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進化するボカロファンメイドライブ MIKUEC VIRTUAL~2021 SPRING~ライブレポート

 「ボカロファンメイドライブ」というものをご存知だろうか? 現在に至るまでマジカルミライやMIKU EXPOのようにボーカロイド楽曲がリアルの会場で演奏されるライブは何度も行われてきた。それらの有名なものはほとんどがクリプトン・フューチャー・メディア(初音ミクを出している会社)などキャラクターを発売している所謂「公式」が、主催あるいは共催という形をとって開催されている。しかし、それを自分たちの手で作りたいと熱量の高いファンが集結し、開催されるライブも小規模ながら存在する。これが、「ボカロファンメイドライブ」である。

 コロナ禍でライブイベントが大きな打撃を受ける中、ファンメイドライブもその例外ではなかった。愛するVOCALOIDキャラクターが現実のステージに現れる感動とボカロファンにとっての祝祭の場としての機能がこれまでのファンメイドライブの魅力であっただけに、リアルの会場に集まれないというのは致命的な状況だ。

 しかし、ファンの熱量はそれでおさまるものではなかった。むしろコロナ禍に適応し、多様な形での開催が模索されている。例えば今年の4月に開催された「MIKUCrossing♪03」は組み立ててiPadを上に乗せると立体的にキャラクターが現れるミニライブハウスを販売し、家にいながら卓上で楽しめるライブであった。

MIKUEC VIRTUALとは

 今回紹介するMIKUEC VIRTUAL~2021 SPRING~は2021年5月23日に行われた電気通信大学バーチャルライブ研究会が主催するオンラインライブ。バーチャルライブ研究会(略称はVLL)はおそらく大学ボカロサークルの中では最大級の規模で、コロナ禍になるまでは毎年学祭の時に大学講堂でリアルライブを開催していた。MIKUEC2019の様子が一部YouTubeで公開されている。

 昨年はYouTube Liveで開催していたMIKUECだが、今年はなんと自前のソフトウェアを開発し、部員の手で作った映像を部員の手で作った会場でライブを行った。しかも単に3Dの会場で観るだけでなく、Twitterでログインすることでアバターを与えられ、会場内を自由に動いたりペンライトを振ったりすることができるようになっていた。また、ソフトウェアが使えない人のためにライブの様子はYouTube Liveでも同時中継された。

 ここからは会場の様子を紹介していくが、なんとMIKUEC VIRTUALは6月5日にDay2公演がある。内容はDay1と同じだそうなので少しもネタバレをされたくない方はここで読むのをやめて公式Twitterをフォローしておこう。参加方法は全てTwitterに載っている。また、この後の文章や画像は会場の雰囲気が伝わる程度にとどめてセットリストを全て公開するようなことはしないので、読んでから観に行っても十分楽しめるよう配慮してある。会場の様子や雰囲気など予習しておきたい人は斜め読みしておくといいかもしれない。

※専用ソフトウェアで観るためにはそれなりのPCスペックを要するが、筆者はノートPCでも快適に観ることができた。参考までに視聴に使ったPCのおおよそのスペックを書いておくとCPU:第8世代intel core i7, メモリ:16GB, グラフィックボード:NVIDIA MX150。グラフィックボードがCPU内蔵のみでも動作はするそうだ。それからログインのためにTwitterアカウントが必要なのでない人は用意しておこう。

ライブ会場の様子

 ログインするとすぐに客席かと思いきやスポーン地点が別に作られており、大きな螺旋のスロープを登って会場に向かう。PCゲームでよくあるようにキーボードのWASDで前後左右に動き、スペースキーでジャンプできるようになっている。(スクリーンショットは音声が入らなければ公開可能だそう)

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 そしてスロープを登りきるとスタジアムライブのようなステージと観客席が広がっていた。アバターの顔部分にはTwitterのアイコンが、頭の上には名前が出ていて観客の区別がつくようになっている。位置取り次第では「おいそこちょっと頭邪魔だよ!」というところまでリアルライブそっくりだ。音響もサラウンドになっていて、普通のPCモニターとヘッドホンで観ていても強い没入感が味わえる。

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 そしてライブが始まると初音ミクがステージに登場。リアルライブで透過スクリーンに初音ミクが召喚されるのも感動だが、バーチャル会場は本当に巨大なステージ上に立っているような錯覚を覚える。全員の目の前に大きくキャラクターを映すこともできたのだろうけれど、ステージ上の初音ミクの小ささや観客の頭越しの景色が配信ではなく現実のライブ会場に行っているような気持ちにさせてくれた。

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これはオリジナル楽曲でありMIKUEC2020テーマソングでもあった「ナナイロ」のシーン。ボカロ好きが集まっているだけあって様々なボカロの名曲のエッセンスが端々から感じられる楽曲だ。間奏ではMIKUEC2019のテーマソング「Inalice」のフレーズが入っていて、MIKUECの歴史を刻んだ曲にもなっている。MVが上がっているのでこれだけでもぜひ聴いてみてほしい。

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 宇宙を題材にした曲のサビではタイトルどおり会場の重力が1/6になるというバーチャルならではの演出も。最初は観客が空を飛び回っていて何事かと思ったが自分もジャンプしてみたら驚くほど高く跳んだ。遊び心ある仕掛けである。そしてミクさんも翔ぶ。翔んでるミクさんかっこいいな……。

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 ライブは本編約30分で終了。エンドロールが終わると流れた楽曲のイメージイラストがステージ上に現れた。強制的にオフラインになることはなかったのでその後もしばらく会場内を散策する観客が多く、しばらくライブの熱気が残っていた。

 僕も会場を色々と歩き回ってみることに。まずは2階席に行くためのポータルへ……。

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 2階最前からは観客の頭を気にすることなく全体が見渡せた。(写真は撮りそこねてしまった)開場から開演までかなり時間があるので事前に入場して見やすい位置を探しておくと良かったかもしれない。

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 2階席の裏手にあったスタッフエリア。機材とともに大量のエナジードリンクが転がっていた。これが部員たちの苦労の痕跡か……。

 他にもアバターにTwitterアイコンと名前が表示されるので一緒に観ていた友人と合流してみたりしつつ、しばらく会場でライブの余韻に浸った。もう一度スポーン地点に行ってみると入った時は気づかなかった巨大なメインビジュアルがあった。各地に浮かんでいるファンアートを眺めて回るのも楽しい。

ライブを振り返って

 改めてライブを振り返ると、MIKUEC VIRTUALは部屋でひとり孤独に観る配信ライブでは決してなかった。作り込まれた会場と自在に移動可能なアバターが強い没入感を与え、現実のライブ会場と遜色ない会場の一体感と熱気を味わうことができた。また、会場もキャラクターも観客自身もバーチャルであるが故にその内部で観ている限りステージに立つ初音ミクは本物であるという逆転が起こっていて、極めて現実のライブの雰囲気を感じられるような演出しながらもそれが単なる代替手段ではなく、バーチャルライブという新しいエンタメとしての面白さが存分に発揮されていた。リアルライブが開催できない状況だから生まれたものではあるだろうが、今後バーチャルライブとしての進化もぜひ観てみたい。

 あとは何といってもこれだけのシステムを作ってライブを行う熱量に感服した。学生サークル、そして非営利イベントにも関わらずこれだけのクオリティでソフトウェアを用意し、会場、ビジュアル、楽曲、音源制作などを全て自前で作り上げるのは並大抵のことではない。歴史が長くなりボーカロイドを離れてしまった人も多くいる一方、こうして今も愛を注ぎ、新しいことに挑戦している人々がいるというのは心強い。そうした人々の努力が知られ、新しい試みが広がっていくことを願っている。

おわりに

 今回見逃してしまった方も6月5日のDay2公演を是非観てみてほしい。開演時間は20時で、参加は無料。会場は専用ソフトウェアとYouTube Live。インストール手順など詳しくはMIKUEC公式Twitterに載っている。

MIKUEC 公式Twitter

電気通信大学バーチャルライブ研究会 公式Twitter

MIKUEC 公式YouTube Channel

MIKUEC 公式サイト

電気通信大学バーチャルライブ研究会 公式サイト


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