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Future Funkには括りづらいのでブーム中に名前が挙がりにくかった名作の話がしたい

過熱したブームはすっかり落ち着いたものの、人気ジャンルの一角を占めるようになったシティポップ。再評価のきっかけになったFuture Funkの話をしている人はなかなか見かけなくなってしまいましたが、最近remixを作るにあたって色々聴いていたところ名曲がたくさんありました。今回は特に流行の最中にあまり取り上げられなかった曲を中心に紹介していこうと思います。

そもそもFuture Funkって何だっけ?

という人のために、簡単におさらいしておきましょう。Future Funkは、日本の70~80年代のポップスをダフト・パンク風にリミックスしたものというのが簡潔な説明です。2010年代前半頃におこり、2020年前後くらいに最も流行っていたと思います。詳しい経緯や音楽性については解説している人がたくさんいますので調べてみてください。

韓国のプロデューサーNight Tempoの作品が有名で、中でも竹内まりやのPlastic Loveをサンプリングした作品はシティポップファンを大量に増やしました。

彼がFuture Funkブームの中心地にいたことは間違いないですが、一方で原曲を派手に改変しないスタイルや、演歌や歌謡曲といったシティポップには普通括られない音楽にも造詣が深い様子は、(いい意味で)薄っぺらい80年代のノスタルジックなイメージを消費する楽しみ方とは対極にあり、ある意味では外れ値的な作家といえるかもしれません。そしてその原曲をリスペクトする姿勢こそが、流行後も日本のレーベルから許可を取り、時に依頼を受けながら著作権の問題をクリアした上でたくさんの作品を発表できている理由でもあります。しかし、そうしたスタンスを取る人は多くなく、自分のオリジナル作品としての色が強い作品を作る作家のほうが多かった印象がありますし、権利の問題で消えていった楽曲も数多くあります。

「Future Funkに括られない何か」もたくさん溢れていた

2020年頃は、Future Funkに限らず世界的に80年代リバイバルが起こっていました。そのため、サンプリング元が日本のシティポップではないけれどFuture Funkっぽい作品みたいなものもたくさん存在しましたが、わかりやすくブームのFuture Funkのコンテクストには微妙に回収しにくいので触れられる機会はあまりありませんでした。そういった、「Future Funk好きのYouTubeのおすすめにはみんな出てきていただろうけど、あんまり話題にしなかった曲たち」の話をしたいというのが今回の趣旨です。長い前置きになりましたが、どうぞお付き合いください。

Soda City Funk

ひとつめの作品はこちらの動画。この映像自体はRAMDARAMというおそらく韓国人のアニメーターの作品で、楽曲を作ったのはTim Legendというミュージシャンです。正式に許可を取って制作されているので、YouTubeの概要欄には「meme動画じゃないよ!」と書いてあります。コメント欄は英語と韓国語が多いのに何故か日本語です。

元ネタになっているのはCheryl Lynnの『Got To Be Real』。既に原曲が相当有名ですが、このリミックスはラップも入って軽快なアレンジになっています。アニメも個性的でとても好きな作品です。が、Future Funkではありません。日本のシティポップは使われていませんし、Future Funkは名前にFunkとついているものの系譜としてはフレンチ・ハウスなので原曲のファンキーなノリを活かしたこの曲は音楽的にもちょっと外れています。(ジャンルの厳密な定義を考えるのはナンセンスですが。)しかし、当時はNight Tempoと一緒におすすめに流れてくることが多かったので、実際には一緒に聴いている人も多かったのではないかと思います。

🎷

何のことかと思うかもしれませんが、動画タイトルは『🎷』です。こちらはiTMGという人(?)が上げているアザラシの赤ちゃんのミームのひとつでなかなかシュールな映像になっています。で、この原曲がこちら。

Engelwoodというアーティストの『Immaculate Taste』です。Engelwoodも80年代の音楽をよくサンプリングする作家で、この曲の元ネタはFinis Hendersonの『Making Love』という曲です。

この曲がFuture Funkかと言われると難しいですが、実はEngelwood、日本のシティポップもサンプリングしています。それがこちら。

英語の部分しか使われていませんが、元ネタは濱田金吾の『街のドルフィン』です。原曲が収録されているアルバムのジャケットは夜の街の写真なのですが、Engelwoodの『Crystal Dolphin』では山下達郎や大瀧詠一のジャケットみたいな映像も相まって爽やかな夏の海辺を感じさせる曲になっています。Future Funkかといわれるとフレンチ・ハウスっぽくはないので微妙ですが、Future Funkプレイリストに入っていてもギリギリ違和感ないかなというラインですね。

SUPER FANTASY

こちらはayashi[!].の『S U P E R  F A N T A S Y』。概要欄にサウンドクラウドの原曲リンクがありますが、残念ながら削除されていました。

この曲の元ネタは中原めいこの『Fantasy』という曲です。コード進行が単純な循環であるのをいいことに、ずっとサビを繰り返し続けるというなんとも力技なリミックスですが、一番盛り上がるところが流れ続けるので最高に踊れるアレンジです。あとこれまで紹介してきた曲はどれもFuture Funkか微妙なところがありましたが、これは誰が聴いてもFuture Funkでいいと思います。

中原めいこを当時から知っている人からすれば『君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね』が有名かもしれませんが、シティポップリバイバルの文脈では『Fantasy』が評価されています。にも関わらずサブスク解禁もMV公開もしていないので、違法アップロードの動画が1000万回以上再生されています。海外のファンからすれば入手する方法がほぼないですし、なんとか公式から出してほしいところです。

リリース時の代表曲でないならレコードも多少安いかと思いましたが、『Fantasy』が収録されているアルバムはしっかりプレミアがついていました。先程紹介した『街のドルフィン』が入っているアルバムも高額になって壁に飾られており、「埋もれていた楽曲が発掘されるってこういうことなのか!」と思った覚えがあります。

おわりに

なんだか半分はミーム解説記事みたいになってしまいましたが、Future Funkやその周辺の80年代リバイバルはこうしたインターネットのハイコンテクストさも含めて面白いムーブメントでした。当時同じようにこういう細かいミームを拾っていて「ああいうのあったよね!」と共感してくれる人がいたら嬉しいです。


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