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パネットーネが食べたくて

フードアナリスト検定の試験にこんな設問があった。

「ご自身が「ヨーロッパ菓子」に纏わる経験や感想について、640字ー800字以内にまとめて下さい」

なるほど、面白い設問である。

受験者も採点者も困らせる、この広さが良い。

私も例に違わず迷う。

うーーーーーん。

イタリアのドルチェといえば、ティラミス。

そうそう、はじめてイタリアで教えてもらったのは、ティラミスとラザニアだった。
イタリア語も全くわからないまま、マウロのおばあちゃんのところに2人にされて、Googleに頼りながら教わったんだっけ。思い出深い。

それから、パンナコッタも有名ですね。

ピエモンテのアルバでのバルバレスコマラソンを走った次の日、ブラというスローフード発祥の地で、スローフード協会認定のレストランで食べたパンナコッタには、本当に驚いた。これが、素材の力だった。

書きたいことは色々あるが、ここでは「パネットーネ」にした。

パネットーネとは、パーネ(パン)+オーネ(大きな)で、大きなパン、という意味のイタリアの甘いパン。

ミラノの伝統菓子で、クリスマスの銘菓である。クリスマス前の待降節に、各家庭で焼かれ、クリスマスシーズンには親族や友人に配るのが習慣。この時期にしか食べられない。

そう、この時期にしか食べられないというのが味噌で、それが私のイタリア魂を猛烈にかきたて、それが、コロナ前最後の渡伊となった。

そのことについて、640字ー800字で書こうと思う。

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「パネットーネ」について書きたい。パネットーネとはイタリア、特にミラノ発祥と伝えられる伝統菓子で、クリスマス前の待降節に各家庭で焼かれ、親族や友人に配られる習慣がある。私は2019年12月、このパネットーネが食べたくて、イタリアに行った。それまでイタリアの渡伊は2年で7回、しかし、クリスマスに行ったことはなかった。シーズンが近づくにつれ、名前を聞いたことがある程度にすぎなかった菓子パンが、イタリア人にとって如何に重要なものか、如何に心躍らせるものであるかが伝わってきて、食べずにはいられなくなってきた。

この菓子パンは、調べるほどに面白い。まず、発酵種は、生後すぐ初乳を飲んだ後の子牛の腸内から採集した物質と小麦粉を混合したものという。一体どうしたらそんなものが見つかるのか、それさえもわからないほど謎めいている。作り方も非常に難易度が高く、手がかかる。Youtubeで動画を何十個も見たが、それぞれに異なり、味は想像の域を越えていた。しかも、イタリア人はいさぎよく、パネットーネはクリスマスにしか食べない。それならば今行くしかないのではないか。2週間後のイタリア行きチケットを取った。マンマをはじめ、友人に連絡を取り、大忙しのクリスマスの家族行事に混ぜてくれと頼んだ。そして、大好きな会社の出社最終日、大泣きしながら挨拶回りをすると、その足で羽田に向かい、飛び立った。

待っていたのは、ロスバゲと、温かい家族、そして、パネットーネの山だった。ロスバゲでロスした生活用品を揃えるために入ったスーパーも、街のパン屋さんもケーキ屋さんも、力を振り絞るように、パネットーネが天井まで積まれていた。そして、家に着くと、大きなクリスマスツリーの下に沢山パネットーネが置いてあって、それはもう、言葉にならない輝きを持っていた。お正月の鏡餅のように、パネットーネは特別だけどもの珍しくはない。それに感激する私に、皆感激していた。

さて、ディナーが始まった。魚の日のイブらしい前菜が並ぶ。ゲストの私には「Mangia(食べなさい)」の嵐。続くプリモは鰻のパスタ、セコンドは魚の塩蒸しだった。今から思うと、どれも非常にクラシックなプーリアの家庭のクリスマスだ。美味しくて、温かくて、幸せだった。

ところが、20時間のフライト、ロスバゲのゴタゴタ、大家族の中での緊張、温かい室内に程よく回るワイン、半分わからないイタリア語の渦の中で、いつの間にか眠っていた。24時が近づいてきたようだ。優しい声で「パネットーネとシャンパンをどう?」と言われると、飛び起きた。24時になり、祈り、プレゼーペ(キリストの人形)を回し、合唱し、シャンパンを開け、パネットーネの包みをひらいた。その時の感動をなんと表そう。ナイフが入れられ、ふんわりとしたパネットーネを一切れ頂いた。甘くて軽いシャンパンが口の中ではじけ、パネットーネの控えめな甘さが口に回る。この場面に身をおいているそのこと自体に感動で身震いした。本当に美味しかった。

これを皮切りに、次の日も、その次の日も、色んなパネットーネを食べた。〇〇からもらったもの、集まった親戚が持ってきた地元のもの。どれもアルティジャナーレ、工房の手作りだ。柔らかさも、中身の具材も、味も、どれも違う。その個性を見ると、文化の厚みを見ているようだった。

あれから1年。コロナになり、この時を最後にイタリアに行っていない。コロナ禍ではじめたオンライン料理教室「イタリアのマンマ直伝パスタクラス」は人気を得て発展し、クリスマスシリーズの最終回、12月21日にパネットーネのレッスンをした。さすがに発酵種までは無理だけど、イタリアのクリスマスの伝統を伝えるべく、12人満員のクラスで、心を込めてパネットーネを教えた。オンラインで粉を形にするのは難しい。みなさん苦労しながら作ると、全国津々浦々の家庭で、パネットーネが生まれた。美味しい、と感動の声を沢山頂いた。これも、何かのめぐり合わせなのだろうか。

今年2021年の12月には、どんなパネットーネを食べるのだろうか。小さな夢を1つ1つ叶えていけるだろうか。

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おっと、1900字になってしまった。
800字にして、提出します。

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