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友情が巡る農園:OBUSE Meguru Lab.工藤陽輔さん

快晴の秋空が広がる小布施。駅前で借りた自転車に乗って、果樹道を駆け抜け、アポイントメントのある農家さんへ向かった。爽やかな笑顔で出迎えを受けると、コップにオレンジ色の液体がコップに注がれた。「発酵液」という。「何が発酵しているでしょう」と聞かれ、「リンゴ」と答えると大当たり。秋晴れの乾いた空気に、田園の真ん中で笑い声が響いた。

今回、お話を伺ったのは小布施で野菜と果樹を育てる「OBUSE Meguru Lab.」の工藤陽輔さん。彼の農業の原点にある「友情」が、今も彼を導いている。

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※この記事は雑誌「1番近いイタリア2021秋」掲載記事です


なぜ農業の道へ

自分はもともとサラリーマンをやっていたのですが、巡り合わせで7年前、ここ小布施の地で就農しました。

大学のラグビー部の同期で、仲が良かった親友の実家が、小布施で有機農業をやっていました。その親友とは職場も近く、卒業後もずっと親交があったのですが、彼が癌になってしまいました。その時、彼は出来るところまで今の仕事を続けるか、小布施の実家に帰るか、考えた末に、自然に囲まれて良い食べ物を食べたら少しでも元気になるのではないか、と小布施に帰りました。

それで、彼が小布施に行った後、彼の育てた野菜を送ってもらっていたのですが、その野菜の美味しさにびっくりして。彼のもとに通っているうちに、小布施で彼と共に農業をやるという選択肢に惹かれ、就農していました。今から7年前のことです。最初の2年は修行させてもらい、5年前に独立して農業を始めました。

友人は五年前に33歳で亡くなってしまったのですが、その彼から野菜畑と果樹園を引き継ぎました。彼が成し遂げられなかったことを自分が少しでも、という想いはありますね。

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微生物へのこだわり

さっき飲んでもらった発酵液も、実は、大学で微生物の研究していたその友人らが開発したものです。今、自分が行っているのはいわゆる「微生物農法」ですが、自分がこだわっているのは、微生物が元気に活動してくれるための環境作り。

屋号は「OBUSE Meguru Lab」、少量多品種栽培で、「ラボ」として色んな「実験」をしつつ、何が微生物にとって一番良いのかを毎年それぞれの作物から学んでいます。色々条件を振りながら遊びをもたせながらトライしてるのですが、でも植えたらあとは微生物がなんとかしてくれる。そのための環境作りをするのが自分の仕事です。

肥料の循環

微生物に最適な環境を模索する中で、地域での肥料の循環を作るようになりました。

例えば、隣のこだわりの養鶏場から鶏糞をもらって、肥料を作る。その肥料で育った野菜は、力強い野菜の味がして本当に美味しい。その中で出荷しきれない野菜をまた鶏に与える。鶏は力強い野菜を食べて育ち、その生きた糞がまた肥料になる。

こうして地域の中で肥料の循環が起こって、無農薬で美味しい野菜を作ることができています。これからは環境配慮の農業がもっと広がると良いなと思っていますが、まずは自分がそのモデルにならなくてはですね。

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雨降って地固まる

今まで最も困難だったことの1つは、2年前の大雨でしょうか。ここはもともと稲作地帯で水が貯まりやすかったこともあり、畑が水没して池になってしまいました。当然、何も植えられない。でもその時は、自然には逆らえないから、なるようになる、と思っていましたね。待っていたら水は引き、また農業を始められました。

以前、沖縄の農家さんが「台風はエネルギーが不足している土地に刺激を与えに来てくれる。だから、台風の翌年が最も豊作なのですよ」という話をしていました。偶然は必然ということでしょうか。大雨に見舞われた時は、先が見えなくなりましたが、でも振り返れば、まさに「雨降って地が固まる」とは本当なのだな、と思いますね。

人や社会が元気になるような農業がしたい

自分が目指しているのは、やはり食べた人、そして社会全体が元気になってほしい、というのが1番ですね。そんな想いもあって、日々畑で作業する時は、話しかけるように、命を届けるような気持ちで作業しています。全部は心の持ちようですね。

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ありがとうございました

畑やリンゴ園をまわりながら、あっという間に過ぎた和やかな時間。それでも、最後に目標を聞いた時の「人や社会が元気になるような野菜を育てたい」という言葉には、確かな説得力があり、目には力強い輝きがあった。彼は一人じゃない。天からの温かい眼差しが注がれ、今日も野菜たちは元気に収穫を待っていた。

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OBUSE Meguru Lab.について

OBUSE Meguru Lab.
代表:工藤陽輔
住所:〒381-0206
長野県上高井郡小布施町北岡439-1
電話:026-400-1171
WEB:https://haruakodo.wixsite.com/keifu

11月21日「小布施の畑で、今年一番丁寧に朝ごはんを五感で味わおう!」

11月21日には、小布施の工藤さんの畑で、採れたて野菜で朝ごはんを食べながら、工藤さんの人と地球に優しい農業の話を聞くイベントが行われます!

小布施の野菜をたっぷり使った、今年一番丁寧な朝ごはんを、畑の真ん中で五感を使って味わってみませんか?

詳細こちら:
https://notteke-obuse.com/program/learn/nougyou2110/


「1番近いイタリア」について

この記事は雑誌「1番近いイタリア2021秋号」からの抜粋です。


雑誌「1番近いイタリア」とは

日本の食材でイタリア家庭料理を楽しむ季刊誌です。

毎回、日本の小さなユニークな生産者を取材し、彼らのストーリーと共に、イタリア料理を楽しみます。

コンテンツには、エッセイ、イタリア本の書評、イタリア紀行、論考が入り、イタリアの食を切り口に「豊かな食」「丁寧な暮らし」を綴ります。

「2021秋号」のテーマは、長野県小布施町のカブ×ピエモンテ州の食卓

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