30首連作歌集『生活は踊る、されど進まず』【歌集本編無料】

【はじめに】

このnoteはわたしの連作30首の短歌をまとめた歌集、『生活は踊る、されど進まず』になります。(既にマガジン機能で「今日の短歌3首」として発表しているものも6首含みます)
有料記事として表示されてはいますが、本編である歌集部分はすべて無料で読むことができます。
また、野暮ではありますが、記事の最後に今回の歌集の意図、解説を添えてあります。こちらは有料部分となっておりますので、もし歌集部分をお読みになった上でお気に召しましたらぜひご購入をお願いします。今回の歌集の中にはわたし自身にしか知り得ない背景で詠んだ歌や、その他諸々の意図もありますので、より深く今回の歌集に、わたしの思考世界に没入して頂く一助になれば幸いです。


 【30首連作歌集『生活は踊る、されど進まず』】

わたしには あなたの名呼べば一瞬に
世界でいちばん 短い抒情詩


胸の奥の やわらかいものだけが覚えてる
あなたがゆっくり手を触れた跡


微睡みの間違いだったとしても見た
確かにあなたの優しい影を


「間違えた!」あなたは言うが好きでした
わたしの歌に背中合わせの


この命 一世紀もないがその中で
守れるとすればあなたの帰る、


紡ぎかけ 言葉にするにも 野暮とする
ただこれ以上は歌にできない


今日もまた誰ぞが空の底にいて
街のどこかで夜が辛いと


あれはただ 冬だったねと言える時
帰ったあとの水道の温度


網膜の奥に残った陽炎に
なりたいと思うその儚さの


教壇に立ち手を伸ばす黒板に
落とす影すらそれは優しく


ただ僕の光があなたのニューロンを
駆けていたことをいのりてしこと


この歌も誰かの夜を駆け抜ける
かすかな蛍に化けられるなら


からからの風呂場のタイル踏む時の
明日が来るんだと悟る恐ろしさ


首下げる背後の視線
リンスでも、あなたの目だと勘違う夜


髪をただ乾かす時の惰性だけ
洗い流せぬ命の洗濯


僕の歩にテンポが合わないとも思う
明日が来るのがすごい速さの、


こんなにも青いのに僕は
あのように染まれなかった 春を弔う


まだ夜を知らない子らの背伸びの語
星を探す時 来なけりゃいいね

こんなにも 夜が辛いから温める
真夜中2時に凍った自意識

冷凍庫 白い光のまばゆさに
そこに不思議の国を見ました

きっとそう あれらは凍える中にいて
アリスの僕待つ寂しいうさぎ


手を伸ばしあなたの雨を都合よく
避けられる樹なら わたしもよかった


天国とやらに両手をかざす僕
菩提樹のつもり まだ雨は降る

指先で腐る自意識 
流れゆく言の葉の並に乗り切れぬまま


僕たちは転がってゆく
枯れ草の如く絡まる心抱えて 


さよならを素直に言えず分解し
戻せなくなった教室の隅


人生かそれともまたは品性か
さよならに継ぐ語を想う夜

眠れない夜ほど永い、その怖さ
夜明け前頃の頭痛だけ知る

錠剤の夢待つ時を永遠と
見紛うほどに虚ろに浮かぶ


穏やかで夜凪のようなその地獄
朝が降ること 期待をしては

ここまでお読み下さりありがとうございました。
誰かの心の片隅に、この歌たちが生き続けることを願っています。それでは、また。


この歌集を、冬の終わりにこの世を去った一人の恩師に捧げます。

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2,982字

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