見出し画像

年金が少なければ生活保護を受ければいいというは本当か…。

はじめに

 近年、年金に関する不安なニュースを目にする機会が多いです。

 中でもこの4月から年金額が0.4%下がるという報道には、シニアだけでなく現役世代からも不安な声があがりました。

 物価があがる一方で、年金という収入が減ってしまうのでは老後に不安を抱くのも無理はありません。

 そんな中、「年金がもらえないなら生活保護を受ければいい」という意見もあります。

 本当に年金が少ない人は生活保護の対象になるのでしょうか。

 今回は生活保護の4つの条件や、自治体職員を経験した筆者が見た「公的支援の壁」について考えてみたいと思います。

生活保護には4つの条件がある

 生活保護とは、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、その自立を助長する国の制度です。

 しかし誰でも受けられるわけではなく、「資産や能力等すべてを活用してもなお生活に困窮する人」が条件となります。

 くわしく見ていきましょう。

1.資産の活用
 預貯金や不動産などの資産がないことが条件になります。

 収入が途絶えても土地や家屋がある場合、それらを売却して生活費に充てることが必要です。

2.能力の活用
 働くことで収入を得られる方は、生活保護ではなく労働することが求められます。

3.あらゆるものの活用
 日本にはさまざまな公的制度があり、助成金や給付金が受けられる仕組みになっています。

 活用できる制度がある場合は、生活保護よりもそちらが優先されます。

4.扶養義務者の扶養
 家族や親族に援助を受けられる場合、まずは親族間で助け合うことが重要となります。

 以上の4つを活用しても収入が最低生活費に満たない場合、生活保護が受給できるのです。

年金生活者でも生活保護は受けられる?
 年金収入がある場合でも、先ほどの4つの条件に当てはまれば生活保護の申請をすることはできます。

 公的年金は人によって受給できる金額が異なるため、最低生活費に満たないことは十分に考えられます。

 例えば厚生労働省の「令和2年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」(最新データ)から、厚生年金受給額の分布を確認してみましょう。

厚生年金の受給額ごとの人数(国民年金を含む)
1万円未満:10万511人
1万円以上~2万円未満:1万8955人
2万円以上~3万円未満:6万6662人
3万円以上~4万円未満:11万9711人
4万円以上~5万円未満:12万5655人
5万円以上~6万円未満:17万627人
6万円以上~7万円未満:40万1175人
7万円以上~8万円未満:69万4015人
8万円以上~9万円未満:93万4792人
9万円以上~10万円未満:112万9158人
10万円以上~11万円未満:111万9158人
11万円以上~12万円未満:101万8423人
12万円以上~13万円未満:92万6094人
13万円以上~14万円未満:89万7027人
14万円以上~15万円未満:91万3347人
15万円以上~16万円未満:94万5950人
16万円以上~17万円未満:99万4107人
17万円以上~18万円未満:102万4472人
18万円以上~19万円未満:99万4193人
19万円以上~20万円未満:91万6505人
20万円以上~21万円未満:78万1979人
21万円以上~22万円未満:60万7141人
22万円以上~23万円未満:42万5171人
23万円以上~24万円未満:28万9599人
24万円以上~25万円未満:19万4014人
25万円以上~26万円未満:12万3614人
26万円以上~27万円未満:7万6292人
27万円以上~28万円未満:4万5063人
28万円以上~29万円未満:2万2949人
29万円以上~30万円未満:1万951人
30万円以上:1万6721人
 生活保護の基準となる最低生活費は、年齢や居住地、家族構成によって異なります。

 例えば東京都八王子市の賃貸住宅に1人で住む75歳の場合、基準となる金額は約12万円です。

 上記の資料からは、年金収入が12万円に満たない方が一定数いることがわかりますね。

 労働の有無や親族構成等によっては生活保護を受けられる可能性が十分あります。

「生活保護だけは受けたくない」という人も

 最低限の生活を保障するのが生活保護。働くことができず養ってもらえる親族がいないのであれば、生活保護を受けるというのはシンプルな構造です。

 しかし実際には、心理的なハードルを抱える方も少なくありません。

 自治体職員として役所に勤めていたときは、「税金や保険料が支払えない。

 でも生活保護だけは受けたくない」と言われる方が少なからずいました。

 生活保護に対するイメージは人それぞれですが、心理的なハードルを抱える方は多いものです。

 また不正受給などの報道もあり、他人の目が気になる方も多いでしょう。

 しかし生活保護とは国民の権利であり、公正に審査されるものです。厚生労働省でもTwitterで「生活保護の申請は国民の権利です。」と呼びかけています。

 年金生活者の場合、その年齢から働くことができず、親族もいないことは十分に考えられます。

 生活保障として生活保護があるということは知っておきたいですね。

「生活保護があるから年金に加入しなくていい」はNG

 ただし、「最悪の場合は生活保護があるから」と年金の支払い義務を怠るのは話が別です。

 年金保険料の支払いは国民の義務なので、支払わなければ督促料や延滞料が加算されます。

 悪質な場合は差し押さえの対象となることも。

 確かに年金の額が少ないことに不安は感じるものですが、貯蓄と違い一生涯受給できるという心強い側面があります。

 また遺族年金や障害年金などの保障機能もあるため、「生活保護があるから年金はいらない」と言えないのです。

 年金の額に不安を抱えるのであれば、その分自分でしっかり資産を築いておきましょう。

 自立を促す国の制度は利用しつつ、老後に向けた資産を築くことができれば、人生はより豊かになりますね。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?