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かつての同級生と絵本を作ることになった話

 28歳になった私は、かつての同級生と一緒に絵本を作ることになりました。
今日はその過程を書いてみようと思います。

この蒼くて広い世界に
無数に散らばった中から
別々に二人選んだ糸を
お互いたぐり寄せ合ったんだ
(中略)
二人で「せーの」で引っ張ったんだ
大きくも小さくもなりすぎないように
力を込めたんだ

Aimerさん『蝶々結び』歌詞より一部引用



 その子との出会いは13年前。真新しいパリパリの制服に身を包んだ高校の入学式の日。当時はお互いまだ15歳。そこから13年後の未来で、一緒に絵本を作る未来があるだなんて思ってもいませんでした。




15歳の私にとって、衝撃だったその子

 その子とは高校3年間でクラスも部活も同じでした。さらに高校3年生になってからの部活では私が部長になり、その子が副部長に。だから朝の教室から放課後の部活動まで一緒で、それに比例して過ごす時間も話す時間も長くて。


その子は出会ったときから、とっても絵が上手で、隣の席に座って受けていた美術の時間などでも「そんな風にアイデアを形にするのか!」と目から鱗な発想ばかり。当時からオリジナルキャラクター(以下、オリキャラ)のイラストをたくさん描いていて、私もその子が描くオリキャラが大好きになり、よくノートの表紙や教科書の裏表紙などにお願いして描いてもらったりしていました。

休み時間などに、黒板にその子がイラストを描き始めると、黒板とチョーク一本しかないのに、まるで黒板いっぱいにそのキャラクターたちの世界が彩るようで。その無から有を生み出す瞬間、0 → 1 を無限に生み出すことのできる才能に惚れ惚れしてしまったのです。それらの素晴らしさを目の当たりにした、当時15歳の私は「これが才能っていうものだ」と衝撃を受けました。


そこから私はその子のイラストのファンになりました。


さらに、一人の友だちとしても当時から一緒に居るときは居心地が良くて、また、なによりもその子のことをとても信頼していました。思春期は、特に友情や人間関係で揺らぎが大きい時期だと思います。成長した大人ほど配慮無く、なんでも言葉や態度で真正面からぶつけてしまうし(そういう大人もたまにいるけれど)、平気で人を軽く扱ってしまう危険な年代。


そういった思春期を経ることで、大人になる前にいろんなことを学ぶ機会なのだとは思うのですが、漏れなく私も当時、仲が良かった友人からキツく当たられたりすることが増えて人間関係で悩んでいた時期でした。

ただ、そんな荒(すさ)んだ私の心のなかでも、その子への信頼は揺らぐことがなく確固たるもので安心できる救いだったのです。当時の私は一種の行き過ぎた考えというか、成績が落ちたら塾の先生にも嫌われるんじゃないか、こんな発言をしたら友人たちから仲間外れにされるのでは、なんて思春期特有(?)の悩みの最中(さなか)にいました。

自分の口から発する一語一句に対して怖くなるほど、周りの人からの目を気にし続けていた当時の私が、唯一「安心しても、大丈夫なんだ」と思える救いがだったのかもしれません。その子の優しさや気遣い、引いては存在に救われていたのだと当時を振り返って思います。



信頼に変わるその子の優しい行動

 確固たるその信頼を構築したのは、その子が私に届けてくれた衝撃的な出来事がきっかけでした。その衝撃的な出来事とは、その子の心遣いと優しさをちゃんと行動で示してくれたもの。



 高校一年生のとき、私は短期留学のプロジェクトで約2週間海外へ行くことになりました。でもその間も、高校での授業は当たり前のように流れていくので、授業が受けられず2週間の遅れをとってしまうという現実が。先生からは「帰ってきたら周りの子にノートを見せてもらうなりして、遅れを取り戻すようにね」なんて言われ、帰国してから授業の遅れにリカバーできるだろうかなんて不安が残りつつも私は生まれて初めての短期留学へと旅立ちました。


そして、短期留学を終えて2週間ぶりに登校。全教科がそれぞれ2週間分も遅れているので、誰にどの教科のノートを見せてもらおうか、借りて持って帰ったら迷惑だろうから職員室でコピーを取る? でも、それも枚数が多くて時間がかかるし先生に怒られそうだな……なんて思いながら、自分の机に座りながら一人でモジモジしていると、その子が近づいてきて「ハイ」と一冊のノートを手渡してくれました。



ノートの表紙には教科名や名前などは書かれておらず、私が日頃から大好き!  と言っていたオリキャラのイラストが描かれているのみ。イラストを見せてくれるのかな? と思いながら、視線で促されるままにノートを開いてページをペラペラ見てみると、板書が書かれていました。でも、ページによって教科が違う。

ん? なんの教科のノートだ? と思いながらページを捲っていると「それ、欠席して居なかった分の板書ノート」との言葉。思わず私は「ええっ!? まとめてくれたの!? ありがとう!移し終わったらすぐ返す!」と返事。

すると彼女は「や、ノートごとそのままあげるよ。そしたらゆっくり書き写せるでしょ? そのために1冊のノートにまとめたんだもん」


……当時の私は感動しすぎて言葉が出ませんでした。

こんなにも相手を思いやって実際にこうして行動で示してくれる人がいるんだという、生まれて初めての衝撃だったのです。


さらに、帰宅してから全部のページをあらためて見てみると、ページの端々には吹き出しで励ましてくれるオリキャラたちの姿がありました。板書の内容を指差したオリキャラが「ここテストに出る!!」「先生が大事って言ってたよ」「期末試験では、これの記述問題が出るらしい!」なんて私に教えてくれるのです。ノートのなかでたしかに息づくキャラクターたち、それらが描ける才能、そしてそれを人のために活用する優しさ。


それら全部ひっくるめて、当時15歳だった私は衝撃を受けたのです。



「今度、会わない?」という久しぶりのLINE

 長いようで短い、短いようで長く濃い高校3年間は終わり、卒業の日に。その子と進路は別々だったので大学も違うところへと。当時はそこまでSNSも盛んではなかったので、お互いの近況は数年ぶりに会った際にまとめて知るぐらいでした。ただ、それぞれ別の環境で生きていることもあり、徐々に疎遠に。


お互いが社会人になってからは「久しぶりに会いたいね〜」なんて言い合っているうちに、私は仕事のストレスなどが重なってSNSの個人アカウントを全消去。その子もSNSのアカウントを消去していたので、お互いの近況もなにも分からないままさらに数年間が過ぎました。


私自身が前職のストレスで外出できない日々が続いていた時期があったり、相手にも同じような時期があったりで、久しぶりに会いたいなと思っても、なかなか再会できずにいました。


季節が巡って、私も外出できるようになり、前向きな考えが溢れるようになってきたちょうどそんなころ、唯一(ゆいいつ)繋がっていたLINEに通知が。

「もうちょっとしたら会えそうなんだけど、久しぶりに、会わない?」


私はそのとき、やっと巡り巡ってタイミングが来たのだと、直感的に思いました。




久しぶりの再会

 最後に会ったときを明確に思い出せないほど振りの再会。お茶をしながら話題は昔の話や最近の話を行ったり来たり。何時間喋っても、会っていなかった数年間を埋められないほどお互いに喋り続けていました。

私は会社を辞職してからは独立して仕事をしていて、その子もフリーランスのプロイラストレーターとして働いているため「フリーランスあるある」を気軽に共有できて、とても楽しく充実した時間に。


私は会社員として働いていた日々や、企業の下請けとして多種多様な業務をこなしていたフリーランス時代の話をして、その子はイラストで請け負った案件や実例をたくさん見せてくれました。


そんな風にお互いの仕事内容を話し合ううちに、ふと私の口から出た「私たちが持っているスキルを掛け算して、なにか一緒にやってみない?」という言葉。


まるで告白にも似た感情で、その子の表情や反応を恐るおそる窺う私。


その子は少し驚きながらも「楽しそうかも」と承諾してくれました。


そこから、二人が持つ一番強いスキル同士を掛け算した「絵本づくり」がスタートしたのです。



絵本づくりの今後

 絵本自体の完成は初夏ぐらいを予定しています。完成させるからには、世に出して多くの人に届けたい。その子のイラストの素晴らしさをもっと多くの人に知ってほしい。


勝手な思いですが、ずっとその子のイラストのファンである私が素直に持つ想いです。強火ファンが、もっとこの作品(イラスト)を多くの人に知ってほしい! という原動力に似ているかも知れません。


ただ、出版に関してツテも当ても一切ない状況です。だから、出版という夢を実現させるには、コンペや応募にかけてどこかしらの出版社さんから出してもらう術しか思いつかない。だから、私はその子との大事な作品を世に出したい一心で色んな人や出版社さんにプレゼンしようと計画しています。


文章と構成は私が担当、そしてイラストはその子が担当。何度も打ち合わせを重ねて、あーでもないこーでもないと勉強の日々。お互いが離れていた期間に仕事で培った経験を最大限に生かしながら、いろんな児童文学作品から絵本を読んで話し合って。



どこかの誰かの心がちょっとでも軽くなるような、そんな癒しの作品を作るんだと覚悟を決めたあの日から。



高校時代にふわっと抱いていた淡い夢「この子と一緒になにかやってみたい、そうだ、絵本とかどうだろう」そんな夢の実現に向けて精進していきます。


なにも分からない、知らない、やったこともない。でも、やってみたいから。とりあえず、やってみる。


どんな絵本が完成するのか、いまから楽しみです。

もし、いやきっと、出版まで行き着いた暁には、なにかしらで告知しますね。

この記事を読んで、そういえば久しぶりにあの子に連絡してみよう、なんて心に浮かぶキッカケになったら幸いです。

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