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チャレンジがあるから面白い:上州百姓「米達磨」山口俊樹さん(「1番近いイタリア」2021年夏号)

関東平野の北端、照りつける日差しを受け、「ぼくの夏休み」というタイトルでも付きそうな、ノスタルジックな緑の田園風景が広がる土地にその農家があった。小道を入って辿り着くと、ガレージの中のベンチで冷えた手作り梅ジュースを頂く。

今回はお話を聞いたのは、上州百姓「米達磨」の山口俊樹さん。
サラリーマンのキャリアから一転、群馬県藤岡で有機米作りを一から始めた作りての、等身大の想いを聞いた。

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※この記事は「1番近いイタリア2021年夏号」からの抜粋です。
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なぜ農業を?

自分はもともとは大学院まで行って学者になろうと思っていました。文化人類学で祭りの研究をしていて、フィールドワークで祭りに関わる人々の話を聞きに行くと、皆さん祭りのことは沢山話すのに、普段の仕事についてはあまり話したがらない。その頃からサラリーマンに対する疑問があって、サラリーマンを知らずにいるのもどうかなと思い、社会科見学のつもりで自分も一度サラリーマンとして働いてみることにしました。

就職して1年で「これは自分が長くいる場所ではない」と思いました。そこで、将来どう生きていこうか考えた時に、先の見えない今の時代、一次産業に立ち戻るのが一番可能性が高いと思ったのです。

もともと食べるのも好きで、母方の実家が北海道の農家だったので、近からずも遠からず、というところで農業をやることに決めました。

なぜお米?なぜ有機で挑戦?

お米があれば飢えないですよね。2008年に米作りをやる事に決めて、全国10箇所以上まわって研修先を探して、2年間研修受けた後、群馬で新規就農しました。

有機栽培は当時からのこだわりです。なんとなく農薬に対して抵抗があって、でも自分は使うのに人が使うことは批判できないでしょう。また、あまりやっている人がいなさそうだったので、有機でやることに決めました。

現在、所有地の100%有機で行っている農家はほとんどいません。収穫のリスクや、作っても売れない可能性があるからです。

それから、人間って基本的に新しいことをしたくないのですよね。特に稲作は水の問題があるので、自分だけ他と違うことが出来ず、保守的になる傾向があります。農協出荷だと最終的には他の人の米と一緒になって売られるので、頑張っても報われないという構造もあります。

その中で、私自身は有機の認証機関で働いた後、研修先を見つけていきました。有機は、売り先を自分で探さなくてはならないから大変です。最初は出来る範囲で売っていましたが、結婚して妻が販路を拡大してくれています(笑)有り難いですね。

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今年9期目ですね。今までの一番の困難は?

やはり一年目が一番大変でしたね。成功体験がないので、お米がとれるのか心配で、寝る間も惜しんで水を見たりしていました。

ようやく軌道に乗ってきて、雑草がほとんど出なくなったのでほぼ無除草で来たのですが、6年前から水不足で断水が始まり、3年前から7月の天候不順で収量が落ちてきました。私が営農する地域はもともと水が豊富でないようで、有機稲作における基本技術「深水管理(※)」が難しくなってきました。それで、現在は、深水以外の有機稲作の技術を模索しています。

(※)水を深く張ることで特定の雑草を抑えることを言う

そんな中で大切にしていることは?

「面白い」が自分の中のキーワードです。チャレンジがあるから面白い。

農業では自分ではどうにも出来ないことが多いです。だから、与えられた状況下で何がベターかを考えます。答えは一つではありません。自分が置かれた土地でこれが最適解らしい、というその手応えを大切にしています。

本来麦作地帯である群馬で、麦作を活かしながら米を栽培し、大豆を作る。穀物栽培にこだわる中で、水が豊富な水田単作地帯にはない別の営農形態の可能性を追求することで、価値の再発見に繋がると考えています。米麦大豆がなければ和食は成立しませんからね。そして、それを次の世代に渡すところまでが自分の仕事と考えています。

読者の方に向けて、メッセージを!

「美味しいもの食べてハッピーになろう」

自分は、美味しい、嬉しい、楽しいというのをモットーにしています。これからも皆さんが「おっ」と思ってくれるものを世に出したいと思っています。

ありがとうございました!

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※この記事は「1番近いイタリア2021年夏号」からの抜粋です。
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