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夫婦2人で月20万円稼ぐ 小さな仕事を続け安心老後に…そして60・70代の方の労働力をお借りしよう

かつて物議を醸した老後資金2000万円問題では家計収支で月5万5000円の赤字が30年続いた場合が試算されていたが、今後もっと多くの金額が必要になることが予想される。

「確かにシニアの生活は厳しさを増している」。
実際、今のシニア層の貯蓄額はどのぐらいなのか。

資金は1000万円で十分

日銀が事務局を務めている金融・家計情報の広報団体、金融広報中央委員会の調査によれば、60代の平均貯蓄額は2317万円。
70代は2360万円だ。
平均値は極端に貯蓄の多い人や少ない人に数値が引っ張られやすい。
実態に近いのはデータを小さい順に並べて真ん中にくる中央値。
60代で1270万円。70代では1200万円だ。
つまり、60〜70代の約半分は貯蓄額が1200万円以下ということになる。
平均値の半額に満たない金額だが、「過度な心配は不要」と専門家は語っている。

麻生太郎氏がいった老後資金2000万円問題は高齢者の中でも働いていない無職世帯のデータに基づいたもの。
定年後も定期的に少し稼けば、老後資金として2000万円も用意する必要はなくなる。
半分の1000万円で十分だろう!
こう分析する根拠は、老後の家計収支の赤字額にある。
下の年齢層別の家計収支の分布を見ると、赤字になっているのは65歳以上の無職世帯だ。
赤字の額が最も多いのは65〜69歳で、月平均6万4000円。
夫婦で少し働いて世帯で月10万円も稼げば、赤字を解消できるだけでなく、貯蓄で老後資金を増やすことも可能だ。

住宅ローンや教育費の支払いが終われば、家計も楽になる。
夫婦で1人10万円ずつ、世帯で月20万円稼げば、60代が老後資金の大きな貯め時に変わり、相当な余裕が生まれる。
仮に70歳まで働いた場合、それ以降の家計収支が赤字になったとしても、金額的には大きくない。
高齢になれば外出も減り、支出の額が減っていくからだ。
年齢層別の家計収支の分布を見ても、70歳以上は徐々に赤字が縮小し、85歳以上は黒字に転換している。
70歳から84歳までの累計赤字は630万円。
老後資金は1000万円あれば十分に足りる計算になる。
老後は大きく稼ぐ必要はない。
小さな仕事で無理なく安心して老後を過ごせる。

労働環境はシニアに追い風

では実際のところ、シニア層はどのぐらい稼いでいるのか。
60代前半の就業率は、求職中なども含めると約7割。
60代後半では約5割という。
「企業の定年後の継続雇用は大半が65歳までなので、そこまで働く人が7割はいることになる。
その後、無職で年金だけの生活に入る人は2割。
アルバイトやフリーランスなどの形で働き続けるシニアの方が多い。
気になる年収の額は定年後に大きく下がる。
60〜64歳の年収の平均値は357万円。
中央値は280万円だ。
65〜69歳になると平均値で256万円。
中央値で180万円まで下がる。
この金額を多いと感じるか、少ないと感じるかは人それぞれだろう。
だが年収180万円なら、単純に12カ月で割ると月収15万円。
65〜69歳の無職世帯における家計収支の平均赤字額、6万4000円を十分にカバーできる。

現役時代のような収入は望めないが、慢性的な人手不足もあり、えり好みしなければ仕事に困ることはまずないだろう。
さらに賃金の水準は2015年頃から上昇し続けている。
短時間労働者の平均時給は21年には1263円まで高まっており、高齢者でも収入を得やすい環境が整ってきたと言えるだろう。

主戦場はノンデスクワーク

では、シニア層は実際にどんな仕事をしているのか。
体力を考えれば、デスクワークを希望する人も多いだろうが、現実は難しい。
企業はなるべく年齢の若い人を雇いたいので、年齢が上がるほどデスクワークが中心の企業勤めは難しくなる。
実際の仕事先として多いのは、飲食や販売などのサービス業や工場、清掃や警備などの"ノンデスクワーク"だ。
人手が必要な現場の仕事は慢性的に働き手不足に陥っているため、シニアでも雇われやすい。
現役時代の実績や役職を生かそうとしても、そうした仕事はない。
再雇用後の職探しでは頭を切り替える必要がある。
いくらシニアで働く環境が整って、働けば老後が楽になると分かっても、定年後にアルバイトで働くことに抵抗感を抱く人もいるだろう。
働かずに暮らせるだけの資産を持つ人をうらやましく思えば、つらくなる気もする。
シニアはイヤイヤ働いてはおらず、幸福度は現役時代より実は高いと続ける方も少なくはない。
こうした実態を裏付けるデータを見ていこう。
下のグラフは、リクルートワークス研究所の調査で、「幸福である」と回答した人の割合を年齢別に分布したものだ。
就業者と無職の人も含めた全体とで比較した。
これを見ると幸福度は50歳が最も低いことが見て取れる。
特に50歳の就業者の幸福度は全体と比べても低く、仕事で受けるストレスの高さがうかがわれる。

だが、それより上の世代では年齢が高まれば高まるほど、幸福度が上昇していく。
さらに60代後半から70代前半では、就業者の幸福度が全体を上回り、働いているシニアの方が無職のシニアよりも幸福度が高いことが分かる。
定年後は、就業者も非就業者も同様に幸福度は高い。
少なくとも、働くことが定年後の幸福度を押し下げるとは言えない。
とはいえ、前述したように再雇用が終われば、短時間の小さな仕事で少額の収入を得るケースが主流になる。
果たして物足りなくはないのか。
仕事そのものに対する満足度も気になるところだ。
別の調査で仕事に対する満足度を調べたところ、入社まもない20歳前後では4割を超えていた。
その後は徐々に下がって、現役時代は35%前後で推移する。
しかし、これが60歳を過ぎると45%を超えてその後はどんどん上昇。
70歳では59.6%が仕事に満足していると回答したようです。
短時間の小さな仕事が主流になるにもかかわらず、シニア層で満足度が高くなっている。
この点については、仕事の負荷が下がってストレスが減ることが大きいのではないか考察する。

小さな仕事が日本を救う

さらに次のようなデータもあり、日本の経済活動の全体像を国際比較が可能な形でまとめている内閣府の統計「国民経済計算」のデータを基に、各年齢層の労働者が経済全体に対してどのくらいの付加価値を生み出しているかを数値化したものだ。
07年と19年を比較して、12年間で各年齢層の経済貢献度がどれだけ変化したかを調べた。

結果を見ると、30代以下の若い世代の貢献度が12年間で低下した一方で、60代以上では逆に貢献度が高まっている。
60歳以降が創出した経済付加価額の合計は、23兆4000億円。23年度の国家予算の2割に相当する規模だ。
このデータを受けて、国の推計では、日本の人口は50年にピーク時の8割まで減少し、総人口に占める高齢者比率は37.7%に達する。
小さな仕事であっても、一人でも多くの人が定年後も長く働くことが、日本社会の持続の支えになるのは間違いないと考えるだろう。


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