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【2022 映画感想 002】『最後の決闘裁判』 男たちの虚しい戦い

2021年製作/153分/PG12/アメリカ
原題:The Last Duel
配給:ディズニー
監督:リドリー・スコット
製作:リドリー・スコット、ケビン・J・ウォルシュ、ジェニファー・フォックス、ニコール・ホロフセナー、マット・デイモン、ベン・アフレック
原作:エリック・ジェイガー
脚本:ニコール・ホロフセナー、ベン・アフレック、マット・デイモン
出演:マット・デイモン(ジャン・ド・カルージュ)、アダム・ドライバー(ジャック・ル・グリ)、ジョディ・カマー(マルグリット・ド・カルージュ)、ベン・アフレック(アランソン伯爵ピエール)

昨年から公開されていますが、遅ればせながら観てきました。2022年の2本目。
(Disney+で観られるの知らなかった。でも知ってても映画館に行ったと思う)

一切の予備知識なしで観に行ったので、英国の話だとばかり思っていました。ところがいきなりパリで、それなのに英語だったので、ちょっと耳に違和感がありました。室町時代の日本で中国語、いや韓国語か、が話されているみたいな感じ。フランスの人が見たらどうなんでしょう?

それはそれとして。

タイトルの決闘裁判とは、命をかけた決闘でどちらが「正しい」のかを決めるシステムのことだ。それを神の裁きと呼ぶが、要するに強い方が正しい、勝てば官軍ということ。

本作では、妻のマルグリットがジャックにレイプされたと主張するジャンと、レイプではなく合意だったとするジャックのどちらが「正しい」のかを決めるわけだが、ジャンにとってもジャックにとっても、マルグリットがレイプされたかされなかったか、そのどちらが真実かなどどうでもいいことなのだ。二人にとって重要なのは、自分のプライド、名誉だけ。マルグリットは自分で戦うことすらできず、夫に命を預けるしかない。

二人は、愛しい女を守りたくて、あるいは手に入れたくて戦うんじゃない。そんなロマンチストではない。自分が所有していると思っているモノを奪われたと感じたり、あるいはコケにされたと感じ、マウントを取りに行かずにはいられないだけだ。

この事件は、一見、女がレイプされたことを夫に告白したことが招いた事件のように見えるが、実はその前から始まっている。もともと友人同士だった二人は、ジャックの裏切り(とジャンが思っている)により、そもそも事件が起こる前から反目しあっていた。そこにちょうどよくこの事件が起きた。いや、もっといえば、マルグリットはジャンの妻であったからこそ、ジャックに狙われたのだ。ジャックは別にマルグリット自身に惹かれたわけではない。本人がそのことに気づいているかいないかは別として。

男たちの馬鹿げた争いに付き合わされる女の心中のなんと虚しいことか。

本作はその馬鹿げた争いの顛末が、三者三様の視点で語られる「藪の中」形式で構成されている。それぞれジャンとジャックの視点である第1章、第2章と、マルグリットの視点である第3章との間には恐ろしいほどのギャップがある。

俺のモノ(配偶者や恋人を含む)に手をつけたな、俺を馬鹿にしやがったな、で戦いを挑む男。現代の人間からすればこんな決闘は無意味に見えるだろう。
女一人に命を賭ける? あるいは自分のプライドに? なんて馬鹿なことを。野蛮だ。中世ならではの話だな、と。

本作は史実に基づいていて、タイトルの通り、これが最後の決闘裁判だったらしい。しかし、馬鹿げた戦いは、これが本当に最後だろうか?
今に至るまで、男たちはそれを続けているのではないだろうか。今現在、各地で起こっている様々な戦争も、この変形に過ぎなくはないだろうか。

そう考えると、本作は一種の反戦映画のように見える。

馬鹿げた決闘は、シーンとしては少しも馬鹿げていないどころか、かなりの緊迫感があった。だからこそ余計に、戦い自体の虚しさが際立つ。実際にあんな戦いを見たことがないのに言うのもおかしいが、とてもリアルで、まるで自分が当事者になったかのように、戦う二人の鼓動や、受ける衝撃や痛みが伝わってくるようだった。

すべてを乗り越えた後の、ラストのマルグリットの顔のショットが良かった。いろんな解釈が生まれ得る、映画的なシーンだと思う。

リドリー・スコット監督のデビュー作は『デュエリスト/決闘者』だが、私はまだ観ていないので、作品についてはもちろん、彼がすでに決闘の映画を撮っているということの意味を測れない。いずれ観てから、また考えたいと思う。




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