作られた作品なのに後から見たので、見ている間はぜんぜん繋がりませんでした。個人的にはドンフンの方がなんかしっくりくるなあ。


注* キャンディレラ物語:日本の少女漫画キャンディキャンディの主人公のように不遇な環境で健気に生きる女の子が、シンデレラのように王子様的人物に見初められて結ばれる物語。





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